マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか #09

一度に処理できる情報は4つまで。短期記憶の”容量”からマーケティングを考えよう

前回の記事:
人の「視覚情報処理」 の特徴をマーケティングで効果的に活用する方法
 

短期記憶(ワーキングメモリ)の役割


 脳の働きを考えていると、感心させられることが多い一方、もう少しなんとかならないのかと感じることもあります。個人的には、その例のひとつに短期記憶の容量の少なさがあると思います。

 料理の手順の検討や、商品の選択肢の比較など、日ごろ私たちが何かを「考える」ときには、必ず情報をアクティブな状態で脳内のどこかに保持しなければなりません。

 目や耳など感覚器から入力される情報のほかに、長期記憶に保存されている情報も、いったんそこに引っ張り出されてきて、組み合わせ・処理されて、何らかのアウトプットが導き出されます。

 短期記憶は、この処理に使われるための一時的な情報のバッファのような存在なので、保持より「処理」の側面を強調して、「ワーキングメモリ」と呼ばれることもあります。長期記憶が将来的に使われる(かもしれない)のに対して、短期記憶は今まさに使われるためにあるのです。

 そのバッファの容量がとても小さいというのは、由々しき事態です。もちろん消費者の意思決定や行動にも大きな影響を持つでしょう。そこで今回は、この短期記憶(ワーキングメモリ)をテーマに話を進めていきましょう。


 

「マジカルナンバー4」とは?


 まず容量が”少ない”といっても、いったいどれくらい少ないなのでしょうか。これに関して、古典的には、7±2という数字がマジカルナンバーと呼ばれていて、とても有名です。

 これは、ジョージ・ミラーという心理学者が1956年に発表した論文に由来するもので、人間の短期記憶の限界はせいぜい7つのまとまり(チャンクと呼ばれる)くらいであるというものです。

 この数字はあまりにも有名で、今でもたびたび目(耳)にすることがあります。ただ、最近の研究では、実は容量はもっと限られているという証拠が増えてきています。

 特に、2001年にはネルソン・コーワンという研究者によって「マジカルナンバー4」というタイトルのついた論文が発表され、容量の限界は4(±1)チャンクというのがコンセンサスになりつつあります。

 一度に処理できる情報は、おそらく4つ程度が限界。これは、かなり少ないと思いませんか? あの有名なジャムの実験(脚注・記事末参照)なんて、一方は24種類のジャムですから、そりゃあ選択肢が多すぎて処理しきれないのも納得ですね。

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