社会変動を紐解き、マーケティングで時代を拓く #07

OpenAIの“Refreshed”に習う 日本経済成長のカギは「ヒト」の感じる知性【LIFULL篠﨑亮氏】

 

AI時代の今こそ「ヒト」の重要性を見直すべき時


 私は「叶えたい!が見えてくる。」をコンセプトに掲げる不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME’S」、また直近は株式会社LIFULL seniorが運営する介護施設検索サイト「LIFULL介護」に携わっています。日々の業務の中で、各業界における人材難が社会課題化していると肌で感じています。2023年に、不動産業界では入職者数が離職者数を約11万人下回り、この影響もあって前年比7割増の120社が倒産。介護業界では約233万人の介護職員が必要とされているのに対して実際の介護職員数は約214万人で約10%の人員が不足しており、今後も不足幅は増加する見込みです。

 介護施設の選択においては、病院からの退院時や自治体での要介護者認定後にご自身で探すほかにも、担当のケアマネージャーに相談される方が多いようです。しかし、ケアマネジャーの本来的な機能は、ケアプランの作成からモニタリングです。一人当たりの担当件数の平均は31.8件と、必要な人員が足りておらず多忙を極めます。施設紹介も担いますが、個人で判断せざるを得ず、事業者との関係性にも依存します。

 有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅など、さまざまな高齢者向けの住まいを検索できる「LIFULL介護」では、全国の介護施設情報を掲載しており、高齢者ご本人やそのご家族自身が施設の特性や違いを見て選ぶことができます。これは、2042年頃の高齢者人口のピークに向けて、社会のエッセンシャルワーカーの方の不足状況を支援していくという社会課題解決を担うソリューションであるとも捉えています。
  
介護施設検索サイト「LIFULL介護」

 こうした人手の問題は、近年は外国人労働者の増加によって助けられてきました。しかし、円安では、外国人観光客が増えても、外国人労働者の方は稼げず、各業界の必要な労働人員は賄いきれません。今年のゴールデンウィークはホテル価格の高騰がニュースになっていましたが、人手が足りず十分に部屋を稼働できないケースもあったようです。また先述した米の価格高騰の中でも、「コメ農家」の倒産・廃業数は前年比で2割増加し、過去最多を記録しました。その労働負荷と社会にとっての必要性に対して、現行の対価を支払う仕組みに課題はないのかと疑問を感じるところです。

 この人手不足をテクノロジーは解決できるのか。介護業界ではすでにAIによるケアプランの作成、またロボット介護機器による自立支援の事例が生まれています。また生成AI活用による人的コストの圧縮成果は、複数の企業が発表しています。しかし、介護の現場においては、人の手で人を抱きかかえて支えることと、そこにある体温は、AIに代替できるものとは思いません。

 住まい探しにおいても、第3回に触れたインサイトリサーチのインタビュー経験では「街の周辺に住む人を身近に感じるか」「内見で訪れた部屋に差し込む光や、音のボリュームは心穏やかに暮らせるイメージを抱けるか」といった、言語化しづらい価値を土地や部屋から五感で見つける経験が、成約につながる重要な要因になることを分析してきました。これは第5回で、景観や空間を「身近」に感じ、自分自身にとっての「意味」を見出す話と通じます。

 人口減少によって、「人が人に支えてもらう」という当たり前のように思われていたことが享受できなくなるかもしれない。身体性を用いて社会や経済に貢献する人々に対して、対価が正しく払われているように見えない。これは、悲観的な見方と受け止められるかもしれません。一方で、人の身体や物理的な空間を介することの価値の重要性は確かなもののように思います。消費の意思決定を促す経営者やマーケターは、ブランドを信じてもらう根拠として「ヒト」の感覚・感性の大切さを再度見直してみてもいいのではないでしょうか。

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