行動経済学で理解するマーケティング最新事情 #22

知らぬ間に嫌われる前に。何度も接触すると関心度が高まる「ザイオンス効果」を味方にしよう

前回の記事:
問題を先送りしがちな人が、失っている大切なものとは?
  先日、データ分析に欠かせない「仮説構築」「仮説検証」プロセスを詳説した『データ分析力を育てる教室』を刊行しました。ありがたいことに販売直後に重版が決まりました。購入してくださった皆さんにこの場を借りて、御礼申し上げます。
 
 さて、『データ分析力を育てる教室』は人生で初めて〆切りを2回も破り、執筆に1年以上もかけた労作です。もっともっと色んな人に手を取って欲しいと思っており、宣伝のためのウェビナーがしばらく続きますし、広告も出す予定です。

 これは、いわゆる「ザイオンス効果(単純接触効果)」で露出回数を増やそうという狙いですが、一方で「またお前か!」「見飽きた!」と嫌われるのではないかと不安を感じます。私と同じように、広告を何度も当ててしまうリスクに悩んでいるマーケターもいることでしょう。そこで今回は、このザイオンス効果についてお話させていただきます。
 

ザイオンス効果の影響と誤解


 大半の人は「馴染みが無いモノ(人しかり、商品・サービスしかり、味しかり)」に対して、心理的には防御の姿勢です。興味を持たない、関心を抱かない、注目しません。ところが、特定の刺激を繰り返し浴びることで、刺激に対する態度が変化します。具体的には「無関心」から「肯定」「興味」「好意」といった反応に切り替わります。これをザイオンス効果と言います。

 テレビCMもそうです。宮川大輔さんと山之内すずさんが登場するPayPayや、米倉涼子さんが登場する楽天モバイルなどのCMが繰り返し放映されるのも、基本的にはザイオンス効果を期待しているからでしょう。

 私も似た経験があります。最初は「若者向けのグループでしょ」と興味が無かったアーティストのYOASOBIですが、何度か聴くうちに「群青」が好きになり、かれこれ1000回は聞いています。YouTube配信では泣きました。これもザイオンス効果です。



 ところで、ザイオンス効果を紹介すると、必ずと言っていいほど「短期間に刺激を浴びさせ過ぎると飽きられるでしょう?」と聞かれます。例えば、先日まで参院選が行われていましたが、選挙カーから繰り返される演説を「うるさい!」と感じますし、何度も表示されるWeb広告に「もー、わかったから!」と感じます。

 しかし、これらは誤解です。選挙カーをうるさく感じるのは、最初から嫌っているからです。もし「推し」が車に乗って「こんにちは~」と声をかけようものなら、急いでベランダに駆け寄るでしょう。嫌っている対象が何度もワーワー言っているから「うるさい!」と感じるのです。

 Web広告も同様です。苦手な画像が何度も表示されれば「わかった!」と感じますし、そもそもデジタルの仕組みに詳しくなければ、理由も分からず同じ広告が何度も表示される事象そのものが「心理的には防御の姿勢」になります。

 すなわち、当たり前ではあるのですが、ザイオンス効果を狙うなら嫌われてはいけません。何度も接触するから嫌われて失敗するのではありません。嫌いなのに何度も接触するから失敗するのです。

 ちなみに、『ブランディングの科学 独自のブランド資産構築編』でも、「過度のブランディングは広告効果を損なう」という神話に対して、オーストラリアでオンエアされた107本の30秒テレビCMを事例に「神話」であることを説明しています。

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