トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #23
新規顧客の獲得が難しすぎる時代の、確度高いアプローチ「ファンベース」【ファンベースカンパニー会長 佐藤尚之(さとなお)氏】
2024/08/26
「ファンベース」の「ファン」に隠された想い
中村 「ファンマーケティング」という言葉もありますが、あえて「ファンベース」と表現しているのが特徴的だと思います。そこに込められた想いとは何でしょうか。
佐藤 「マーケティング」という言葉から、ボクは上から目線の全能感をちょっと感じます。「ターゲットとして狙い定めた人々をこちらの都合のいいように動かしてやろう」みたいな、ちょっと偉そうなニュアンスですかね。でも、ファンは動かす対象ではなくブランドの「味方」であり「仲間」なんです。味方や仲間に対して策を弄する人はいないですよね。ですから、マーケティングという言葉をボクは使いません。そのうえ、そういう態度ってすぐファンに見抜かれちゃうんです。あ、この企業は我々を利用しようとしているだけだな、って。
あと、ベースという言葉は「支持母体」的な意味で使っています。つまり「ファンを支持母体にして売上を安定させる」ということがファンベースの考え方の基本にあるんですね。ファンは売上の大半を支えているから、ファンのLTV(顧客生涯価値)を重要視して、まずはベースを安定させましょう、と。そのうえでそのベースの上にキャンペーンなどをのっけて相乗効果を図りましょう、と。
中村 面白いですね。その場合、マーケターは新規顧客を取ってこないとビジネスがあまり伸びないという考えに陥ってしまうケースも多くあると思いますが、いかがでしょうか。
佐藤 冒頭でも述べてきましたが、本当に新規顧客は取れるのか、という問題です。取れないことはないですよ?でも、打率はだだ下がりしていると思います。それよりも確実なルートがファンを通したルートではないか、ということです。しかも熱心なファンは周りにファンを増やしてくれる。
中村 支持母体が増えていくわけですね。
佐藤 そうですね。「わかるけど、とはいえスケールしないんじゃない?」みたいな疑問もぶつけられますが、仮に100人の類友が周りにいるとして、100人のファンがその100人に熱心に伝えるとしますよね。それで1万人です。その1万人も100人の類友を持っているわけですから、そこで熱心に伝えると100万人。100万人が100人に伝えたら1億人。そうやって広がっていくわけです。時間はそれなりにかかるので中長期戦略になりますが、ファンからのクチコミはしっかりスケールしますし、たとえば韓国のアーティストの広がり方とか、まさにそういう広がり方をしていますよね。
中村 伝える側も、この人に伝えて意味あるかどうか考えますし、受け手からすると、この人は本当に自分のことをわかってくれて、いってくれていることがわかりますもんね。さとなおさんのお話をお伺いしているとベースの考えは「ファン」ですが、ファミリー感がすごいあると感じました。
佐藤 そうですね、ファミリー感がありますよね。このように推奨力のある「ファン」を「ベース」にするという考え方が「ファンベース」だと思います。「ファン」と呼ぶことにもこだわっていて、たとえば「ロイヤルユーザー」という言葉とか嫌いです(笑)。「忠実なユーザー」ですよね。どんだけ上から見てるんですかって思います。
皆さんご存知のように「ターゲティング」や「キャンペーン」など、いま使われているマーケティング用語の多くは戦争用語ですよね。他にも「囲い込む」とか「刈り取る」とか相手に失礼な言葉が非常に多い。ファンをそういう目線で見ると、先ほども言いましたが、ファンに見透かされます。ファンは相手が仲間かどうかを見抜くんです。だからボクはそういう言葉を禁句にして、ファンと真っ正面から向き合うよう、心掛けています。
※後編 AIのオススメを凌駕できるたった一つの言葉。それが「家族や友人からの言葉」【ファンベースカンパニー会長 佐藤尚之(さとなお)氏】 へ続く