行動経済学で理解するマーケティング最新事情 #19

「和風ツナマヨおにぎり」騒動から学ぶ、炎上が避けられない時代になった背景

前回の記事:
なぜ多くの実績を出してきた人が、老害とも取れる行動をしてしまうのか
 

炎上の背景を知れば、対策が立てやすくなる


 冬のお気に入りのドラマは「真犯人フラグ」(日本テレビ系)です。柄本時生さん演じる雑食系YouTuber「ぷろびん」が再生回数の欲しさに無責任な発言をするシーンを見てから「このドラマは面白い」と直感しました。

 全く人気のない「ぷろびんチャンネル」を運営している「ぷろびん」にとって、本ドラマの核である炊飯器失踪事件(相良家失踪事件)は再生回数を上げる(バズる)ために偶然見つけた道具であり、関心が無いからこそ無責任な考察動画を作れるわけです。昨今のSNSを起点とする炎上をよく表しているな、と思います。

 2022年は年始からテレビ番組『ジョブチューン ~アノ職業のヒミツぶっちゃけます!』をきっかけに炎上騒動が起きました。詳細な説明は避けますが、和風ツナマヨおにぎりを「食べてみたいという気にならないビジュアル」と発言したシェフが批判を浴びました。さらに、名前が似ている別人のシェフに対してまで誹謗中傷が起きました。「魔女狩り」は、現代にもあったのか、と驚きました。

 私たちマーケターは、企業のコミュニケーション活動に関わる以上、いつか「炎上の刃」に巻き込まれる可能性が高いでしょう。炎上は避けられないかもしれませんが、どのような構造で起きやすいかを知ることで対策を考えやすいと思います。そこで今回は社会心理学の観点から炎上の背景を読み解きましょう。
 

態度を顧みない「根本的な帰属の誤り」


 炎上が起きるのは、人が何かしら対象について「嫌い」だと思うからでしょうか。それとも、これまで「好き」だったのに期待を裏切られたと感じるから、炎上が起こるのでしょうか。



 そもそも「好き」「嫌い」とは何か、考えてみましょう。個人に対する社会活動や相互的影響関係を科学的に研究する社会心理学(social psychology)において、「好き」「嫌い」は態度であると定義されます。人間の行動の背景には、ある対象への好意、または非好意的な感情や評価的判断に基づいた心理的傾向があると言われています。これを態度というわけです。

 態度は、シチュエーションによって変わります。ファーストフードに対して、とても忙しい時は「ダイエットの天敵だけど、手っ取り早く食べられてスタミナもつきそう」と好意的に受け取るでしょう。逆に時間に余裕がある時は「素早く食べられるんだけど、炭水化物だらけでダイエットの天敵」と非好意的になるでしょう。このように「好き」「嫌い」は表裏一体ではなく、感情が混在していて常に同居しているものなのです。

 加えて、態度と行動は必ずしも一致するとは限りません。好きだから避ける。嫌いだから会う。これこそが人間の抱える複雑さ、多面性、表現のし難さを表しており、落語の『芝浜』のような「好きだからだます」といった態度と行動が成立します。

 ところが、状況によって変化する態度と行動を「矛盾」と正論を振りかざす人がいます。これは根本的な帰属の誤り(対応バイアスとも)と言って、個人の行動を説明するにあたり、気質や個性を重視しすぎて、状況を軽視しすぎる傾向を指します。

 例えば、会議の5分前に必ず集合している人は「真面目な人だ」と判断してしまいがちですが、単に暇なだけかもしれません。ましてや「律儀な人だから、仕事もそうに違いない」と評価するのも、バイアスがかかっているのです。

 冒頭に触れたテレビ番組をきっかけにした炎上も、テレビショーという状況を無視して辛辣な発言だけが文字として流布しました。その結果、あたかも発言や行動そのものが人格のように錯覚した人が多数いたわけです。バッシングを浴びせた人たちは、「芝浜」を見て、夫をだました女房にバッシングを浴びせるんでしょうか。

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