社会変動を紐解き、マーケティングで時代を拓く #06
ウォルマート・メタの多様性後退、 「AI経済圏」との駆け引き【2025年マーケティングに求められる3つの視点】
2025/01/27
視点③ビジネスの条件を変えて熱量を生む
マーケターが環境やデータを読み、対応していく重要性は増々高まっており、私もいま研鑽の中にいます。一方で、多様性の後退を感じ、AIが思考した必要十分な回答と出会う経験と対比したときに、自分自身が他者を深く理解することや、データを独自に解釈して悩み伝えることは、今後の世の中にどれほどの価値があるのだろうかと、改めて考えていました。
その中で勇気づけられたのが、2024年12月に音楽ソフト販売チェーンのタワーレコードが最高益を更新したというニュースです。その事業成功を取り上げたAERA dotの記事では、取締役COOの高橋聡志氏が「価値ある無駄」といったキーワードを挙げながら、熱量を体験できる場としてのショップの魅力や、目当てのもの以外のアイテムと出合えることの価値について語っていました。
タワーレコードを巡っては、2016年に日本でもリリースされた米国TOWER RECORDSのドキュメンタリー映画 「ALL THINGS MUST PASS/オール・シングス・マスト・パス」のDNDが再入荷されたり、再びSNS上で話題になったりしています。音楽や店舗の体験的なストーリーが価値として見直されていることが実感されます。
この事業価値を「セレンディピティ」といったトレンドのキーワードで表現するのは、少し違うでしょう。なぜなら先に挙げた時代の変化の中で、この熱量や体験価値は一種の「反動」の兆しとも感じるからです。
AIは数学・プログラミングの領域において人知を超え、誰より博識な存在として確立をされていくでしょう。一方で、人は知的好奇心の生き物です。読書や自然や街歩きなどの、余白の中にある温度のある情報や体験も必要とします。
合理性や効率ではAIと良好な関係を築きながら、マーケターにとってはそういった余白の価値や、生活者が言葉にしない心を読んでビジネスの条件・ルールを変えていくことで、新たな価値を生活者に見つけてもらい、熱量を生み出していくことが大切だと思います。これが2025年、マーケターにとって重要になると考える3つ目の視点です。
2024年の元日は能登半島地震が起き、当時執筆中だった本連載の初回原稿をすべて消して書き直しました。社会状況の予測は困難ですが、初回 で述べた通り「備え」、あるいは「指針」は必要です。環境に適応してビジネスのルールを変えたり、余白や温度感ある価値を発信したりするために、筆者が参考とする書籍と、AIと音楽に関連して心に留めている言葉をご紹介します。
…people will forget what you said, people will forget what you did, but people will never forget how you made them feel.(人間は、あなたが「言ったこと」を忘れる。人間は、あなたが「やったこと」も忘れる。でも、人間は、「あなたから受けたフィーリング」だけは決して忘れない。) 映画「ベイマックス」
「お客さんはいなくなるけどファンはいなくならない。バズって来る人はパーってすぐいなくなるけど、いまいる人は一生いなくならないし何があっても戻ってくる。その人数って結構売れている人もそうでない人も同じだと思いますよ。」
ドキュメンタリー動画「『Have a Nice Day! その矛盾に満ちたリリースとパーティーをつなぐ方法』に関する記録」
1年前の能登半島地震の復興が引き続き、早く進んでほしいと思います。そして、今年2025年は厄災無く、多くの方が安泰な一年を過ごせることを願います。
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