社会変動を紐解き、マーケティングで時代を拓く #01

災害発生、そのときマーケターはどう動く? 社会変動と消費者インサイトの関連性を読み解く【LIFULL篠崎亮氏】

 2024年元日。石川県能登地方を中心にM7.6の地震が発生した。まず被災地の方々、関係するすべての方に心からお見舞いを申し上げる。1日も早い復旧を願う。

 本連載は、不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」を運営するLIFULL(ライフル)で、住生活に関する不動産会社や自治体のマーケティング・課題解決支援に取り組む篠崎亮氏が、さまざまな社会変動に伴う消費者や商品・サービスの動向を読み解き、未来を拓くマーケティングのあり方を模索するものである。第1回と第2回は能登半島地震を受けて、今や人々の住生活と切り離すことができない災害に対してマーケターが何をできるかを考え、提言する。

 世界規模の感染症や不況、戦争、災害など。日々、市場での価値創造に取り組むマーケターはこれらに対して何を備え、どんなことができるか。自身も数々の社会変動に対峙しながら時々の消費者動向を観察し、さまざまな現場でマーケティングやブランドの戦略を構築してきた篠崎氏は、「一人でも多くのマーケターが明日に活かせるヒントになれば幸いです」と語る。

 なお、篠崎氏は2月21日に都内で開催される「アジェンダカンファレンス」に登壇。「LIFULL HOME’Sに学ぶ、最適な顧客体験の提供に必要な戦略の極意」をテーマにセッションを行う。
 

頻発する災害、ともに走ってきたマーケター人生


 初めまして。LIFULLの篠崎です。「あらゆるLIFEを、FULLに。」をコーポレートメッセージに掲げるLIFULLは、社会課題解決型企業・ソーシャルエンタープライズです。不動産・住宅情報サービスの「LIFULL HOME’S」は「ホームズくん」でご存知の方も多いでしょうか。「叶えたい!が見えてくる。」をコンセプトに、物件や住まい探しに役立つ情報を、一人ひとりに寄り添い最適な形で提供することで、本当に叶えたい希望に気づき、新たな暮らしの可能性を広げるお手伝いをしています。

 私自身は、映画配給会社やWebマーケティング会社を経て外資・国内の広告会社でストラテジックプランニングディレクターとして経験を積んだ後、LIFULL に入社。LIFULL HOME’Sのブランドリニューアルのプロジェクトマネージャーを務め、現在は住生活関連事業者の支援に携わっています。

 この間、米同時多発テロから東日本大震災、コロナ禍など、災害(人災を含みます)や社会変動が起きるたびに、そこに追随する社会と消費者インサイトの変化を、足を使った観察とデータ分析から考察し、事業の設計や施策に活かしてきました。
 
LIFULL / LIFULL HOME’S事業本部 マーケティング部 クライアントマーケティングユニット コミュニケーショングループ・グループ長
篠崎 亮 氏

 2020年LIFULLに入社。不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME'S」のブランドリニューアルプロジェクトのプロジェクトマネージャーを担当。その後、BtoBマーケティングの専門部署を立ち上げ、グループ長として不動産会社・自治体など住生活に関わる事業者の事業支援・課題解決を管掌。以前は、外資広告グループ・Interpublic Groupのブランディングエージェンシーや国内の広告代理店でストラテジックプランニングディレクターとして、商業・流通ビジネス、消費財メーカー、カメラ、スポーツメーカー等の大手クライアントのマーケティング支援や広告コミュニケーションを担当。

 本年の元日に発生した能登半島地震について、被災地の皆様、関係者の方々にお見舞い申し上げます。私自身、2011年の東日本大震災後に東京から現地を訪れ、被災地の方からお話を伺った経験があります。従姉妹が岩手県石巻市の近くに住んでいたというのが訪問の直接の理由でしたが、マーケターとしてそれからどんな仕事をするとしても、被災地を直接見ずして、社会や生活者の変化を語ることはできないと考えたからです。大学で学んだ社会学的フィールドワークの知見も持って、中長期的にマーケターとして貢献する可能性を探れればと思いました。
  
東日本大震災後、筆者が撮影した被災地の様子

 実際には思うように被災地の方と話せず、歯がゆい思いをした記憶があります。ただ印象に残ったのが、被災地から少し離れたお店で食事をした時、お店の方から「ごめんなさい。来てくれてありがとう」と言われたことです。災害は、人や土地を物理的に傷つけるだけでなく、まるで「生きてきた誇り」を奪われるような深い喪失感を生むのだと、突き付けられた気がしました。

 その後、広告会社でブランド戦略を提案する中で、震災後の生活者のインサイトは「誇り・自信・プライドの渇望」と定義付け、企業の商品やブランドはその再生に貢献することで支持を得られると提案しました。

 コロナ禍では総合デベロッパーが全国に展開する大型商業施設のマーケティングや商品開発、広告コミュニケーションの支援を手掛けました。顧客の足が遠のいた商業施設を、どう再起させるか。世の中の動きと販売管理データ、消費者行動データを照らし合わせながら、戦略シナリオの設計から実行まで携わりました。

 LIFULL に来てからは、LIFULL HOME’Sのブランド戦略の立案者として、被災者の相談に応じてくれる不動産会社探しのサービスや、災害に対して安心できる物件探しをお手伝いするサービスとも連携しています。そしてLIFULLは今回の能登半島地震に際しても、被災者への無償提供を目的とした物件情報の提供依頼に対応したり、避難所に設置できるインスタントハウスを提供したりするなど、自社にできることに、少しずつですが、取り組んでいます。このあたりは第2回でご紹介します。

 正月はこれから始まる1年の幸せを願って家族と過ごす、日本人にとって大切な行事であり、特別な文脈を持ちます。このような日に能登半島地震に見舞われ、現在も多くの方が過酷な状況におられることは、被災地以外に住む人にとっても、自らの価値観や行動に何らかの影響を与えることは疑いありません。今後の社会や消費者の動向を、マーケターとしても注意深く見つめる必要があります。

 この20年ほどは、「100年に一度」とされるほどの天災が「頻発」と呼んでもおかしくないほど起こり、私たちに日常の再生と回復の時間を許さなくなっています。これはマーケティングの在り方とも切り離して考えることはできません。ここからは、過去の事例から災害に対して起こった消費者インサイトや、企業のブランド戦略、対消費者コミュニケーションの変化を振り返りたいと思います。

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