トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #18

Z世代の文脈にどうすればハマる? アサヒビール「夜ピク」の事例からFinT 代表取締役の大槻祐依氏が解説

前回の記事:
Z世代を取り込むためのマーケティング戦略とは?FinT 代表取締役の大槻祐依氏が考える「文脈」の重要性
 ソーシャルメディアの普及や発達により、企業からの情報発信だけでなく、顧客による情報発信や評判形成、企業と顧客の双方向的なコミュニケーションを踏まえたマーケティング活動が重要だと言われる時代。そんな「価値共創」の時代に、マーケターはどう価値を定義し、マーケティングの実務に落とし込んでいくのか。この連載では、Facebook Japan マーケティングサイエンス統括 執行役員の中村淳一氏がトップマーケターにインタビューし、そのヒントや考え方を解き明かしていく。

 第9回は、SNSマーケティング事業や、総合フォロワー数100万人の若年層女性向けSNSメディア「Sucle(シュクレ)」を運営し、おもにSNSマーケティングやZ世代マーケティング事業を展開しているFinT 代表取締役の大槻祐依氏が登場する。前編では、FinTが海外進出する背景とZ世代に向けてマーケティングする上で重要な「文脈」について詳しく聞いた。後編では、「文脈」を重要視しZ世代に向けたマーケティング施策とした具体事例や、熱狂させるコミュニティのつくり方などについて詳しく聞いた。
 

商品やサービスがユーザーのオケージョンに入り込み「価値共創」する


中村 前編ではFinTが海外進出する上で、日本との違いやZ世代にアプローチするときのコツなどについてお伺いしました。FinTにおいて価値共創とは何でしょうか。

大槻 ユーザーのインサイトを知り、それをいまの「時流」や「文脈」と掛け合わせて、マーケティングに取り組んでいくことが「価値共創」になると思います。ユーザーはすでに文脈を持っているので、そこに対して商品やキャンペーンを投下していくというイメージです。それによって、商品そのものや商品の背景をより理解してもらうことができると考えています。
 
FinT 代表取締役
大槻 祐依 氏

 1995年10月生まれ。早稲田大学の起業家養成講座を受講し、学内のビジネスコンテストで優勝。在学中の2017年3月にFinTを起業。「みんなの強みを活かして、日本を世界を前向きに」というパーパスのもと、SNSマーケティング事業や、総合フォロワー数100万人の若年層女性向けSNSメディア「Sucle(シュクレ)」を展開。主要事業であるSNSマーケティング事業にて、大手企業を中心に累計200社以上の企画、撮影から運用までサポートし、2023年5月にはベトナムにも進出。歌手・AIさんと共同で、SDGsに関するメディアを開設し、共同イベントも開催。ASEAN JAPAN Generation Z Leaders Communityにも選出され、ForbesにはASEANを目指す若手起業家として掲載。

私たちが運営している若年層女性向けSNSメディア「Sucle」も、ユーザーの声をいただき、「きょうのわたし、愛しいわたし」というコンセプトやメディアの世界観に合わせて投稿をつくっています。

加えてSucleでは、ユーザーとDiscordでコミュニティをつくり、そこからインサイトを汲んだり、オフラインイベントを開催したりしていますね。

中村  実際に「時流」や「文脈」と掛け合わせて、どのようなマーケティングをやっているのですか?

大槻 具体的には、一例になりますがアサヒビールさんと共にお取り組みを行なっています。アサヒビールさんは、2023年の6月に首都圏・信越エリアの1都9県限定で「アサヒ ホワイトビール」という商品の商圏を拡大させました 。その商品で 、インフルエンサー施策を行いました。ただ通常のインフルエンサー施策として商品を紹介してもらうのですなく、 当時Z世代の中で流行っていた“夜ピク(夜にするピクニック)”を開催し、その中で「アサヒ ホワイトビール」を飲んでもらうというコンテンツを考えました。“夜ピク”というのは「夜にするピクニック」を指し、それがいまのZ世代などの若者のトレンドになっているんです。

その夜ピクの様子をSNSに投稿してもらい、 夜ピクという文脈に「アサヒ ホワイトビール」が自然に入っていくように全体を設計しました。夜ピクニックという行為自体が、 SNSに投稿しやすい世界観になっているので、SNSでの発話数も非常に多くなります。その結果、 リリース時と同じくらいの発話数に繋げることができました。

また、現在ではDiscordに「Sucle Bar」 というコミュニティを立ち上げ、アサヒビールの担当者さんも含めて、ホワイトビールと合う商品や飲んでみてよかったシーンをシェアするコミュニティ作りにも取り組んでいます。

中村 面白い、そんなことにも取り組んでいるんですね。
 
Facebook Japan マーケティングサイエンス統括 執行役員
中村 淳一 氏

 慶応義塾大学経済学部卒。現在京都芸術大学大学院芸術修士(MFA)在籍中。2002年に消費財メーカー、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)入社、消費者市場戦略本部に所属。柔軟剤ブランド「レノア」の日本立ち上げのコアメンバーや、かみそりブランド「ジレット」、店舗営業チャネルシニアマネージャーを経たのち、13年からシンガポールにてグローバルメディア、アジア地域ビッグデータ担当のアソシエイトディレクターに着任。17年6月にフェイスブック ジャパン(Meta)入社。マーケティングサイエンスノースイーストアジア統括。他JMAインサイトハブコアメンバー等。

大槻 はい。その中で、より良いインサイトを発見できたりもするんです。世の中では、「若者がビールを飲まない」と言われていますが、女の子も含めて意外とみんな飲むときは飲むんですよ。

中村 今回の例でいえば、“夜ピク”という文脈であれば普通に飲むよ、ということですね。

大槻 そうだと思います。つまり、夜ピクという文脈の中であればビールを飲む人は、普段からお酒の種類を気にしているのではなく、お酒の可愛さを気にしている人だったんです。「アサヒ ホワイトビール」は商品の見た目が可愛いので、「インスタに載せていいビールがあったんだ」という認識で、SNSでの発話数が多くなったんだと思います。



中村 面白いですね。要するに、ターゲットであるZ世代にはそもそもその人たちの生活スタイルや興味の対象があって、そうした文脈にブランドがどうすればハマるのかを探すということですよね。オケージョンマーケティングにも近いと感じますが、そのオケージョンが時代によって大きく変化するので、その時々のものを見つけて当てはめなければいけないという話ですね。

大槻 そうだと思いますね。

中村 その時代の流れというのは、SNSが一番追いかけやすいということでしょうか。

大槻 そう思います。いまはSNSが時代をつくっていますよね。

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