新・消費者行動研究論 #03
商品をロングセラーブランドに育ててくれる「消費者」の特徴【慶應義塾大学 清水聰】
ロングセラー商品を嗅ぎ分ける力のある消費者は誰?
このような消費者の気持ちを専門的には「感情的コミットメント」と呼び、一時期ブームになった関係性マーケティングの中で発展してきた。感情的コミットメントは、その商品への共感やファン、といった感情的な繋がりで構築されるため、短期間では構築できないとされてきたが、最近の研究では、発売当初から「感情的コミットメントを構築しやすい消費者」が支持した商品は、ロングセラーになりやすいことがわかってきた。
彼らもまた、ロングセラー商品を、発売当初から嗅ぎ分けられる先端層であり、企業によっては、こちらの先端層の方が大事と考える場合もあるだろう。
つまり、新製品の最初の立ちあげに効果のある「情報循環層」だけではなく、ロングセラー商品に育てるための、別の先端層も存在するわけだ。
このロングセラー商品に関係する先端層は、情報発信力もさることながら、ロングセラー商品とはどんなものか、よく知っている点が特徴だ。具体的には、普段の購入や興味を持つ商品群の中に、新商品だけではなく、ロングセラー商品もきちんと入れている消費者である。
このため、新商品を評価する基準も、「情報循環層」が「話題になる」であったのに対して、これらの消費者は違う基準で評価している。筆者は10年以上前から、読売広告社と共同でこの消費者像を探り、現在はインターネットの調査会社であるマイボイスコムに「キキミミパネル」という名称で、これらの人を囲った、調査に対応できるパネルを構築している。
今までの調査からは、この「キキミミ」さんは、普通にコンビニエンスストアに並んでいる商品から、耐久消費財、果てはタレントの評価まで、商品カテゴリーを超えて判断できる人であることがわかってきた。
例えば、彼らがよく購入するブランドは売上が安定していること、自由回答で答えたタレントがブレイクする可能性が高いこと、発売前の新商品のグループインタビューでも、商品のストーリーをすらすら言えること、などである。
気になるキキミミさんのプロフィールだが、男性よりも女性が多く、しかも若い人よりもある程度、消費経験を積んだ人、特にバブル時代に華やかなOL時代を過ごしたと思われる人が多い。一言で言えば「経験値が高い」となるが、瞬時に商品を判断できるようになるには、若い・感受性の強いときの消費経験が大事ということだろう。
以上のように、同じ先端層でも、得意・不得意がある。理想は「情報循環層」の「キキミミ」だが、なかなか数はいない。このため、売上をすぐにとりたいのか、それともロングセラーに育てたいのか、その目的に応じて先端層を、上手く使い分けることが大事だろう。
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