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新・消費者行動研究論 #02

誰に買ってもらえれば商品がヒットするのか、新時代の先端層とは【慶應義塾大学 清水聰】

前回の記事:
「SNSの普及で、消費者の意思決定プロセスが循環型になっている」慶應義塾大学 清水聰教授

SNSの普及で、新たな先端層研究が必要

 SNSの発達とともに、そこでの発言が消費者の購買行動に影響を与えるようになってきた。商品によっては、マス媒体を通じた従来型の広告よりも効果が高い場合もあり、多くの企業がSNS上のバズマーケティングに関心を寄せている。

 ただし、SNS上の情報がすべて企業にとって味方になるとは限らない。間違った情報や否定的な情報も、残念ながら数多く存在している。企業は、それらSNS上の投稿内容についてとやかく言うことはできないが、少なくとも正しい情報を信頼できる消費者にきちんと拡散してもらう努力をする必要がある。特に新製品は、俗に言う「先端層」が発信したのかどうかが市場に受け入れられるカギになる。

 先端層の研究は、20世紀初頭から行われている。よく知られたところでは、その人の意見が多くの人に影響する「オピニオンリーダー」、新製品を真っ先に購入する「イノベーター」、市場の達人と呼ばれる「マーケット・メイブン」、そしてインターネット登場後に脚光を浴びている「インフルエンサー」などが挙げられる。

 オピニオンリーダーは、先端層研究で最初に導入された概念であり、もともと選挙の投票行動への影響の研究からスタートしている。イノベーターは、新製品普及の観点から注目されるようになった概念で、真っ先に新商品を試すような人々である。マーケット・メイブンはあまり馴染みがないかもしれないが、情報通でさまざまな商品に精通している評論家で、世の中のトレンドがわかる人とされている。インフルエンサーは、主にインターネット上で発信力のある人のことを指し、ある商品を自らが用いた感想などを書くことで、その人のファンに対して影響を与える。子どもが将来になりたい職業として挙げるYouTuberも、インフルエンサーの一種である。
 
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 先端層の研究は、それなりに成果をあげているが、欠点もある。たとえば、オピニオンリーダーは、ある特定の商品カテゴリーしか判断ができず、汎用性は高くない。イノベーターは、真っ先に新しいものを購入・使用することだけに意義を見出すため、その商品やサービスの良し悪しをきちんと判断して購入・使用しているとは限らない。マーケット・メイブンは評論家であり実際に購買するわけではないので、その発言に責任がない。加えて、これら3つの概念は、どれもインターネット登場以前の理論であるため、そのままSNS上での発信には応用できない。インフルエンサーは、良くも悪くも“人頼み”の戦略であり、その人の人気に左右されるため、リスクが高いのが問題である。

 そのような状況下で、私が提唱しているのが「情報循環層」である。これは前回お話しした「情報循環型意思決定プロセス」に依拠した新しいタイプの先端層であり、正しい情報をきちんと伝達できる人のことを指す。

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