SNS・消費行動から見えてくるアラサー女子のココロ #07
若者向けに「便利で簡単」をつくり続ける人が見落としがちな1つの視点【りょかち】
人気サービスで見られる若者の「凝ったクリエイティブ」
「若い子たちは昔の我々と比べて文章を読まない」「若い子たちは昔の我々と比べて面倒なことが嫌い」
そんな、ことばをよく聞く。だから本は売れないし、新聞は読まれないし、難しい説明にはイラストが必須で、コンビニ食は大繁盛らしい。
“利便性の虜”なのは、若者だけでなく現代人すべてに言えることかもしれない。だからこそ多くのサービスのつくり手は、「少しでも文字を少なく」「少しでも簡単なフローで」「少しでもわかりやすい設計を」ということを目指す。
しかし、時々思うことがある。
「私たち、そんなに便利で簡単なものばかり求めていただろうか?」
ふと、最近若者の間で流行ったサービスを振り返ってみると、意外と「利便性」とは真逆のサービスだったりする。
2018年は、TikTokがもてはやされた一年だった。TikTokといえば短尺動画がどんどん流れていくのを閲覧できるアプリ。アプリでは、たくさんの若者が投稿した数秒の動画を次々に見ることができる。
動画をよく見ているとわかるのだが、これらの動画はとっても「凝っている」。一時期「あご乗せ動画(曲:count on me)」が大流行した。これは、いろんな場所でカワイイ女の子が画面上の手のひらにあごを乗せる(だけの)動画なのだが、女の子が動画の中であごを乗せる回数が5回程度ある。
その一回一回を別の場所で撮っていたり、別の女の子が写っていたり、別のリアクションをとっていたり、手のかかる編集がほどこされていたりするのだ。
他の有名曲でも何テイクも編集が必要な曲がたくさんある。そもそもダンスを踊る動画が多いが、そのダンスを覚えるのにすごく手間がかかる。各動画はその上で、そのダンスにアレンジも加えてオリジナリティを出していたりする。
同じ内容で言えば、少し前に流行したMix Channel(以後ミクチャ)も似たような傾向があった。多くのJK(女子高生)がミクチャに動画を投稿していたが、何枚もの写真を切り貼りして編集し、音楽をつけた大作をネット上にアップするのが流行っていたのである。私も真似して動画をつくってみたことがあるが、3分くらいの動画をつくるのに、5時間くらいかかった。
むしろ、若い子は何かを加工して作品を発表することに熱中したいのかもしれない。あるときは、LINEの「トプ画(トップ画像)」にするための画像加工もそうだし、自撮り写真を加工するのも緻密に作業しているし、Instagramのために何個もアプリを経由して自分だけのオリジナルな雰囲気のある写真をつくろうとしている女子大生もいる。
私たちはすべての瞬間において「少しでもラクをしたい」「ラクができたら幸せ」と思うわけではなく、むしろ愛着のある作品づくりのために「苦労してでも、思いを込めて良い作品をつくりたい」「自分の作品を誰かに見てもらって喜ばれたい」という思いに熱中していることのほうが多いのではないだろうか。
そして、その熱中した時間にこそ、私たちはシアワセや充実感の中にいる気がするのだ。