トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #18

Z世代の文脈にどうすればハマる? アサヒビール「夜ピク」の事例からFinT 代表取締役の大槻祐依氏が解説

 

コミュニティづくりに失敗してしまう理由


中村 ファンとコミュニティをつくりたいという企業の担当者は、どうすればいいのでしょうか。

大槻 その商品しか選びません、毎日消費していますというような人がいた場合、それはすでに熱狂的なファンだと言えるので、まずはその人たちがコメントやクチコミを生む仕組みや、さらに熱狂する仕組みをつくることが重要です。



たとえば、SNSなどを通じて、そうした人たち同士がコミュニケーションを取れる状況をつくることで、一緒に出掛けたり、おすすめし合ったりするなど、少しずつサポーターとしての行動ができるようになるんです。

中村 それに取り組もうとしているけれど失敗しているというケースは、何を間違っていると思いますか。

大槻  サポーターの選定でしょうか。わかりやすく言えば、セールのときだけ購入する顧客をファンだと見誤っていたりすると思います。一番大事にすべき人を大事にできていないのかもしれませんね。

中村 サポーターの選定は、何を基準にすればいいのでしょうか。

大槻 定性インタビューなどで、複数回購入したことがあるかないかをヒアリングしていますね。

中村 なるほど。他に間違っていると思うことは何かありますか。

大槻 あとは、設計しすぎてしまうことですね。サポーターであってもひとりのファンなので、その人たちに逐一ディレクションする必要はないんです。商品やブランドを自由に楽しんでもらうことで新しい使い方や楽しみ方が提案できるのに、細かくディレクションしてそれを台無しにしてしまっていると思います。

中村 以前、この連載で音部大輔さんにインタビューしたときにも、「余地をつくってあげるのが大事」とお話をされていました。企業やブランドが決めすぎるのではなく、ファンがデザインやクリエイティビティを発揮できる「余地」を残したほうが、発話が生まれやすいという話だったので、それに似ているなと思いました。



大槻 まさに「余地」をつくることは、その通りだと思います。Z世代は、むしろその余地の中で自分のオリジナリティを出したいんですよね。なので、その余地が必要だということが理解できなければ、伸びないと思います。

具体的には、Mizkanさんの味ぽんをVTuberさんを起用してプロモーションをご一緒させていただいた事例があります。VTuberさんのファンは、配信を見ながらX(旧Twitter)でつぶやく文化があります。それを活かして、ファンに食べたいレシピを投票してもらう参加型の配信企画を実施し、同時接続数が1万2000件を記録し、口コミも2万件以上創出することができました。このように企画を設計しすぎずに、配信自体をファンと一緒に共創できる「余地」をつくることが、熱量の高いコミュニティをつくるポイントだと考えています。

中村 ありがとうございます。では最後に、これから価値共創しようとするマーケターに、アドバイスをお願いします。

大槻 ひとりのマーケターとして商品の強みや伝えたいメッセージを理解し、誰よりも詳しいというのは素晴らしいことですが、これからはユーザーのインサイトや文脈、余地を知らなければダメだと思います。

しっかりと手間をかけてユーザーと向き合い、自社にマッチするデジタルの文脈を使ったSNS発信を行えば、絶対にうまくいきます。トレンドが激しく変化するのでキャッチアップするのは非常に大変ですが、逆にそれができればなぜ売れるのかがわかるし、バズもつくり出すことができるのです。
 
中村 大槻さん、本日はありがとうございました。


 
中村氏の対談後記
いつも記事を読んでいただきありがとうございます。日本のみならずASEAN地域でもSNSマーケティングを支援されているFinTの大槻代表にお話をお伺いしました。特に「時流」や「文脈」と掛け合わせて、マーケティングに取り組んでいくことの重要性についての話は、以前の記事でZ世代向けについてのお話をお伺いした渋谷109lab.所長の長田さんのおっしゃっていた「界隈」という話とも親和性が高いなと思いながら話を聞かせていただきました。もちろんお客様の「文脈」の理解をすることの重要性は昔から変わっていないと思います。例えばファブリーズでは昔、剣道場でサンプリングをしていましたが、それも「文脈」を使ったマーケティングだと思います。一方で、その効果を最大限にするためのデザイン、例えばどのような人を呼び、そして、SNSでの発話や話題化が起きる仕掛けを作るかといったデザインの緻密さは非常に感銘を受けました。大槻さん貴重なお話をありがとうございました。
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