SNS・消費行動から見えてくるアラサー女子のココロ #23

すぐに消えるトレンドに疲弊するのはやめよう。「マイノリティデザイン」澤田智洋氏インタビュー

 

「小さな物語」から生まれる、持続可能なアイデア


 「ゆるスポーツ」をはじめとして、澤田さんが出すアイデアは、“育っていく”のが特徴だ。「ゆるスポーツ」には今も新しい競技がいくつも生まれ、NECの顔認識技術を活用して楽しめる「顔借競争」など、活用されるシーンは広がるばかりだ。

 澤田さんに話を聞いていくと、“長生きするアイデア”には「小さな物語」からはじまること以外にも理由があった。トレンドを追いかける強者の戦いはいつも「競争に勝つこと」が目的になりがちだが、誰かの弱さに向き合った事業は“解決”がゴールとなる。だからこそ、長期を見据えた企画としてアイデアが世の中に生まれ落ちる。そして、じわじわとしかし力強く育っていくのだ。

 「たとえばメルカリの黎明期には、多くのプレイヤーがフリマアプリビジネスに参入しましたよね。そういうトレンドの中で仕事をしていると、悠長でいられないですよね。他社より1ミリでもUIを良くして、広告費をかけて、どこよりも早くテレビCMを展開して、みたいな。でも、私がしているのは、先駆者がいない領域なので、急ぐ必要がないんです。それに打ち明けることで、競合が出てきてスポーツが苦手な人でもできる別のスポーツが生まれるなら、私も救われるからそれでいいと思うんです」

 澤田さんの本の後半では、さらに“持続可能なアイデアのつくり方”が詳しく書かれている。以下はその一部である。

 “アイデアを出す(着想)だけではなく、そのアイデアにいろいろな人を巻き込み(着火)、アイデアを形にし(着地)、そしてアイデアを育て続ける(着々)。この4つの「着」が伴なうような、つくり方を探しました”

 「小さいものは、大きくなっていく。だから、続けることが価値だと思っているので、サステイナブルという考え方も大事にしています。私は、一度はじめた企画をほとんど止めていないんです。細々とでも続けて、持続的にしています」

 このマイノリティデザインという考え方は、澤田さんの価値観を大きく変えたという。

 「私は昔、スピードを非常に重視していたんですね。とにかく『すぐに納品してやる!』みたいな。なおかつ強いアイデアを求められていました。たとえば、旬のタレントを3人キャスティングしようか、大物に曲を書いてもらおうか。しかし、それは納品してすぐに終わってしまいます。”Speed、Strong、Short”が、昔の私の中心にあった『3つのS』でした。だけど今は、スモールに始めて、スローにして、サスティナブルを目指す。”Small、Slow、Sustainable”、これが今の私が掲げている『3つのS』なんです」
 
世界ゆるスポーツ協会

 以前、私が”トレンドよりも自分自身へ視点が集まっている”という記事を出した 所、たくさんの人に読まれ、多くの共感のコメントをもらった。多様性についても、記事にした。世の中はどんどん、大きな物語から、自分だけの小さな、しかしリアルな物語に視点が集まっているのかもしれない。

 “「弱さ」から始まる楽しい逆襲”。

 第3章のサブタイトルにつけられている言葉だ。

 コロナという“Black swan”の登場によって、これまでなりふり構わず進行し続けていた、ガチガチに固まった世界観が変わろうとしている。これまでの常識をゆるめて、新たな時代をつくっていくのは、“自分の小さな弱さ”からはじまった革新かもしれない。
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