鹿毛康司、モダンエルダーを目指す #07
鹿毛康司氏が「お見事」と大絶賛、クラフトカクテル「koyoi」石根友理恵氏の人から応援される生き様
2025/03/17
「モダンエルダー」という言葉を知っていますか? 若者に耳を傾けて新しいことを受け入れながら、エルダーとしての力も発揮する「職場の賢者」のことを指します。日本を代表するマーケターであり、クリエイティブディレクターでもある鹿毛康司氏がモダンエルダーを目指して、様々な若手にインタビューしていく企画です。
鹿毛氏は「過去うまくいったことも、今ではうまくいかないことがあります。自分としては、思考能力はまだまだ大丈夫だと思っている一方で、時代との何らかのズレを修正し続けなければいけないと、恐怖を感じているんですよ」と語ります。本連載では「若者に教えてもらう」をテーマに、時代とビジネスの勘どころを探っていきます。
第7回は、SEAM 代表取締役の石根友理恵氏が登場。石根氏は新卒でサイバーエージェントに入社し、企業のSNSを用いたデジタルマーケティングのサポートなどを経て、2017年にSEAMを設立。同社は「ココロとカラダを満たす食体験を創る」をミッションに掲げ、低アルコールのクラフトカクテル「koyoi」やスパークリングワインブランド「AWANOHI」などを展開。特にkoyoiはアサヒビールと電通デジタルの合弁会社・スマドリとのコラボレーションや、ラグジュアリーホテルへの導入などSNSを中心に話題となっています。今回の対談では、鹿毛氏との対話を通じて、石根氏が参入障壁の高い酒類業界で低アルコール事業を始めた理由や、ブランドに対する考え方、そして自身の生き様や在り方などについて紐解きました。
鹿毛氏は「過去うまくいったことも、今ではうまくいかないことがあります。自分としては、思考能力はまだまだ大丈夫だと思っている一方で、時代との何らかのズレを修正し続けなければいけないと、恐怖を感じているんですよ」と語ります。本連載では「若者に教えてもらう」をテーマに、時代とビジネスの勘どころを探っていきます。
第7回は、SEAM 代表取締役の石根友理恵氏が登場。石根氏は新卒でサイバーエージェントに入社し、企業のSNSを用いたデジタルマーケティングのサポートなどを経て、2017年にSEAMを設立。同社は「ココロとカラダを満たす食体験を創る」をミッションに掲げ、低アルコールのクラフトカクテル「koyoi」やスパークリングワインブランド「AWANOHI」などを展開。特にkoyoiはアサヒビールと電通デジタルの合弁会社・スマドリとのコラボレーションや、ラグジュアリーホテルへの導入などSNSを中心に話題となっています。今回の対談では、鹿毛氏との対話を通じて、石根氏が参入障壁の高い酒類業界で低アルコール事業を始めた理由や、ブランドに対する考え方、そして自身の生き様や在り方などについて紐解きました。
自分をさらけ出すことで、ブランドオーナーになる
鹿毛 今回の対談に向けて、石根さんを調べる中でX(旧Twitter)の投稿を見ました。最近、再婚されたんですか。
石根 そうなんです、再婚しました。
鹿毛 再婚はもちろんいいことだと思うんだけど、なぜそれを公開したんですか。
石根 そうですね。私は人生で成し遂げたいことに「女性としてのいろいろなライフイベントと仕事の両方を大事にしたい」という想いがあります。そうした想いが強かったこともあって公開しました。

SEAM 代表取締役
石根 友理恵 氏
広島県出身。神戸大学国際文化学部卒業後、サイバーエージェントに入社し、企業のSNSを用いたwebマーケティングサポートに従事。創業期のワンオブゼムに転職し、マーケティング部門の立ち上げを行う。2017年に株式会社SEAMを設立。「ココロを満たしカラダにやさしい食体験を創る」をミッションとし、低アルコールD2C事業を展開。ファーストブランドkoyoiを切り口に、様々なコラボを実現しながら低アルコール市場のトップランナーを目指す。
石根 友理恵 氏
広島県出身。神戸大学国際文化学部卒業後、サイバーエージェントに入社し、企業のSNSを用いたwebマーケティングサポートに従事。創業期のワンオブゼムに転職し、マーケティング部門の立ち上げを行う。2017年に株式会社SEAMを設立。「ココロを満たしカラダにやさしい食体験を創る」をミッションとし、低アルコールD2C事業を展開。ファーストブランドkoyoiを切り口に、様々なコラボを実現しながら低アルコール市場のトップランナーを目指す。
ただ、「社会から見える自分」と「本当の自分」には違う部分があると思います。それでいいと思うのですが、あえて公開する必要はないかなという思いもありました。また、いつ公開しようかというタイミングはすごく考えましたね。
鹿毛 プライベートまで公開して全てをみせて勝負していることに力強さを感じました。
石根 本当ですか。ただ、自分の人生だし、別に隠すことでもないし、自分の女性としての生き方も大事にしたいという考えから、公開してもいいかなと思ったんです。
鹿毛 石根さんは、もう生き方が「裸んぼ」なんですよね。僕も同じだからとても気持ちがいいんだけど、最近では珍しいよね。そのディスクローズ(情報公開)と向き合うことと、自分自身の生き方と仕事、その3つが重なっている感じがあって、私は石根さんがめちゃくちゃかっこよく見えます。
石根 ありがとうございます。鹿毛さんにそう言っていただき嬉しいです。
鹿毛 でも同時に、きついだろうなと思って。どうして、そんなに自分をさらけ出すんですか。

かげこうじ事務所 代表 マーケター クリエイティブディレクター
鹿毛 康司 氏
2020年、エステー クリエイティブディレクター(役員)を退任して現在にいたる。 早稲田大学商学部卒、ドレクセル大学MBA。現在は森永乳業、ほけんの窓口、バーガーキング、ベストコ(塾)会社など様々な企業のマーケティングとクリエイティブの支援をおこなっている。同時にグロービス経営大学院(MBA)教授として社会人学生にマーケティングを指導。2021年には著書「心がわかるとモノが売れる」で、マーケティングに必要なインサイトと人間理解論を実務家の視点で発表した。今年7月26日悩める若手マーケターを応援するためにと「無双の仕事術」を発表。マーケティング立案、特に時代に新しいコンテンツマーケティングやファンマーケティングも得意とする。クリエイターとしてもCMプランナー/監督/コピーライター/作詞作曲などもこなす。2011年の東日本大震災直後に手がけた「消臭力CM」は好感度日本1位を獲得)。ACC Gold、マーケターオブザイヤー(MCEI)、WEB人貢献賞など受賞。
鹿毛 康司 氏
2020年、エステー クリエイティブディレクター(役員)を退任して現在にいたる。 早稲田大学商学部卒、ドレクセル大学MBA。現在は森永乳業、ほけんの窓口、バーガーキング、ベストコ(塾)会社など様々な企業のマーケティングとクリエイティブの支援をおこなっている。同時にグロービス経営大学院(MBA)教授として社会人学生にマーケティングを指導。2021年には著書「心がわかるとモノが売れる」で、マーケティングに必要なインサイトと人間理解論を実務家の視点で発表した。今年7月26日悩める若手マーケターを応援するためにと「無双の仕事術」を発表。マーケティング立案、特に時代に新しいコンテンツマーケティングやファンマーケティングも得意とする。クリエイターとしてもCMプランナー/監督/コピーライター/作詞作曲などもこなす。2011年の東日本大震災直後に手がけた「消臭力CM」は好感度日本1位を獲得)。ACC Gold、マーケターオブザイヤー(MCEI)、WEB人貢献賞など受賞。
石根 自分で会社を興して事業を始めるときに、もし失敗しても後悔しないように、自分の持っているものや自分の考えをすべて出そうと思いました。
自分の好きな商品やブランドがどのようなものかを考えると、どちらかというと、私は商品そのものよりも、それをつくっている人自身やその人の生き様に共感したり、かっこいいと思ったりして好きになることが多いんです。なので、自分もブランドのオーナーとして、すべてを出していこうと思っています。
「友理恵らしく」生きたい。
鹿毛 石根さんは新卒でサイバーエージェントに入社し、その後スタートアップへの参画を経て、2017年にSEAMを創業されていますよね。そして2021年に低アルコールの飲料事業を始めたんですよね。そもそも、どのような思いから起業したのですか。
石根 私は、自分が何をしたいかということよりも、自分の在り方をとても大事にしています。私が25歳のときに父が亡くなりました。それをきっかけに「後悔だけはしない人生を送りたい」と考えるようになりました。
どのような状況でもいいから、私が死んでも残る事業と家族がほしいと思うようになったんです。また、起業したときに、自分の名前で世の中に価値を出せるようにしたいとも考えていました。
鹿毛 父の死がどうしてそこまで思わせたのでしょうか。
石根 父は、アルコール依存症が一因で亡くなりました。アルコール依存症は心の病気でもあります。私は「自分の人生」を自分で選択できる人生をつくるをビジョンに掲げているのですが、父はそれができなかったのだと思います。

鹿毛 石根友理恵は、「友理恵らしく」生きたい。
石根 おっしゃるとおりです。
鹿毛 「友理恵らしく」あれば、正直、事業は何でもよかったわけですよね。
石根 そうですね。私らしく生きようという思いから起業しましたが、最初は何の事業をやればいいか、わかりませんでした。そのため、これまでの経験を生かしWebマーケティングとWebPRの仕事を受けながら3年間、事業ネタを100個以上書き出してテストマーケティングするということを繰り返していました。
鹿毛 アルコール飲料事業のほかにやった事業はありますか。
石根 いくつかありますね。たとえば、子ども向けの動画事業やお漬物の製造販売事業は、実際にチームを組んで商品もつくって販売しました。
鹿毛 それはおもしろいですね。子ども向けの動画事業は、それまでの経験を生かせただろうし、親和性が高いからすっと進めたはずですよね。お漬物の製造販売事業も、法律がお酒に比べると厳しくないからスムーズにやれたはずです。それなのにどうして「お酒」という未知数の事業に挑戦したんですか。
石根 たしかに、そうですね。お漬物は、売上としても私ひとりが食べていけるくらいはありました。でも、一度立ち止まってじっくり考えたときに、私は人生を掛けているのに、これを10年、20年先まで続けられるかと考えると、たぶんどこかで折れてしまうなと思ったんです。
鹿毛 どうして折れるとおもったんでしょうかね。
石根 たぶん、心から「漬物業界を変えたい」と思っていなかった。
鹿毛 こころの奥では「変えたい」と思う気持ちがなかったと。
石根 あと、このお客さんを幸せにしたいという具体像が思い描けなかったんです。私は「人生をかけて事業をやる」と決めていたので、もっと市場が大きくて、もっと多くの人に届けられるような事業があるのではないかと思いました。
鹿毛 なるほど。ただ、ひょっとしたら石根さんも気がついていない何かがあったんじゃないかなあ。いまの説明はどこか捏造している感じがするんですよ。笑
石根 えっ本当ですか、捏造していますか。笑
鹿毛 そこをもう少し突き詰めてかんがえてもらってよいですか。どうして漬物からお酒にいったのか、なにか秘密があるような気がして。
石根 うーん、やはり父親の影があったからでしょうか。父が生きていたときに、このお酒を届けることができたら、父の人生は少し変わっていたかもしれない。そんなお酒をたぶんつくりたかったのだと思います。
鹿毛 父親の存在は、たしかにきっかけですよね。普通は初対面でここまで掘り下げることはしませんが、なにせ、すべてをさらけだしている人だから、もう少し闇をききたくなりました。そう。たぶん、自分の中に夢のないつらさや、夢のない生活を抜け出したいという思いがあったんじゃないかなあ。
石根 闇ですか。
鹿毛 わたしも自分の心と相談しながらお聞きしていておもうのですが、石根さんは小さい頃から父親のそういう姿を見てきて、夢がある人生に飛び込みたかったんじゃないかなあ。勝手なこと言ってごめんなさい。

石根 たしかに鹿毛さんにあらためて言われると、「何者かになりたかった」という思いがあったかもしれません。ただ、「何者か」はわからないけれど、誰かに認めてもらいたかった。自分らしい、つまり自分は他の人と違うという感情を認めてもらいたかったみたいなものがあったと思います。
鹿毛 石根さんは、本当にすべてをさらけ出す人ですね。なんだか、めちゃくちゃ応援したくなります。