マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか #15

消費者インサイトに近づく道。顧客の体験を「自分の潜在意識」に蓄積する

前回の記事:
消費者インサイトにたどり着くには、粘り強い「人間味のある努力」がいる
    

前回までのおさらいと今回のテーマ

    
 このコラムではこれまで2回にわたって、消費者インサイトにまつわる話題を進めてきました。なかでも前回は、下の図を用いて「自分の潜在意識を使って、消費者の潜在意識を探る」というプロセスに注目しました。
     

      
 大雑把に言うと、④の消費者の「潜在意識・長期記憶」を知るために②を使いましょうということ。そして、そのためには②に情報をため込むことと、そこから情報を①に引き出すことの2点が鍵になりそうという議論でした。

 そこで今回は、鍵の1つ目、マーケターの「潜在意識・長期記憶」に情報を蓄積することについて深掘りし、具体的にどうすべきなのか考察していきましょう。
    

消費者体験に関する暗黙知

     
 というわけで今回のテーマ、「自分の潜在意識に情報をため込む」とは、いったいどういうことでしょうか。

 私がイメージしているのは、たとえばスポーツ選手やプロ棋士、あるいはいろいろな分野の職人がスキルを習得する過程です。もちろんそれぞれの歴史や理論などの形式知も重要でしょうが、それに加えて、トレーニングを繰り返して体験して習得したものが、彼らのその能力に大きく寄与することは間違いありません。

 そして、それらは果てしない努力・訓練の裏打ちがあって、いわゆる暗黙知として脳内に蓄積されています。彼らは、その判断や動作ができた理由やプロセスは「うまく説明できない」と言いますが、だからといって単なる天才的なひらめきや山勘ではないでしょう。訓練を重ねた賜物で、意識上では不可能な膨大な情報量を瞬時に無意識に処理できるように脳が変化しているのです。
           

           
 同様に、消費者インサイトに近づくために私が最優先したいのは、顧客の普通の日常を言語を介して論理的に行うのではなく、「体験」として潜在記憶化したいのです。

 消費者インサイトを発見するためには、消費者自身も気がついていない心理や態度に、マーケターが気が付かないといけないわけです。それに関わる要因は、五感を通して生み出される感覚情報や、感情の反応や状態、社会的な関わりなど、多岐にわたるでしょう。

 この段階で、これらを言語化して体系立てるのは現実的ではありません。また、それによって重要な情報を取りこぼすリスクも高まるでしょう。この段階では、説明できなくてもいいのです。各分野のエキスパートでも、大半の場合、自分のスキルはうまく説明できませんが、それでもちゃんと脳内に蓄積されて、うまい具合に使われているのです。

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