新・消費者行動研究論 #06

高齢者が同じブランドばかり購入する心理的要因とは【慶應義塾大学 清水聰】

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情報感度の高い高齢者ほど、肉体的・精神的な衰えを50代から認識【慶應義塾大学 清水聰】

購買層と一緒にブランドも歳をとる?

 マーケティングの「格言(迷信?)」のひとつに、「購買層の年齢が上がると、そのブランドも歳をとる」というのがある。

 商品のモデルチェンジ時の開発者のコメントとして、この「格言」を聞いたことがある人も多いだろう。年配の人よりも若い人に支持される方が、ブランドとして活力があり、かつ若い人は今後もずっと購買層として市場に残ってくれるので永続的に市場に残る、というのがその理由だ。

 しかし、この「格言」が通じるためには、「①若い人の方が年配層よりも新しいものを好み」、「②その若い人の人口がどんどん増えていく」という2つの前提が必要である。

 残念ながら今の日本の若者は、ブランドにほとんど興味を持たず、人口の25%が65歳以上の少子高齢化社会であるため、この2つの前提は成り立たない。むしろ、もしこの「格言」が正しいのなら、日本にあるブランドは、高齢者ばかりが支持してしまって、どのブランドもみな歳をとり、日本ではブランドビジネスが成り立たなくなってしまう。



 ブランドの捉え方には、さまざまな理論があるが、私が注目しているのが「ブランド・アドミレーション」の考え方である。これは、消費者行動論の大家である、南カリフォルニア大学のC.W.Park教授、D.MacInnis教授を中心に展開されている理論で、今までのブランド論がどちらかというとマネジリアルな視点で示されていたのに対し、消費者の視点から構築されているため、消費者調査からブランド力を測定できることが大きな特徴である。

 具体的には、「ブランドの信頼」「ブランド愛」「ブランドへの尊敬」の3つから成り立っている。現在、彼らから「日本の事例をつくることができないか」という打診を受け、ブランド力測定のためのさまざまな調査を行っている。そして、高齢者の研究から以下のことがわかった。

 まず高齢者は、一般の消費者と比べると、この3つの要素のうち「ブランドの信頼」の項目のウェートが非常に高いことがわかってきた。具体的には、ブランドの安心感・ブランドの安全性という「ブランドの信頼」を構築する項目が、評価する上で常に大事な項目としてあがってきて、その2つの項目が高くないブランドは好まないのだ。

 さらに、周りの評判がいいかどうかもブランドの評価では大事であり、高齢者が市場で地位を確立された同じブランドばかり購入し、新しいブランドをトライしない理由はここにある。

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