鹿毛康司、モダンエルダーを目指す #03

「愚かなマーケターになるか、真実のマーケターになるか」その境目を鹿毛康司がコーヒーオタクのマーケターと語る

前回の記事:
「魂にしか興味がない」若手なのに大御所と次から次へと仕事ができる秘訣を鹿毛康司氏が学ぶ
 「モダンエルダー」という言葉を知っていますか? 若者に耳を傾けて新しいことを受け入れながら、エルダーとしての力も発揮する「職場の賢者」のことを指します。日本を代表するマーケターであり、クリエイティブディレクターでもある鹿毛康司氏がモダンエルダーを目指して、様々な若手にインタビューしていく企画です。

 鹿毛氏は「過去うまくいったことも、今ではうまくいかないことがあります。自分としては、思考能力はまだまだ大丈夫だと思っている一方で、時代との何らかのズレを修正し続けなければいけないと、恐怖を感じているんですよ」と語ります。本連載では「若者に教えてもらう」をテーマに、時代とビジネスの勘どころを探っていきます。

 第3回は、UCC上島珈琲 マーケティング本部 嗜好品マーケティング部 部長の伊藤佳世氏が登場します。大学卒業後にUCCに入社し、営業を経てマーケティング部に異動。2021年に部長に抜擢され、同社内でも最も重要な嗜好品(コーヒー豆・粉)のブランド責任者とマネージメント業務を兼務しています。自らを“コーヒーオタク”と称する伊藤氏について、鹿毛氏は「真実のマーケターへの道を歩んでいる」と評します。伊藤氏がコーヒーという担当商品の本質価値に気づいた原体験や、仕事に必要なオタクの熱量などについて話を聞きました。
  
 

人生のテーマを「食べ物」にすると、中学生のときに決めた


鹿毛 伊藤さんは、どんなお仕事をされていますか。
 
UCC上島珈琲 マーケティング本部 嗜好品マーケティング部 部長 兼 嗜好品ブランドフューチャーチーム チームマネージャー
伊藤 佳世 氏

2005年入社。営業部に配属後、2008年にマーケティング本部へ。「ゴールドスペシャル」の製品開発などに携わり、R&D本部でも数々の製品の味覚設計を担当。2021年より現職。「UCC GOLD SPECIAL PREMIUM」の開発当初よりプロジェクトを牽引している。コーヒーアドバイザーの資格は入社2年目で取得、2015年にはブラジルのコーヒー鑑定士資格も。CQI認定Qグレーダー。

伊藤 現在は、スーパーで販売しているUCC上島珈琲のコーヒー豆やインスタントコーヒーなどの製品を対象に、商品の魅力を高めるためのブランディングや商品の特徴を精査し向上させる仕事などを担当しています。

鹿毛 伊藤さんは、いつも朝起きて何をしていますか。

伊藤 そうですね。情報番組を見ながらうちの甘いミルクコーヒーを飲んでゆっくりして、頭を目覚めさせてから通勤していますね。

鹿毛 UCCの昔ながらのミルクコーヒーですかね。電車に乗っているときは、何をしていますか。

伊藤 ずっとスマホを見ています。それがルーティンになっていて、無意識にX(旧Twitter)を開きます。

鹿毛 今朝は、何が目に入りました?

伊藤 自分の友人のつぶやきや、好きなお笑い芸人さんのつぶやきを見ていました。バナナマンやスピードワゴンなどのベテランだけでなく若手芸人さんも好きです。先日、行われたお笑い番組「キングオブコント」の反応を見ていました(笑)。

鹿毛 それを見て、何をするんですか。

伊藤 ひとつのテーマに対して、皆がいろいろコメントしているのを見て共感したり、自分とは違う感想を読んで楽しんだりしています。同じ芸人さんが好きだったとしても、こういう見方もあるのかと気付かされたりしていますね。

鹿毛 人によって好きなポイントって違いますよね。ちなみに、お笑い以外だと、何が好きですか?
 
かげこうじ事務所 代表 マーケター クリエイティブディレクター
鹿毛 康司 氏

2020年、エステー クリエイティブディレクター(役員)を退任して現在にいたる。 早稲田大学商学部卒、ドレクセル大学MBA。現在はエステー、森永乳業、保険会社、塾会社など様々な企業のマーケティングとクリエイティブの支援をおこなっている。同時にグロービス経営大学院(MBA)教授として社会人学生にマーケティングを指導。2021年には著書「心がわかるとモノが売れる」で、マーケティングに必要なインサイトと人間理解論を実務家の視点で発表した。マーケティング立案、特に時代に新しいコンテンツマーケティングやファンマーケティングも得意とする。クリエイターとしてもCMプランナー/監督/コピーライター/作詞作曲などもこなす。2011年の東日本大震災直後に手がけた「消臭力CM」は好感度日本1位を獲得)。ACC Gold、マーケターオブザイヤー(MCEI)、WEB人貢献賞など受賞。

伊藤 やっぱりコーヒーですね。私、コーヒーオタクなんです。だからこの会社に入ったんです。

鹿毛 コーヒーオタクなんだ。

伊藤 そうなんです。中学生のときに自分の人生のテーマは「食べ物」にしようと決めて、大学でも食物学科で食物学を専攻していました。

鹿毛 なぜ食べ物にしたかったのですか。

伊藤 結構分かりやすい原体験がありまして。うちは両親が共働きで、平日の朝はいつも忙しくてバタバタしていたのですが、休日は庭にテーブルを出して、朝早くから家族でゆっくり朝食を楽しむという習慣がありました。

そのときに、父親がコーヒー豆をガリガリ挽いてコーヒーを淹れてくれるというシーンがあって。家族で食卓を囲むことがすごく幸せな気持ちにしてくれる、という思いがずっとあるんです。

鹿毛 そのとき、伊藤さんは何歳だったんですか。

伊藤 5歳くらいでしょうか。

鹿毛 パパが大好きな時期ですもんね。でも、5歳だったらコーヒーは飲めないじゃないですか。

伊藤 はい、飲めないですね。でも、良い香りがしますし、サイフォンを使ってコーヒーを淹れている様子を私と兄が「何かが始まったぞ」ってものすごく楽しそうに見ているんです。
  

鹿毛 淹れたコーヒーを「飲みたい」とは言わなかったのですか。

伊藤 言いました。最初の頃はダメだと言われていましたが、小学校高学年で牛乳に少し入れてもらえるようになって、「大人の飲み物を飲んでいる」という感覚でした。

その後、中学や高校に入ってから、朝にカフェオレを淹れて飲むようになりました。

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