新・消費者行動研究論 #04
購入され始めると、商品の売上が下降してしまう「消費者層」が存在する【慶應義塾大学 清水聰】
先端層だけを追いかければ良いわけではない
SNSでのクチコミ情報を用いて、多くの人が商品やサービスを評価するようになってきた現在、ネット上で影響力のある人が注目を集めるのは当然であろう。芸能人のInstagramやTwitterのフォロワー数ランキングに関心が集まり、YouTuberと呼ばれる、新しいタイプの有名人が登場してきたのも、その傾向を示している。
かつてワイドショーでとりあげられた商品が翌日に売れるのと同じ現象だが、その意味では、SNSは媒体として大きな役割を果たしていると言える。
このため、世の中がSNS上で情報発信を行う先端層に目が向くのは当然で、ネット上では、その話題でもちきりだ。しかし、実際の企業の売上の源泉は、ロングセラー商品や定番商品など既存商品がメインであり、必ずしもSNSで話題になる新製品だけに注目していればいいわけではない。
そもそもSNSで活躍する先端層は移り気で、企業の屋台骨を支えるロングセラー商品や定番商品はあまり購入していない。
そのため、SNSを通じて新製品を広めてくれる上記のような先端層も大事だが、前回示したロングセラーになる商品を発売の早い段階から買ってくれる「聞き耳」的先端層や、実際に自社のロングセラー商品や定番商品を買ってくれている一般消費者層の動向も、企業にとっては大事である。
情報そのものに関心のない「そら耳層」
一般消費者を研究していくと、先端層同様に、情報感度でいくつかの層があることがわかる。前回、示した「キキミミパネル」では、この一般消費者をいわゆるマスと呼ばれる層(むれ耳層)、情報そのものに関心のない層、新しい情報に全く触れず受動的に行動する層の3つに分類している。この中で、既存商品の評価の際に、特に注目するのが「情報そのものに関心のない層」であり、これを「そら耳」層と呼んでいる。
当初は、新しい情報に全く触れない層(「とお耳層」)に注目していたが、何回かの調査の結果、「とお耳」層よりも「そら耳」層の動向の方が既存商品の評価に影響を与え、特に「聞き耳」層の割合との組み合わせでみると、当該商品のブランド力を確かめるうえで有効であることがわかってきた。
具体的には、自社商品の購買層の中で「そら耳」層が増えてくると、その商品の売上が下降するのである。
いくつかの商品カテゴリーで確かめてみたが、自社商品の購買層の中に占める「聞き耳」層の割合が高いブランドは、たとえシェアが高くなくても、安定して売上を伸ばすのに対して、逆に「そら耳」層の割合が高いブランドでは、シェアが高くても、値引きなどのプロモーションで売上を稼いだ結果のシェアであり、ブランドスイッチも頻繁に生じていて、年々、売上が落ちていくことが明らかになった。