鹿毛康司、モダンエルダーを目指す #09
鹿毛康司氏がリスペクトするZ世代・今瀧健登氏の成功の秘訣― ジョブ型雇用の実践にみる「やるかやらないか」で生まれる差
「モダンエルダー」という言葉を知っていますか? 若者に耳を傾けて新しいことを受け入れながら、エルダーとしての力も発揮する「職場の賢者」のことを指します。日本を代表するマーケターであり、クリエイティブディレクターでもある鹿毛康司氏がモダンエルダーを目指して、様々な若手にインタビューしていく企画です。
鹿毛氏は「過去うまくいったことも、今ではうまくいかないことがあります。自分としては、思考能力はまだまだ大丈夫だと思っている一方で、時代との何らかのズレを修正し続けなければいけないと、恐怖を感じているんですよ」と語ります。本連載では「若者に教えてもらう」をテーマに、時代とビジネスの勘どころを探っていきます。
第8回は、僕と私と 代表取締役の今瀧健登氏が登場。今瀧氏は、自身もZ世代のひとりとして、同じZ世代の仲間と、Z世代に向けたマーケティングの企画提案を行っています。同社には、Z世代向けのマーケティングに課題を抱える企業から多くの相談があり、花王が展開するヘアケア商品のパッケージデザインや、TOEIC公式TikTokのショートドラマ制作、その他イベント企画の支援などを手がけています。今回の対談では、同社が採用している「ジョブ型雇用」やZ世代のマーケティングについて深堀りしながら、鹿毛氏がリスペクトする今瀧氏の考えや行動について存分に語ることで、マーケターとしての成功の秘訣を紐解きました。
鹿毛氏は「過去うまくいったことも、今ではうまくいかないことがあります。自分としては、思考能力はまだまだ大丈夫だと思っている一方で、時代との何らかのズレを修正し続けなければいけないと、恐怖を感じているんですよ」と語ります。本連載では「若者に教えてもらう」をテーマに、時代とビジネスの勘どころを探っていきます。
第8回は、僕と私と 代表取締役の今瀧健登氏が登場。今瀧氏は、自身もZ世代のひとりとして、同じZ世代の仲間と、Z世代に向けたマーケティングの企画提案を行っています。同社には、Z世代向けのマーケティングに課題を抱える企業から多くの相談があり、花王が展開するヘアケア商品のパッケージデザインや、TOEIC公式TikTokのショートドラマ制作、その他イベント企画の支援などを手がけています。今回の対談では、同社が採用している「ジョブ型雇用」やZ世代のマーケティングについて深堀りしながら、鹿毛氏がリスペクトする今瀧氏の考えや行動について存分に語ることで、マーケターとしての成功の秘訣を紐解きました。
コロナ禍に「暇」だから設立した、Z世代が運営する会社
鹿毛 まず、自己紹介をお願いします。
今瀧 僕と私と株式会社で代表を務めています、今瀧健登です。本日はよろしくお願いいたします。
僕と私とは、同世代であるZ世代を対象とする企画会社です。特に、広告で刈り取りができない人たちに対して、「エモマーケティング®︎」と言われるような、心を動かすマーケティングで潜在顧客を顕在化する企画を手掛けています。
※「エモマーケティング®」は僕と私と株式会社が保有する商標です。

僕と私と 代表取締役
今瀧 健登 氏
横浜国立大学卒。Z世代に特化した心を動かす企画・マーケティングを専門とする企画会社「僕と私と株式会社」代表取締役。ハッピーな共感をフックに購買行動に繋げる「エモマーケティング®︎」を提唱し、さまざまな行政やメーカーのプロモーションをワンストップで展開する企画屋。小瓶のお酒「クライナー」を販売する株式会社シトラムの執行役員CMOも務める。著書に『エモ消費』(クロスメディア・パブリッシング)『Z世代マーケティング見るだけノート』(宝島社)など。X:@k_hanarida
今瀧 健登 氏
横浜国立大学卒。Z世代に特化した心を動かす企画・マーケティングを専門とする企画会社「僕と私と株式会社」代表取締役。ハッピーな共感をフックに購買行動に繋げる「エモマーケティング®︎」を提唱し、さまざまな行政やメーカーのプロモーションをワンストップで展開する企画屋。小瓶のお酒「クライナー」を販売する株式会社シトラムの執行役員CMOも務める。著書に『エモ消費』(クロスメディア・パブリッシング)『Z世代マーケティング見るだけノート』(宝島社)など。X:@k_hanarida
鹿毛 今瀧さんは、今おいくつですか。
今瀧 27歳です。社内メンバーの平均年齢も27歳です。
鹿毛 若い!僕と私と株式会社の会社形態ってどうなってるんでしょうね。
今瀧 会社の形態は「ジョブ型雇用」という働き方を取り入れていて、その中でもワークライフバランスを重視する北欧の働き方を主に参考にしています。加えて、フルリモート、フルフレックスです。
鹿毛 どこかに集まって仕事をするわけではないんですよね。
今瀧 はい、全員バラバラです。恵比寿や千葉に住んでいるメンバーもいれば、海外に住んでいるメンバー、世界一周しているメンバーもいます。
鹿毛 ミーティングはどうしているんですか。
今瀧 すべてオンラインで完結しています。
鹿毛 秘書もオンラインですか。
今瀧 もちろん、秘書もオンラインです。
鹿毛 わたしのようなエルダーには理解しえない状況ですが、上司だとか部下だとかは存在するんですか。
今瀧 一応、縦のラインはあるのですが、「上司」や「部下」という言葉は会社であまり使っていないですね。部下というよりも「サポーター」と言うのが近いでしょうか。トップのクリエイティブディレクターという言い方はしますが、リーダーや上司・部下とは言いませんし、マネジメントという言葉も使っていません。
鹿毛 マネジメントという言葉も使っていないんですか。もう、存在自体が僕の常識を超えています(笑)。では、どこかの企業から依頼があったとき、組織としてどのように動き出すのですか。

かげこうじ事務所 代表 マーケター クリエイティブディレクター
鹿毛 康司 氏
2020年、エステー クリエイティブディレクター(役員)を退任して現在にいたる。 早稲田大学商学部卒、ドレクセル大学MBA。現在は森永乳業、ほけんの窓口、バーガーキング、ベストコ(塾)会社など様々な企業のマーケティングとクリエイティブの支援をおこなっている。同時にグロービス経営大学院(MBA)教授として社会人学生にマーケティングを指導。2021年には著書「心がわかるとモノが売れる」で、マーケティングに必要なインサイトと人間理解論を実務家の視点で発表した。今年7月26日悩める若手マーケターを応援するためにと「無双の仕事術」を発表。マーケティング立案、特に時代に新しいコンテンツマーケティングやファンマーケティングも得意とする。クリエイターとしてもCMプランナー/監督/コピーライター/作詞作曲などもこなす。2011年の東日本大震災直後に手がけた「消臭力CM」は好感度日本1位を獲得)。ACC Gold、マーケターオブザイヤー(MCEI)、WEB人貢献賞など受賞。
鹿毛 康司 氏
2020年、エステー クリエイティブディレクター(役員)を退任して現在にいたる。 早稲田大学商学部卒、ドレクセル大学MBA。現在は森永乳業、ほけんの窓口、バーガーキング、ベストコ(塾)会社など様々な企業のマーケティングとクリエイティブの支援をおこなっている。同時にグロービス経営大学院(MBA)教授として社会人学生にマーケティングを指導。2021年には著書「心がわかるとモノが売れる」で、マーケティングに必要なインサイトと人間理解論を実務家の視点で発表した。今年7月26日悩める若手マーケターを応援するためにと「無双の仕事術」を発表。マーケティング立案、特に時代に新しいコンテンツマーケティングやファンマーケティングも得意とする。クリエイターとしてもCMプランナー/監督/コピーライター/作詞作曲などもこなす。2011年の東日本大震災直後に手がけた「消臭力CM」は好感度日本1位を獲得)。ACC Gold、マーケターオブザイヤー(MCEI)、WEB人貢献賞など受賞。
今瀧 相談をうけたら、Zoomでミーティングをするのですが、僕とメンバーが出席してまずは予算と時期を聞きます。
鹿毛 Zoomでほとんどミーティングは成立するということですね。
今瀧 おっしゃるとおりです。絶対にオフラインでやらなければいけない理由が明確にあって、僕たちの交通費なども含めた予算を先方が捻出できるのであれば、検討するといった形です。基本はお会いしません。
鹿毛 今日ここで、今瀧さんとリアルで会っているというのが特別なんですね。ちょっと気になるのですが、社内の空気なり、実際に会わないとわからないということはないのですか。
わたしなんか、その空気感を大切にして仕事をしてきたもので。
今瀧 人と人のコミュニケーションは会わなければわからないので、そこは会っていいと思っています。仕事で会うのではなく、ご飯に行くというのは別に構わないんですよ。
オフラインで会いたくないのではなく、必然性がないのに、「形式的に会わなければいけないから」という理由で会う必要がないと思っているんです。
鹿毛 その割り切りがすごいよね。僕にとってみれば割り切りなんだけど、今瀧さんの会社にとっては普通のことなんだよね。
今瀧 そうですね。もともとコロナ禍に立ち上げた会社で、最初からずっとリモートなので、それが前提で当たり前なんです。むしろ、オフラインが超イレギュラーですね。

鹿毛 コロナ禍がなかったら、この会社は生まれてなかったんですか。
今瀧 生まれていません。僕、暇だから会社をつくったんですよ。
鹿毛 えっ、暇で会社を設立して、ここまで成長させたんですか。今後も、もっと売上や利益をあげたいと思っていますか。
今瀧 それは興味がないですね。結果としてそうなればいいとは思っていますが、目標ではありません。
鹿毛 清々しいね。
今瀧 でも、人は幸福になれるものをお金で買っていると思っているので、売上と利益は大きければ大きいほど人を幸せにしていると思っています。そこにはすごくリスペクトがあります。
鹿毛 ところで現在、メンバーは何人いますか。
今瀧 66人です。
鹿毛 66人はどうやって探しましたか。
今瀧 ほとんどリファラル採用です。既存のメンバーが新たなメンバーを呼ぶことが多いです。
鹿毛 紹介なんですね。新たなメンバーの得意、不得意などは、どのように見極めますか。
今瀧 新たなメンバーには、まず「自分の中でこれに関しては絶対負けないぞ」という強みを宣言してもらいます。その後、2~3カ月の間でそれを見極め、それがきちんと認められるかどうかで見極めます。
鹿毛 ある案件の相談があったとします。具体的に、どのように業務が進んでいくんですか。
今瀧 TOEICさんのプロモーション施策を事例に紹介します。TOEICを知っているけれど試験を受けていないZ世代に向けて、試験を受けたくなるようなショートドラマを制作しました。

ただ、もともとショートドラマの制作してほしいという相談をいただいたのではなく、TOEICに苦手意識がある Z世代に向けても、挑戦できるような架け橋になるようなイメージで、パーセプションチェンジしたいと相談がありました。
鹿毛 TOEICのパーセプションチェンジをしたいという相談だったんですね。
今瀧 他にも「とりあえず、Z世代や若者に向けて何かしたい」というような相談も多いです。まずは会社やブランドの課題をヒアリングし、その課題に最も適した企画を提案します。InstagramやTikTokなどはあくまで手段ですから、最初からどのような手法で行うかどうかは決まっていない場合の方が多いですね。
鹿毛 大手広告会社のようにメディアを売る必要がないというのは、ものすごい強みですね。僕と私とという会社は、今瀧さんが暇で設立した会社で、そもそも資産がないし、売るものがないんですよね。
今瀧 おっしゃるように、企画・マーケティング会社だとリスクがほぼないんです。また、人件費に関しても「ジョブ型雇用」なので、正直リスクがありません。