トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #17

Z世代を取り込むためのマーケティング戦略とは?FinT 代表取締役の大槻祐依氏が考える「文脈」の重要性

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 ソーシャルメディアの普及や発達により、企業からの情報発信だけでなく、顧客による情報発信や評判形成、企業と顧客の双方向的なコミュニケーションを踏まえたマーケティング活動が重要だと言われる時代。そんな「価値共創」の時代に、マーケターはどう価値を定義し、マーケティングの実務に落とし込んでいくのか。この連載では、Facebook Japan マーケティングサイエンス統括 執行役員の中村淳一氏がトップマーケターにインタビューし、そのヒントや考え方を解き明かしていく。

 第9回は、SNSマーケティング事業や、総合フォロワー数100万人の若年層女性向けSNSメディア「Sucle(シュクレ)」を運営し、2023年5月よりベトナムにも進出を行い、おもにSNSマーケティングやZ世代マーケティング事業を展開しているFinT 代表取締役の大槻祐依氏が登場する。前編では、FinTが海外進出する背景から日本と海外のマーケティングの違いを探り、若い世代やZ世代に向けたマーケティングを展開する上で大切な「文脈」などについて詳しく聞いた。
 

SNSマーケティング支援会社として、東南アジアに進出


中村 本日は、大槻さんが考える「価値共創」について、いろいろお聞きしていきたいと思います。まずは、大槻さんの自己紹介からお願いできますか。

大槻 FinTの代表取締役を務めています。当社では、SNSを起点としたマーケティング支援を行っており、クライアント企業の公式アカウントの運用やインフルエンサーマーケティング、キャンペーンなどを手掛けています。また、最近はSNSでの話題化につなげるために、交通広告やWebCMなども一緒に支援させていただいています。

FinTは 2017年3月、早稲田大学在学中に起業しました。パーパスは、「みんなの強みを活かして、日本を世界を前向きに」です。今後の日本は人口減少により市場がシュリンクしていくので、当社としては日本企業のグローバル化をサポートし、世界で勝てる存在にしていきたいと考えています。

というのも、すでに世界に進出している日本企業も多くありますが、それは 販路を拡大させることを強みとしている企業が多いです 。そうした企業は、日本の製品は質が良いから売れると考えていることもありますが 、いまの時代は販路を持っているだけでは韓国や中国などアジアの企業に勝つことはできません。そこでマーケティングが必須になるんです。ただ、現在は海外市場に対してマーケティングを支援できる企業が少ないと感じています。
 
FinT 代表取締役
大槻 祐依 氏

 1995年10月生まれ。早稲田大学の起業家養成講座を受講し、学内のビジネスコンテストで優勝。在学中の2017年3月にFinTを起業。「みんなの強みを活かして、日本を世界を前向きに」というパーパスのもと、SNSマーケティング事業や、総合フォロワー数100万人の若年層女性向けSNSメディア「Sucle(シュクレ)」を展開。主要事業であるSNSマーケティング事業にて、大手企業を中心に累計200社以上の企画、撮影から運用までサポートし、2023年5月にはベトナムにも進出。歌手・AIさんと共同で、SDGsに関するメディアを開設し、共同イベントも開催。ASEAN JAPAN Generation Z Leaders Communityにも選出され、ForbesにはASEANを目指す若手起業家として掲載。

そこで当社は、その第一歩として2023年にベトナムに進出し、現地ではTikTokやInstagramの運用、SNS設計のコンサルティングなどASEAN進出マーケティング事業を始めています。さらに今年中にASEANで追加で進出し、ゆくゆくはASEAN全体でSNSに強みを持てるようになりたいと考えています。

中村 海外進出するにあたり、なぜ最初にベトナムに進出したのですか。

大槻 私自身がシンガポールに留学していたことやチャレンジの余地が大きいことから、グローバルに進出するなら東南アジアがいいなと最初から考えていました。シンガポールやインドネシア、タイなども進出先として検討しましたが、これからマーケットがさらに伸びることや1カ国目としてチャレンジしやすいなどの理由から、グローバル展開の仮説検証の場としてベトナムを選びました。

ベトナムには、すでに現地のメンバーが7人ほどいて、私自身も月に1~2週間は行っています。いまはすごく勢いを感じていて 、ビジネスとしてきちんと成り立つことが検証できています。

中村 マーケティングに関して、日本とベトナムで違いはありますか。

大槻 ベトナムでは、Facebookが主流だと感じています。企業のコーポレートサイトも、イベントの公式サイトも、LPも何でもFacebookページが求められます。

マーケティング活用については日本のほうが進んでいるので、私たちが入り込めています。日本と同じく、ベトナムでも自社のマーケティング戦略の中でSNSをどのようにポジショニングするかが非常に重要になっていますが、まだまだどうすれば良いかわからないという企業が多い印象です。

中村 なるほど。逆に、ASEANから日本を見たときに、どのような機会があると感じますか。
 
Facebook Japan マーケティングサイエンス統括 執行役員
中村 淳一 氏

 慶応義塾大学経済学部卒。現在京都芸術大学大学院芸術修士(MFA)在籍中。2002年に消費財メーカー、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)入社、消費者市場戦略本部に所属。柔軟剤ブランド「レノア」の日本立ち上げのコアメンバーや、かみそりブランド「ジレット」、店舗営業チャネルシニアマネージャーを経たのち、13年からシンガポールにてグローバルメディア、アジア地域ビッグデータ担当のアソシエイトディレクターに着任。17年6月にフェイスブック ジャパン(Meta)入社。マーケティングサイエンスノースイーストアジア統括。他JMAインサイトハブコアメンバー等。

大槻 ライブコマースやECなどは、ベトナムやインドネシアのほうがずっと進んでいますね。TikTokから直接商品を購入できる「TikTok Shop」も非常に伸びていて、ショート動画は日本よりもASEANの企業のほうが使いこなしています。

日本版のTikTokにはまだTikTok Shopの機能はないですが、おそらく日本でも今後は商品を購入できるようになると思います。いまは購買の意思決定をしたり、Amazonまで探しに行ったりしていると思いますが、これからはレコメンドされたものをそのまま購入するようになると思います。そうした購買体験が増えると、人は何を買うべきかがわからなくなるので、自分自身で選ぶことが難しくなるんです。

一方で、日本はまだまだ 、販路が重要な世界です。私たちのクライアントでもそのような企業が多いのですが、TikTokの運用やインフルエンサーマーケティングなど、基本的にはオフラインの顧客と接点があるクライアントのほうが伸びています。日本ではリアルでの買い物にマーケティングが寄っているので、世界の流れと比較すると遅いなと感じています。

中村 オンラインがメインか、オフラインがメインかというのは、国による違いの話だと思いますが、「違う」ではなく「遅い」という表現をされたのが興味深いなと思いました。なぜそう表現されたのでしょうか。

大槻 将来的にはデジタルに最適化されていくと考えているからです。オンライン販売のほうが便利なはずなのに、まだ変化できていないのです 。日本はあまり新しいことやサービスに慣れていないと 感じるので、「遅い」という表現を使いました。

中村 なるほど。それは海外も同時にされている大槻さんならではの視点で、面白いですね。

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