トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #26
ビジネスシーンで「価値共創」が成り立つ3つのマインドセット【BIOTOPE佐宗邦威】
2025/01/20
ソーシャルメディア活動の普及や発達により、企業からの情報発信だけでなく、顧客による情報発信や評判形成、企業と顧客の双方向的なコミュニケーションを踏まえたマーケティング活動が重要だと言われる時代。そんな「価値共創」の時代に、マーケターはどう価値を定義し、マーケティングの実務に落とし込んでいくのか。この連載では、Facebook Japan マーケティングサイエンス統括 執行役員の中村淳一氏がトップマーケターにインタビューし、そのヒントや考え方を解き明かしていく。
第13回は、「価値共創」を長年研究、実践し続けているBIOTOPE 代表 佐宗邦威氏が登場。前編では、「価値共創」を実践するときの具体的な理論と方法について詳しく聞いた。後編では、具体的に共創が実現した事例と価値共創をしたいと考えているマーケターに向けてのアドバイスなどついて詳しく話を聞いた。
第13回は、「価値共創」を長年研究、実践し続けているBIOTOPE 代表 佐宗邦威氏が登場。前編では、「価値共創」を実践するときの具体的な理論と方法について詳しく聞いた。後編では、具体的に共創が実現した事例と価値共創をしたいと考えているマーケターに向けてのアドバイスなどついて詳しく話を聞いた。
会社のカルチャー変化につながる価値共創
中村 価値共創への理解を深めるために、実際にワークショップを通してうまく共創が回りだした事例について教えてください。
佐宗 以前、コニカミノルタさんで、複合機とオフィス内のITシステム環境を管理・効率化できる統合プラットフォーム「Workplace Hub」のサービス化をお手伝いさせていただきました。このプロジェクトでは、ビジョンの設定からサービスのコンセプト設計、さらにはコピー機の営業担当者の営業スタイルを価値共創に変えるトレーニングまでを行いました。
BIOTOPE CEO / Chief Strategic Designer
佐宗 邦威 氏
東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修士課程修了。P&Gにて、ファブリーズ、レノアなどのヒット商品のマーケティングを手がけたのち、ジレットのブランドマネージャーを務めた。ヒューマンバリュー社を経て、ソニークリエイティブセンター全社の新規事業創出プログラム(Sony Seed Acceleration Program)の立ち上げなどに携わったのち、独立。B to C消費財のブランドデザインや、ハイテクR&Dのコンセプトデザインやサービスデザインプロジェクトを得意としている。『直感と論理をつなぐ思考法』『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』『ひとりの妄想で未来は変わる VISION DRIVEN INNOVATION』『理念経営2.0』著者。多摩美術大学特任准教授。
佐宗 邦威 氏
東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修士課程修了。P&Gにて、ファブリーズ、レノアなどのヒット商品のマーケティングを手がけたのち、ジレットのブランドマネージャーを務めた。ヒューマンバリュー社を経て、ソニークリエイティブセンター全社の新規事業創出プログラム(Sony Seed Acceleration Program)の立ち上げなどに携わったのち、独立。B to C消費財のブランドデザインや、ハイテクR&Dのコンセプトデザインやサービスデザインプロジェクトを得意としている。『直感と論理をつなぐ思考法』『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』『ひとりの妄想で未来は変わる VISION DRIVEN INNOVATION』『理念経営2.0』著者。多摩美術大学特任准教授。
これまでの営業スタイルでは、コピー機を納入している会社に訪問し、新しいトナーや機器の入れ替えを提案することが主流でした。そのプロセスに顧客からハードウェアに関する課題をヒアリングし、解決策を一緒に考えるプロセスを追加しました。
この結果、営業担当者の思考が「単なる商品販売」から「ソリューションデザイン」に変わり、顧客との共創につながりやすくなりました。
中村 営業担当者が現場の声を吸い上げて、企業の本部でさらに価値共創するということですね。
佐宗 そのとおりです。現場から上がってくる具体的なアイデアをどのように引き上げていくかを考える中で、経営企画側もVOC(voice of customer:顧客の声)に耳を傾けやすくなっていきます。
これまでプロダクトアウトが基本だった会社が、顧客と直接向き合う営業活動の段階まで価値共創が浸透するようになると、会社全体のカルチャーに変化が生まれることを実感しています。
中村 逆に共創がうまくいかない場合は、どこに原因があるのでしょうか。カルチャーの問題なのか、それとも単にやり方がわからないことが多いのでしょうか。
Facebook Japan マーケティングサイエンス統括 執行役員
中村 淳一 氏
慶応義塾大学経済学部卒。現在京都芸術大学大学院芸術修士(MFA)在籍中。2002年に消費財メーカー、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)入社、消費者市場戦略本部に所属。柔軟剤ブランド「レノア」の日本立ち上げのコアメンバーや、かみそりブランド「ジレット」、店舗営業チャネルシニアマネージャーを経たのち、13年からシンガポールにてグローバルメディア、アジア地域ビッグデータ担当のアソシエイトディレクターに着任。17年6月にフェイスブック ジャパン(Meta)入社。マーケティングサイエンスノースイーストアジア統括。他JMAインサイトハブコアメンバー等。
中村 淳一 氏
慶応義塾大学経済学部卒。現在京都芸術大学大学院芸術修士(MFA)在籍中。2002年に消費財メーカー、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)入社、消費者市場戦略本部に所属。柔軟剤ブランド「レノア」の日本立ち上げのコアメンバーや、かみそりブランド「ジレット」、店舗営業チャネルシニアマネージャーを経たのち、13年からシンガポールにてグローバルメディア、アジア地域ビッグデータ担当のアソシエイトディレクターに着任。17年6月にフェイスブック ジャパン(Meta)入社。マーケティングサイエンスノースイーストアジア統括。他JMAインサイトハブコアメンバー等。
佐宗 それにはいくつかのパターンがあります。たとえば、トップダウンの組織では、トップが部下に「任せた」と言っておきながら、実際には細部まで管理してしまうケースがあります。このような場合、現場からアイデアが出ても忖度してしまうので、実際の行動に踏み出せません。
また、価値共創において重要なのは、自社が持つビジョンやプロダクトブランドなどのリソースを外部に公開し、「何か一緒につくりましょう」と呼びかける姿勢です。しかし、社内に自社のリソースを秘匿しようとする基準や方針があると、それが共創を阻害してしまう要因となります。
中村 ユーザーに対して、そのようなリソースは必ずシェアするべきなのでしょうか。また、特にビジョンのような上流を共有しないと、プロジェクトが違う方向に進んでしまう可能性があるのでしょうか。
佐宗 ビジョンから一緒に考えたほうが、一部分だけの共創に比べて巻き込みやすくなり、関わる人の熱量も高まります。共創は、ある種の「未来づくり」です。そのため、組織の内外を問わず、「自分はアクティブなメンバーだ」という自覚を持ってもらうことが重要です。
報酬の有無に関わらず、「自分が属しているコミュニティのために何かをすること自体」に意義を感じられるように、ビジョンづくりの段階から関わってもらうことが大切です。そうすると、価値共創プロジェクトに参加したいと感じるメンバーが増え、プロジェクト自体が長続きすることにも繋がります。