マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか #16

自分の潜在意識から消費者インサイトを取り出すための方法

 

再生と再認の違いにヒントがある


 繰り返しますが、蓄積した情報というのは、消費者の体験に関する無意識の記憶です。そして、今扱いたいテーマは、マーケターが無意識の記憶の中から、消費者自身も気がついていない心理や態度を発見するということでした。

 この問題にアプローチするために、少し回り道をして、心理学実験で使われる「再生」と「再認」の違いに着目したいと思います。

 先ほどの「再学習」の例と同様に、第二外国語の単語を学習したとします。しばらくたってから、「覚えた単語をなるべく多く思い出してください」と言ってみると、いくつかは思い出せるかもしれません。

 次に、単語を順に見せながら「この単語は先ほど覚えたものに含まれていたか」という質問をしてみると、先ほど思い出せなかった単語でも、ここでは正しく答えられるものが出てきます。「ああ、これ、さっきは思い出せなかったけど、見たことあるわ」と。

 心理学では、前者の課題のように記憶をそのまま思い出すことを「再生(recall)」、後者のように問われたものが知っているもの(経験したことがあるもの)かどうかを確認することを「再認(recognition)」といいます。

 マーケティングリサーチでも、純粋想起(non-aided recall)と助成想起(aided recall)で広告やブランドの浸透度などを調べることがよくありますね。用語が微妙に違うため、私自身も最初は戸惑いました。

 ともあれ、なぜこんな話をしているかと言うと、「再認」というものに、とても重要なヒントがありそうと思うからです。見せられると、「見たことある」と分かるのに、見せられなければ、意識上で再生はできないのですから、なんだか中途半端な感じですよね。

 これが、冒頭の図の2つの円の重なり(青い斜線)の部分に相当するようなイメージをしています。上述の「再学習」のような完全な無意識でもなく、かといって「再生」できるほど顕在的でもない。



 そして、「インサイト」というのも、なんかそんなような状態のものなのではないかと、少し飛躍してみたくなります。多くの人の心の中にあって、言われてみると「膝を打つ」あの感覚。

 ここで、このシリーズの以前のコラム で述べた、ここでの「消費者インサイト」の定義に言及すると、以下の通りです。
 
 (1) 消費者自身も気づいていない(少なくともうまく言語化できない)、しかし、(2) 多くの消費者の間にすでに共通して存在している購買動機

 気付いていないのに存在していると言うと、先ほどの再認の話しにも共通してくる、なんとなく中途半端な斜線部分に潜んでいそうな気がしませんか?

 だとすると、消費者インサイトに近づくには、消費者の潜在意識に近いものを自身の潜在意識に貯め込みつつ、その中から「再認」や「助成想起」のような形で取り出してくるのが、ひとつの流れとして考えられるのではないでしょうか。

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