トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #25
組織の停滞感を打破する「共創」とは? BIOTOPE佐宗邦威氏が明かす、新たな価値を生み出すU理論
2025/01/14
ソーシャルメディア活動の普及や発達により、企業からの情報発信だけでなく、顧客による情報発信や評判形成、企業と顧客の双方向的なコミュニケーションを踏まえたマーケティング活動が重要だと言われる時代。そんな「価値共創」の時代に、マーケターはどう価値を定義し、マーケティングの実務に落とし込んでいくのか。この連載では、Facebook Japan マーケティングサイエンス統括 執行役員の中村淳一氏がトップマーケターにインタビューし、そのヒントや考え方を解き明かしていく。
第13回は、「価値共創」を長年にわたり研究し、実践を続けているBIOTOPE 代表 佐宗邦威氏が登場。同氏はNTT DoCoMo、SONY、パナソニック、オムロン、JAXA、クックパッド、東急など業界を問わず、価値共創を通して企業の新しい価値を創出する支援を行ってきた。これまで15年以上にわたり「共創」に取り組んできた佐宗氏に、ユーザーを巻き込んで価値共創するための方法論やマインドセット、実際の事例などについて詳しく話を聞いた。
第13回は、「価値共創」を長年にわたり研究し、実践を続けているBIOTOPE 代表 佐宗邦威氏が登場。同氏はNTT DoCoMo、SONY、パナソニック、オムロン、JAXA、クックパッド、東急など業界を問わず、価値共創を通して企業の新しい価値を創出する支援を行ってきた。これまで15年以上にわたり「共創」に取り組んできた佐宗氏に、ユーザーを巻き込んで価値共創するための方法論やマインドセット、実際の事例などについて詳しく話を聞いた。
価値共創は上流から着手することで、効果が高まる
中村 本日は佐宗さんが考える「価値共創」について、いろいろお聞きしていきたいと思います。まずは、佐宗さんのご経歴と現在のお仕事からお伺いできますか。
佐宗 私はP&Gでファブリーズやレノアなどのマーケティングを手掛けたのち、ジレットのブランドマネージャーを務めました。その後、ソニークリエイティブセンターで全社の新規事業創出プログラムの立ち上げなどに携わり、独立して現在はBIOTOPEを経営しています。
BIOTOPE CEO / Chief Strategic Designer
佐宗 邦威 氏
東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修士課程修了。P&Gにて、ファブリーズ、レノアなどのヒット商品のマーケティングを手がけたのち、ジレットのブランドマネージャーを務めた。ヒューマンバリュー社を経て、ソニークリエイティブセンター全社の新規事業創出プログラム(Sony Seed Acceleration Program)の立ち上げなどに携わったのち、独立。B to C消費財のブランドデザインや、ハイテクR&Dのコンセプトデザインやサービスデザインプロジェクトを得意としている。『直感と論理をつなぐ思考法』『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』『ひとりの妄想で未来は変わる VISION DRIVEN INNOVATION』『理念経営2.0』著者。多摩美術大学特任准教授。
佐宗 邦威 氏
東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修士課程修了。P&Gにて、ファブリーズ、レノアなどのヒット商品のマーケティングを手がけたのち、ジレットのブランドマネージャーを務めた。ヒューマンバリュー社を経て、ソニークリエイティブセンター全社の新規事業創出プログラム(Sony Seed Acceleration Program)の立ち上げなどに携わったのち、独立。B to C消費財のブランドデザインや、ハイテクR&Dのコンセプトデザインやサービスデザインプロジェクトを得意としている。『直感と論理をつなぐ思考法』『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』『ひとりの妄想で未来は変わる VISION DRIVEN INNOVATION』『理念経営2.0』著者。多摩美術大学特任准教授。
BIOTOPEは「共創型戦略デザインファーム」といっており、企業の未来づくりを共創する会社です。企業の5~10年先の長期ビジョンやミッション・バリューなどをつくるときの伴走、パーパスの策定、ブランディングの落とし込みまでを支援しています。
私が「共創」というテーマに興味を持ったのは2007年頃です。その翌年に共創マーケティングをテーマに勉強会「みんつく工房」を始め、「シナリオ・プランニング(将来の不確実性に備えるための計画手法)」や「レゴ® シリアスプレイ®(レゴブロックを使って、対話と内省を促すとともに、問題解決能力や想像力を養うことを目的としたワークショップ)」などを取り入れて、共創型の方法論を議論していました。その時期に、ちょうどSNSも登場し、ユーザーとの価値共創で新しい商品やサービスのアイデアを考える取り組みをしていました。
ただ当時、「マーケティングにおける共創」という文脈はタイミングとして早すぎて、どちらかといえば商品開発部門との共創のほうが推進しやすい状況でした。そのため、ソニーの中でアングラ的なプロジェクトを立ち上げて、ユーザーを巻き込みながら共創型のワークショップをやって商品開発に生かすという試行錯誤をしていく中、留学の機会を得て人間中心デザインの老舗大学、イリノイ工科大学でデザインメソッドの修士を取りデザイン思考を勉強しました。
デザイン思考は必ずしも価値共創だけを核とするものではありませんが、その要素を含んでいます。留学先での経験をもとに2015年に独立してBIOTOPEを創業しました。
中村 何をきっかけに「共創」について興味をもったのでしょうか。
佐宗 私がP&G時代に、商品開発の段階からデザインテーマをつくり、マーケティングやセールス、広告会社を巻き込みながらプロジェクトを進めていく流れを心地良く感じたことがきっかけです。成功するためには、いいチームが重要だと実感しました。
一方で、ジレットを担当したときは、買収後のPMI(Post Merger Integration:M&Aの成立後に行われる統合プロセス)の時期で組織の混乱もあり、良い結果につながらないケースもありました。この経験がチームの共創力の必要性を痛感し、同時に「価値共創」と「マーケティング」の掛け合わせに興味を深める契機になったのです。
中村 社内の組織づくりにおける「共創」と、マーケティングにおける「価値共創」は、一見異なる概念に見えますが、実際には密接に関連して重なり合う部分も多いのでしょうか。
Facebook Japan マーケティングサイエンス統括 執行役員
中村 淳一 氏
慶応義塾大学経済学部卒。現在京都芸術大学大学院芸術修士(MFA)在籍中。2002年に消費財メーカー、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)入社、消費者市場戦略本部に所属。柔軟剤ブランド「レノア」の日本立ち上げのコアメンバーや、かみそりブランド「ジレット」、店舗営業チャネルシニアマネージャーを経たのち、13年からシンガポールにてグローバルメディア、アジア地域ビッグデータ担当のアソシエイトディレクターに着任。17年6月にフェイスブック ジャパン(Meta)入社。マーケティングサイエンスノースイーストアジア統括。他JMAインサイトハブコアメンバー等。
中村 淳一 氏
慶応義塾大学経済学部卒。現在京都芸術大学大学院芸術修士(MFA)在籍中。2002年に消費財メーカー、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)入社、消費者市場戦略本部に所属。柔軟剤ブランド「レノア」の日本立ち上げのコアメンバーや、かみそりブランド「ジレット」、店舗営業チャネルシニアマネージャーを経たのち、13年からシンガポールにてグローバルメディア、アジア地域ビッグデータ担当のアソシエイトディレクターに着任。17年6月にフェイスブック ジャパン(Meta)入社。マーケティングサイエンスノースイーストアジア統括。他JMAインサイトハブコアメンバー等。
佐宗 その通りです。私の経験からその関連性をお話します。プロジェクト管理ツール「Backlog」を展開するヌーラボで、長期戦略とビジョンづくりのワークショップをお手伝いしたとき、印象的な場づくりをすることができました。
当時、社員が数十名規模の同社では、経営陣とエンジニアのトップ、マーケティングのトップが一緒に活動し、それぞれが近い関係性でした。マーケティング戦略を一緒につくっていく中で、ユーザーの集いというユーザーと開発者が一緒にBacklogの未来を共創するワークショップを実施していく中で、会社のカルチャー全体がよりコラボレーションを重視する形に熟成していったのです。
この経験を通じて、ユーザーとの共創がマーケティングや商品開発のスピードを劇的にアップさせることを体験しました。そのとき、マーケティング部門と他の部門は別々に存在しているように見えて、実は一体であることを実感しました。
中村 そう考えると、マーケターが「価値共創」を実践するとき、本来は企業のカルチャーレベルにまで介入する必要があるということでしょうか。
佐宗 そうですね。会社のカルチャーを変えずにできることもあると思いますが、そのレベルまで影響を与えたほうが「価値共創」の効果は高くなると思います。たとえば、商品やサービス企画においては社内のプロセスがしっかりと決まっているケースが多く、一部はマーケティング側から影響を与えることができても、根本的に変えるのは難しい傾向があります。
そのため「価値共創」を実現するには、できるだけ上流から携わるほうが効果的だと考えています。下流で商品やサービスを受け取った後に「どう売るか」を考える場合、できることが限られている中でマーケティングをすることになり、難しい状況だと思います。
中村 なるほど。どのフェーズからでも価値共創はできるけれども、上流から携わったほうが、その効果範囲が広がるということですね。
佐宗 はい。特にエンドユーザーとの共創においては、売り方を考えるよりも「どんな商品になったらいいか」といった話のほうが盛り上がり、次々に意見が出てきます。その意味で、ユーザーとの共創は商品開発と非常に相性が良いですね。