マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか #06
行動が先で、言語化は後。マーケターが見過ごしがちな事実
2020/12/01
- 前回の記事:
- マーケターは、人の根源的欲求を見落としていないか
言語はすごい、けど。
「口から先に生まれたような子だから・・・」
私の生まれ育った地域では、おしゃべりな人のことをそう表現していました。なんとなく、あざけるような、しかし、どことなく親しみも込めて。
引っ込み思案で口下手な私は、そんな人たちを見ると、いつもすごいなあと素直に思っていたものです。
みんながみんな、そんなに口達者ではないにしても、「言語」はすごい存在ですよね。言語のおかげで、時間・空間を超えて情報を残したり伝達したり、さらには物事を抽象化して新しい概念をつくり出せるのです。
言語ベースの思考ができるのは、数多くの動物の中でも、おそらく人間に限られます。言語が人間の思考にとって重要であることは、私自身も含めて多くの人の認めるところでしょう。
ですから、消費者に言葉で情報を伝えて説得することや、消費者の言葉をもとにマーケティング戦略を考えることは、大変重要なことのように思えます。
しかし、そこは根暗で天邪鬼な私です。たしかにとても重要であることは間違いないとは思うのですが、一方でたくさんの落とし穴が潜んでいることに注目してしまいます。
因果関係の誤りが起こるかもしれない
たとえば、スーパーマーケットでお総菜のから揚げを手にとると、なぜか言い訳してしまいます。「いやあ、あまりに美味しそうだったから」。
あるいは、「自分は天邪鬼だから、ついつい逆のことを言いたくなってしまう」など言い訳をすることもあります。
しょうもない例で、すみません。でも、これらは少し考えると原因と結果が逆のような気がします。思わず手に(口に)したくなるような食べ物を「美味しそう」、ひねくれた性格のことを「天邪鬼」と言語で表現しているだけで、たぶん当の本人の思考過程として、それらを理由にそれぞれの行動や発言をしたわけではないでしょう。
なのに、そうやって言語化すると、なんとなく分かったような気になってしまうので要注意です。言語によるラベル付けは、行動や性格特性の理由ではなく、結果であることも多いです。なのに、いつの間にか因果関係が逆転してしまう。
それらを消費者の「声」として拾って、そこから理由を掘り下げていっても、入口から間違っている。だとすると、それをもとにコミュニケーションしても、うまくいかないことが多そうです。
この話をすると、「だから定量調査が大事よね」という人がいますが、そういう問題ではありません。調査結果が数字で出てくるから客観的に見えるのかもしれませんが、出どころは質問に対する回答ですから、根本的には大差がなく、むしろいい加減な調査票を使うと、余計にマズくなる可能性さえあるでしょう。
それにもかかわらず、「『〇〇%の顧客がこう答えました』というのが一番上司を説得しやすいんです」という発言をした人までいました。それも、ひとりや二人ではありません。いったい何のために仕事しているのかと思います。