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新・消費者行動研究論 #05

情報感度の高い高齢者ほど、肉体的・精神的な衰えを50代から認識【慶應義塾大学 清水聰】

前回の記事:
購入され始めると、商品の売上が下降してしまう「消費者層」が存在する【慶應義塾大学 清水聰】

イケてる御爺さん、可愛い御婆さんの存在

 現在、盛んに行われている先端層の研究から分かるように、マーケティングはどちらかと言うと、若い人をどう捉えていくのかが中心課題。そのため、高齢者マーケティングと言えば、介護や福祉、医療関係で細々と研究されているに過ぎなかった。

 実際、高齢者を扱った過去の研究では、年齢が上がると情報感度が下がっていくこと、新しい商品をトライしようという気持ちが低いこと、消費が活発でなくなることなど、マーケティングにとっては、あまり好ましい特性を持っていないことが明らかになっており、研究の意義も低いと考えられていた。

 しかし、昨今の先進国での少子高齢化の問題は、そういう悠長なことを言っていられない状況に追いこんでいる。特に65歳以上の高齢者が25%に達し、若い人が消費にあまり積極的ではないわが国では、この問題は切実だ。

 この状況の中で、私が注目しているのが、情報感度の高い高齢者、もっと分かりやすく言えば「イケてる御爺さん、可愛い御婆さん」の研究である。

 高齢者の数が少なかった時代は、「高齢者」を一括りで捉えていたが、国民の25%が高齢者となっている状況では、いわゆるセグメンテーションをしなければ、その実態はわからない。特に、高度成長期やバブル時代を体験した戦後生まれの団塊の世代が、今や高齢者の仲間入りをしている。

 戦争体験者である、その前の世代に比べて、彼らは消費生活に精通しており、その彼らを狙わない手はないだろう。今までの連載で見てきたように、高齢者も「情報感度」という軸でセグメンテーションしてみると、いろいろなことがわかってくる。
 

情報感度の高い高齢者と低い高齢者

 まず、感度の高い高齢者は、そうではない高齢者と比較して、肉体的・精神的な衰えを50代のうちから認識している。たとえば「階段の上り下りが苦しくなった」「目が悪くなってきた」「怒りっぽくなった」などである。「ありのままの自分」を受け入れていることがわかる。

 これに対して、感度の低い高齢者は、そういう肉体的・精神的衰えに気が付かない、あるいは、受け入れられないようで、実際「暴飲暴食を控える」ことはせず、「若い人と張り合う」ことで自己のアイデンティティを保とうとしている。
 
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 一見すると、若い人と張り合って消費をしている後者の方が消費にはプラスだと思われるが、そうではない。

 情報感度の高い高齢者が老後のことを早めに考え、「都心マンションへの住み替え」、「バリアフリーへのリフォーム」など、高額な消費を、まだ資金に余裕のある50代後半、子供が巣立つライフステージの変化のタイミングで行うのに対して、後者は資金の余裕がなくなってから気が付くため、対応ができないのだ。

 また、住みかえる場所も、情報感度の高い人は、中心市街地と回答する人が多く、その後の消費や医療のことを見越した生活を想定しているのに対して、情報感度の低い人は、お金がかからない場所を探す傾向があり、消費性向が非常に低い。

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