鹿毛康司、モダンエルダーを目指す #10
心を動かす「エモマーケティング」の本質とは? Z世代ビジネスパーソン・今瀧健登氏が語るマーケターに必要な「プレゼント思考」
「モダンエルダー」という言葉を知っていますか? 若者に耳を傾けて新しいことを受け入れながら、エルダーとしての力も発揮する「職場の賢者」のことを指します。日本を代表するマーケターであり、クリエイティブディレクターでもある鹿毛康司氏がモダンエルダーを目指して、様々な若手にインタビューしていく企画です。
鹿毛氏は「過去うまくいったことも、今ではうまくいかないことがあります。自分としては、思考能力はまだまだ大丈夫だと思っている一方で、時代との何らかのズレを修正し続けなければいけないと、恐怖を感じているんですよ」と語ります。本連載では「若者に教えてもらう」をテーマに、時代とビジネスの勘どころを探っていきます。
第8回は、僕と私と 代表取締役の今瀧健登氏が登場。今瀧氏は、自身もZ世代のひとりとして、同じZ世代の仲間と、Z世代に向けたマーケティングの企画提案を行っています。同社には、Z世代向けのマーケティングに課題を抱える企業から多くの相談があり、花王が展開するヘアケア商品のパッケージデザインや、TOEIC公式TikTokのショートドラマ制作、その他イベント企画の支援などを手がけています。前編では、同社が採用している「ジョブ型雇用」の組織形態や、アウトプットを前提としたインプットの重要性、Z世代向けの企画の特徴について紹介しました。後編では、今瀧氏が提唱する「エモマーケティング」を実現するためのポイントと、差別化する上で重要な価値とは何かについて鹿毛氏との対話を通じて紐解きます。
鹿毛氏は「過去うまくいったことも、今ではうまくいかないことがあります。自分としては、思考能力はまだまだ大丈夫だと思っている一方で、時代との何らかのズレを修正し続けなければいけないと、恐怖を感じているんですよ」と語ります。本連載では「若者に教えてもらう」をテーマに、時代とビジネスの勘どころを探っていきます。
第8回は、僕と私と 代表取締役の今瀧健登氏が登場。今瀧氏は、自身もZ世代のひとりとして、同じZ世代の仲間と、Z世代に向けたマーケティングの企画提案を行っています。同社には、Z世代向けのマーケティングに課題を抱える企業から多くの相談があり、花王が展開するヘアケア商品のパッケージデザインや、TOEIC公式TikTokのショートドラマ制作、その他イベント企画の支援などを手がけています。前編では、同社が採用している「ジョブ型雇用」の組織形態や、アウトプットを前提としたインプットの重要性、Z世代向けの企画の特徴について紹介しました。後編では、今瀧氏が提唱する「エモマーケティング」を実現するためのポイントと、差別化する上で重要な価値とは何かについて鹿毛氏との対話を通じて紐解きます。
鹿毛康司が考える「優秀な人の三箇条」
鹿毛 最近、何か困っていることはありますか。
今瀧 日々の仕事で困っています。企画を考えるときにどう差別化していくか、とかです。

僕と私と 代表取締役
今瀧 健登 氏
横浜国立大学卒。Z世代に特化した心を動かす企画・マーケティングを専門とする企画会社「僕と私と株式会社」代表取締役。ハッピーな共感をフックに購買行動に繋げる「エモマーケティング®︎」を提唱し、さまざまな行政やメーカーのプロモーションをワンストップで展開する企画屋。小瓶のお酒「クライナー」を販売する株式会社シトラムの執行役員CMOも務める。著書に『エモ消費』(クロスメディア・パブリッシング)『Z世代マーケティング見るだけノート』(宝島社)など。X:@k_hanarida
今瀧 健登 氏
横浜国立大学卒。Z世代に特化した心を動かす企画・マーケティングを専門とする企画会社「僕と私と株式会社」代表取締役。ハッピーな共感をフックに購買行動に繋げる「エモマーケティング®︎」を提唱し、さまざまな行政やメーカーのプロモーションをワンストップで展開する企画屋。小瓶のお酒「クライナー」を販売する株式会社シトラムの執行役員CMOも務める。著書に『エモ消費』(クロスメディア・パブリッシング)『Z世代マーケティング見るだけノート』(宝島社)など。X:@k_hanarida
鹿毛 差別化しなきゃいけないのですか。
今瀧 差別化したほうがいいと感じています。ただ、その差別化をどれほど価値のあるものにするかが非常に重要だと思います。
鹿毛 その考え方は、素晴らしいですね。人と違うことをすれば差別化になるというわけではなく、差異を価値化することが必要なんですよね。世の中には価値のない差別化もありますからね。
今瀧 ありますね。たとえば、ニッチに寄りすぎて自分しか喜ばないというものですね。
鹿毛 そのとおりですよ。このような機能をつけると差別化できます、他はやっていないですと言うと、企業内では案が通りやすいんですよ。でも、そこには価値がないんですよね。Z世代の企画でも差別化することでの価値化を意識し続けることが大切だと思います。

かげこうじ事務所 代表 マーケター クリエイティブディレクター
鹿毛 康司 氏
2020年、エステー クリエイティブディレクター(役員)を退任して現在にいたる。 早稲田大学商学部卒、ドレクセル大学MBA。現在は森永乳業、ほけんの窓口、バーガーキング、ベストコ(塾)会社など様々な企業のマーケティングとクリエイティブの支援をおこなっている。同時にグロービス経営大学院(MBA)教授として社会人学生にマーケティングを指導。2021年には著書「心がわかるとモノが売れる」で、マーケティングに必要なインサイトと人間理解論を実務家の視点で発表した。今年7月26日悩める若手マーケターを応援するためにと「無双の仕事術」を発表。マーケティング立案、特に時代に新しいコンテンツマーケティングやファンマーケティングも得意とする。クリエイターとしてもCMプランナー/監督/コピーライター/作詞作曲などもこなす。2011年の東日本大震災直後に手がけた「消臭力CM」は好感度日本1位を獲得)。ACC Gold、マーケターオブザイヤー(MCEI)、WEB人貢献賞など受賞。
鹿毛 康司 氏
2020年、エステー クリエイティブディレクター(役員)を退任して現在にいたる。 早稲田大学商学部卒、ドレクセル大学MBA。現在は森永乳業、ほけんの窓口、バーガーキング、ベストコ(塾)会社など様々な企業のマーケティングとクリエイティブの支援をおこなっている。同時にグロービス経営大学院(MBA)教授として社会人学生にマーケティングを指導。2021年には著書「心がわかるとモノが売れる」で、マーケティングに必要なインサイトと人間理解論を実務家の視点で発表した。今年7月26日悩める若手マーケターを応援するためにと「無双の仕事術」を発表。マーケティング立案、特に時代に新しいコンテンツマーケティングやファンマーケティングも得意とする。クリエイターとしてもCMプランナー/監督/コピーライター/作詞作曲などもこなす。2011年の東日本大震災直後に手がけた「消臭力CM」は好感度日本1位を獲得)。ACC Gold、マーケターオブザイヤー(MCEI)、WEB人貢献賞など受賞。
今瀧 僕から鹿毛さんに質問させていただきたいのですが、鹿毛さんから見て優秀な人の三箇条とは何ですか。
鹿毛 やらない理由を言わない人。準備をたくさんする人。すぐにやる人。つまり、今瀧さんですね。
今瀧 いやいや、恐れ多いです。
鹿毛 みんなやらない理由や、やれない理由を言うんだよね。僕もジョブ型雇用がやれない、やらない理由を自分の中でつくって、結局やらなかった。やればよかったと思っています。今やればいいんだけど、やる気になっていないな。
エモマーケティングは「プレゼント」と同じ
鹿毛 では、前編で話した「エモマーケティング」について話しましょう。そもそも「エモマーケティング」とは、どのようなマーケティングなのか教えてください。
今瀧 僕は、エモマーケティング®︎を「経験」×「ハッピー」×「コミュニケーション」だと定義しています。要するに、「プレゼント」とほとんど一緒なんです。
この人は、これまでこういう経験をしているから、こういうモノをあげたら喜んで、こんなふうに言ってくれるだろうなと考えることが、ほぼエモマーケティングなんですよ。

加えて、心理学的には自分にお金を使うよりも、他人にお金を使う方が幸福になると言われています。理論上は、プレゼントが増えれば増えるほど、自分も他人もハッピーになっていくし、消費の理由にもなります。そう考えると、日本でももっとプレゼント市場が大きく厚くなるとおもしろいなと考えています。
そうなれば、マーケターはみんなプレゼントを意識し始めるじゃないですか。ということは、基本的なマインドセットが「人をどう幸せにするか」ということに変化していくので、今度はマーケット全体の質が上がると思っています。
鹿毛 マーケティングは、プレゼントスピリッツだということだよね。先ほど言っていた「経験」×「ハッピー」×「コミュニケーション」を、ひとつずつ定義してもらえますか。
今瀧 「経験」は言葉どおり、経験しているかどうかということです。自分が経験していないものは想像できない、自分ごと化できない、共感しづらいという部分があります。
「ハッピー」は、それをもとに自分や他人が幸せになるかということです。「コミュニケーション」は、UGC(ユーザー生成コンテンツ)や消費者同士の会話をイメージしていただけるとわかりやすいかなと思います。
鹿毛 その3つは、人の心を動かす企画を立てるための基本姿勢みたいなものですか。

今瀧 人の心を動かすためのトリガーというか、企画を考える最初の段階で非常に重要になるものだと思っています。
特に現在は、機能による差別化が限界に近づいていますし、情報量が多すぎるので素早く情報処理をしなければならない状況になっていて、パッと見で好きか嫌いかを判断するようになっています。そうなると、エモの要素がすごく重要になってくるんです。
鹿毛 僕は宗教家ではありませんが、とある宗教家が、人間は95%が心で動いていると言っていたことがあります。人間の行動の5%が顕在意識で、95%は潜在意識なんだと。潜在意識とは、仏教で「煩悩」と言われるものです。死に対する煩悩ですね。
つまり、人間はエモで動いているわけです。エモマーケティングは、この煩悩にどのように触れようかということなんだと思います。