社会変動を紐解き、マーケティングで時代を拓く #02

頻発する災害、マーケターに求められる「備え」とは?【LIFULL篠崎亮氏の提言】

前回の記事:
災害発生、そのときマーケターはどう動く? 社会変動と消費者インサイトの関連性を読み解く【LIFULL篠崎亮氏】
 頻発する災害や社会変動に対してマーケティングは何ができるか。不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」を運営するLIFULL(ライフル)で、住生活に関する不動産会社や自治体のマーケティング・課題解決支援に取り組む篠崎亮氏が、さまざまな社会変動に伴う消費者や商品・サービスの動向を読み解き、未来を拓くマーケティングのあり方を模索する本連載。

 第1回では、2024年元日に起こった能登半島地震をはじめ、コロナ禍や熊本地震、東日本大震災、さらにはリーマン・ショックや米同時多発テロまでさかのぼり、災害に対したときの社会経済や消費者、企業の動きを振り返った。

 第2回の本稿では、価値観やコミュニティの多様化により、画一的なマーケティング戦略が通用しなくなった現代の消費者動向を俯瞰し、災害に対してマーケターが備えるべきものについて、篠崎氏が携わるLIFULL HOME’Sの事例などから考察する。
 

多様化する消費者とコミュニティー、過去事例は通用しない?


 現在、幅広い世代が利用するLINEや、若者に人気のInstagram、TikTokはどれも、東日本大震災以降に流行したソーシャルサービスです。それ以前のmixiやFacebookのように、「SNS」という言葉が意味する「新たなネットワークの広がり」を作ることを目的とするのではなく、好きなインフルエンサーを眺めつつ、身近な仲間内で行うコミュニケーションが展開されています。
 
LIFULL / LIFULL HOME’S事業本部 マーケティング部 クライアントマーケティングユニット コミュニケーショングループ・グループ長
篠崎 亮 氏

 2020年LIFULLに入社。不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME'S」のブランドリニューアルプロジェクトのプロジェクトマネージャーを担当。その後、BtoBマーケティングの専門部署を立ち上げ、グループ長として不動産会社・自治体など住生活に関わる事業者の事業支援・課題解決を管掌。以前は、外資広告グループ・Interpublic Groupのブランディングエージェンシーや国内の広告代理店でストラテジックプランニングディレクターとして、商業・流通ビジネス、消費財メーカー、カメラ、スポーツメーカー等の大手クライアントのマーケティング支援や広告コミュニケーションを担当。

 一方、オフラインの世界でも、コミュニティのあり方は著しく変化しています。総務省統計局によると、2022年の住民基本台帳で都道府県別の転入超過数(転入者数―転出者数)がプラスになっているのは東京、神奈川、埼玉、大阪、福岡など11都府県にとどまり、残る36県はすべてマイナス、しかも多くは数千年人単位で転出超過となりました。地方の過疎化・少子高齢化は深刻化しています。

 2016年に熊本地震があった当時、熊本県の高齢化率は28.8%で、約3人に1人は65歳以上という状況でした(※)。医療器具の持ち込みやおむつ交換が必要な人は、「周囲に迷惑をかける」といった理由で避難所に入らず、余震が続く中でも自宅に残るか車中泊を選択し、孤立化した問題がありました。今回の能登半島地震でも道路状況が悪く、移動困難のため避難所に入れず、集落に孤立した高齢者がいることがニュースになりました。

 都市部ではコロナ禍をきっかけに、テレワーク推進や、家族との時間を大切にする風潮が強まりました。これもまたコミュニティの変化の一つです。良い悪いではなく、これらオンライン・オフラインに起きている変化は、世代やコミュニティの分断・不干渉を加速しています。その中で、東日本大震災後の「日本文化へ帰属」する意識を狙ったマーケティングを真似しても、機能しづらいと感じます。これほど高頻度で起こる災害を前にすると、「身体を磨く」という提案もうまくいくかどうか、見えないところです。

 では頻発する災害が引き起こす分断・不干渉のような社会変動に対して、現代を生きるマーケターは、どう立ち向かえばいいのでしょうか。 生成AIに上手く問うことで、確からしい回答は得られるかもしれません。しかしAIは過去の一定時期までのトレーニングデータを元にしており、将来の予測は難しく、回答は決して未来の正解ではあり得ません。 それでもマーケターができること。ひとつは、普段からの「備え」だと、私は思います。

※日本老年医学会雑誌 54巻 2 号(2017:4)

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