トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #12

マーケターは感情と記憶を味方につけよう、最新脳科学から考えるブランドの成長論【ニューロサイエンティスト 辻本悟史氏】

前回の記事:
脳科学が解き明かす、企業と消費者が「価値共創」する方法【ニューロサイエンティスト 辻本悟史氏】
 ソーシャルメディアの普及や発達により、企業からの情報発信だけでなく、顧客による情報発信や評判形成、企業と顧客の双方向的なコミュニケーションを踏まえたマーケティング活動が重要だと言われる時代。そんな「価値共創」の時代に、マーケターはどう価値を定義し、マーケティングの実務に落とし込んでいくのか。この連載では、Facebook Japan マーケティングサイエンス統括 執行役員の中村淳一氏がトップマーケターにインタビューし、そのヒントや考え方を解き明かしていく。

 第6回は、脳科学の研究者としてアカデミアで10年以上にわたって研究に携わった後、ニールセンの社員に転身し、長年の研究で得た知見をマーケティングに応用してきた経験も持つ、ニューロサイエンティスト / That Fig Tree Director / 博士(医学)の辻本悟史氏が登場。Agenda noteでは、脳科学や行動経済学の分野から人間の行動とその背景に迫る「マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか」を連載している。前編では、価値共創を分解し「価値」と「共創」について、脳科学の観点から詳しく聞いた。後編では、人間が意思決定をする上で影響を及ぼすことやエモーショナルと長期記憶の重要性などについて詳しく聞いた。
 

エモーショナルと長期記憶の掛け合わせ


中村 前編で紹介したUGC(ユーザー生成コンテンツ)に関して、人はどのようなタイミングで真似したい、自分も購入したいと思うのでしょうか。

辻本 それは明確で、自分にとっての報酬になるかどうかです。報酬というのは、ざっくり言えば「快」の感情に近づけるかどうかです。
 
ニューロサイエンティスト / That Fig Tree Director / 博士(医学)
辻本 悟史 氏

北海道大学大学院にて博士号取得後、米国国立衛生研究所(NIH)で、脳の仕組みや発達に関する基礎研究に従事。その後、神戸大学准教授、京都大学准教授などを経て、外資系マーケティングリサーチ会社にて、アジア太平洋地域を中心に、コンシューマー・ニューロサイエンスの事業展開に幅広く寄与。現在は、シンガポールのThat Fig Tree社でDirector。

中村 そのために、マーケターは何をすればいいでしょうか。

辻本 当たり前だと思うようなことも多くありますが、たとえば複雑なアプローチよりはシンプル、ネガティブなアプローチよりはポジティブがいいと思います。また、人物が登場しない、ソーシャルの文脈もないというよりは、何かしらエモーショナルな仕掛けがあった方がモチベーションをより効果的に喚起できます。

エモーショナルな要素を取り入れることが必ずしも百発百中で効くとは限りませんが、マーケティング施策やクリエイティブに落とし込む際、成功の確率は高まるというのが経験則です。能動的な参加を促しエンゲージメントを高める例としては、パズルや謎解きは魅力を感じさせる要素としておすすめしています。

中村 それは脳科学的に、どのような理由なのでしょうか。

辻本 明確な理由は分からないものの、「好奇心」は重要な要素だと思います。人間の行動は好奇心に大きく影響され、好奇心に基づく活動は記憶に残りやすいというデータが多く存在します。特に内発的な好奇心に基づいた活動は、満足度が非常に高いというデータもあるのです。人から言われて活動するよりも、自ら活動できるような仕掛けが広告や施策にあることは重要だと言えます。

中村 価値共創は長く続いていくものだと考えたときに、記憶に残りやすいというのは大事なポイントになると思います。マーケターはどんな準備をすればよいのでしょうか?
 
Facebook Japan マーケティングサイエンス統括 執行役員
中村 淳一 氏

慶応義塾大学経済学部卒。現在京都芸術大学大学院芸術修士(MFA)在籍中。2002年に消費財メーカー、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)入社、消費者市場戦略本部に所属。柔軟剤ブランド「レノア」の日本立ち上げのコアメンバーや、かみそりブランド「ジレット」、店舗営業チャネルシニアマネージャーを経たのち、13年からシンガポールにてグローバルメディア、アジア地域ビッグデータ担当のアソシエイトディレクターに着任。17年6月にフェイスブック ジャパン(Meta)入社。マーケティングサイエンスノースイーストアジア統括。他JMAインサイトハブコアメンバー等。

辻本 ここまでエモーショナルな部分を話していましたが、もうひとつすごく重要なことは、「長期記憶」だと思っています。いかにうまく長期記憶に残るようにするかが重要で、エモーショナルな働きかけと長期記憶が掛け合わせられることでブランドが成長します。

記憶にはいくつか種類がありますが、特に重要なのはエピソード記憶です。つまり体験の記憶で、それがエモーショナルな情報と結びついて貯蔵されることによって、このブランドは自分にとって価値があり、次の機会があれば使いたいし、誰かとシェアしたい、おすすめしたいと思ってもらえます。

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