企画職のための「1.5拠点居住生活」のすすめ #01

北海道・美瑛町にひと月まるごとプチ移住 「1.5拠点居住」実践レポート【前編】

 都市と地方にそれぞれ拠点を持ち、自由に行き来して生活する「2拠点居住」や「多拠点居住」への関心が高まる中、自分でもなんらか実践してみようと、今年の8月はひと月まるごと北海道・美瑛町にプチ移住することにしました。個人的には「1.5拠点居住」といったイメージで、今もその真っ最中です(あり得ないくらい、涼しいです)。その実践報告を、前編・中編・後編の3回にわたってお伝えしていきます。
 

プランニング系人材にとって“プチ移住”の価値とは


 こんにちは。多摩美術大学で広告論 / マーケティング論 / メディア論を教えている、佐藤達郎といいます。 ADKと博報堂DYでコピーライター / クリエイティブディレクターとして長年働いて、2011年から現職となりました。

 アジェンダノートでは、毎月1回のペースで連載「日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く」を執筆しており、2018年以降は毎年、カンヌライオンズの速報記事もお届けしています。
 
参考:
連載「日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く」
https://agenda-note.com/serialization/?contents_type=181
【速報】カンヌライオンズ2025現地レポート
https://agenda-note.com/serialization/?contents_type=496

 さて、北海道・美瑛町には8月1日(金)にやって来て、この原稿を書いているのは、ちょうど1週間経った8月8日(金)です。

 美瑛町に来ることにしたのは、町が募集した「美瑛町二地域居住体験住宅(幸町テレワーク住宅)利用」に昨年10月に応募して利用可能になったからです。町の公式サイトには、複数の申込があった場合「調整もしくは抽選」と書かれていますが、申請時に「体験住宅の利用理由」や「(体験住宅で行うテレワークの)事業計画書」まで提出しているので、実質的には“複数の希望者の中から選んでいただいた”のだと考えています。

 実は僕は2021年3月にも同様の募集に応募して(その時は応募者が僕だけだったと記憶しています)、美瑛町で3週間過ごしているので、そのご縁で今回の募集の情報も耳に入って来ました。

 

もうすぐ旭川空港。主翼越しに見える、北の大地。
 

美瑛駅は、旭川空港からバスでわずか15分。

 ここ美瑛町には、「いつもと違う場所で、涼しく、めいっぱい仕事をしよう」と考えて、資料を大量に持ち込みました(一部は宅配便でスーツケースごと送付)。ですので、今のところ観光らしい観光はしておらず、仕事漬けなのですが、プランニング系の人間にとってのプチ移住の価値を、すでに強く感じています。
 

美瑛駅は、レトロなたたずまい。

 プランニング系の仕事において、インプットの質は決定的に重要です。マーケティングにしろクリエイティブにしろ、企画は、なんらかの点で他とは違い、今までとは異なっているべきだと思いますが、その時に重要になるものとは何でしょうか?その一つがインプットです。そして、インプットで重要なものは、いわゆる“情報”の他に、環境だと思うのです。目に入って来るもの、耳に入って来るもの、脳に届くもの、心に響くもの……他の人と違い、いつもと異なるインプットが大変重要になります。

 だから、普段から新しいショッピングモールには顔を出し、美術館の展示も見に行き、新オープンの店にも行ってみて、なんなら音楽フェスにもチャレンジしてみるべきなのです。

 僕はいま、町営の「テレワーク実践用一戸建て平屋住宅」に滞在しているのですが、日々目に入って来るものが、都心のマンションの1室である自宅とは大きく異なっています。大きなリビングから見える広い空、都心では見かけない迫力のある雲、豊富な緑、人通りとクルマの往来の少ない道。
 

滞在中の町営施設、通称「ブラウンハウス」。
 

滞広いリビングから望む、静かな道の様子。
 

この辺りは碁盤の目状の道。空が、広い。

 プランニング系の仕事をする人は、「ずっと同じいつもの場所」に留まり続けてはいけないのです。フランスの哲学者ジャック・デリダの言葉と言われる「アイデアは移動距離に比例する」も同様のことを言っていると考えられます。思考の枠を固定化しない、その一つの実践の形がプチ移住ではないでしょうか?
 

なぜ2拠点ではなく1.5拠点か?


 では、今なぜプチ移住あるいは「1.5拠点居住」なのでしょうか?まず、2拠点でも多拠点でもなく「1.5拠点」としていることについて説明させてください。

「2拠点居住」というと、どうしても、場所Aと場所Bに半々ずつ住むということをイメージします。しかし、それは自分からすると“落ち着かない”し、仕事や日々の暮らしを考えても、難しい側面が多いと思うのです。僕がイメージするのは、例えば東京なら東京に8割過ごす(例えば10ヵ月暮らす)1拠点があって、その他に1ヵ所か2ヵ所、2割ほどを過ごす(例えば合計で2ヵ月暮らす)拠点があるというイメージです。
 

“テレワーク実践”住宅なので、WiFi設備もしっかり。

 “拠点”について考えてみると、自分の考えでは、①繰り返し行く、②ある程度の長期間滞在する、③できればその土地のコミュニティに参加する、という3つの要素が必要だと考えています。3つ揃わないと、それはまだ“旅行”です。

 そう考えると「多拠点居住」というのは、“多”がいくつくらいを表すかにもよりますが、原理的に難しいと思います。それは“拠点”ではないし、“居住”ではないのではないか?少なくとも自分自身は、そんな慌ただしい、落ち着かない暮らし方に魅力は感じません。それで、1.5拠点というわけです。
 

スーパーで買ってくる「地の野菜」が美味い!
 

レストランのランチ。トウモロコシと北海道ビール。
 

国も2拠点・多拠点居住を後押し


 いま注目すべき大きな動きとして、国が昨年2024年11月に「二地域居住促進法」(注1)を施行し、数億円規模の予算を計上して推進しようとしていることがあります。国が本気で乗り出すと、民間企業も参加しやすくなります。例えば日本航空が二地域居住を促進するプログラム(注2)を発表しています。

 ※注1:「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律」の一部を改正した上で導入された、「二地域居住促進」のための制度。改正前は、都道府県単位の大きな枠組みだけで動く仕組みだったのが、改正後は市町村と民間企業も巻き込んで、二地域居住に特化した計画や活動を正式に動かせるようにしたのが大きな違い。

 ※注2:JALが事務局を務める二地域居住推進コンソーシアム「二地域居住応援ネットワーク」が、JALマイルによって移動費を抑えながら二地域居住の体験ができるプログラム「つながる、二地域暮らし」を実施している。北海道上士幌町や長崎県壱岐市など6地域の中から希望の地域を一つ選び、実際にその地域とのつながりを育みながら二地域居住を体験することができる。


 そうした環境の中で、リモートワークは今までになく一般化してきています。僕自身が社外取締役を務める会社では、役員会さえもリモート参加が認められていて、先日も美瑛町から参加しました。

 もちろん、一方で「対面ワークの重要さ」も叫ばれ始めていて、一定程度の対面ワークが求められている企業が増えていると言われています。しかしながら、現実を見てみると、同時に「多様な働き方を認めようという動き」も確かに見て取れて、上司や会社との交渉次第では、限られたある一定期間(例えば1ヵ月)をオンラインワークだけにしてもらうことも、決して不可能ではないようです。そうした交渉を経て、自分の望む期間をオンラインで過ごしている、プランニング系の友人・知人を複数知っています。

 さて、ここ美瑛町に来てから、予定していた仕事は順調に進んでいます。住み慣れた都心のマンションや都心のカフェにいるよりも、かなり捗っている実感があります。捗っているのはなぜか?その点についても「中編」以降で解き明かしてみたいと思います。研究を含む様々なお仕事、引き続き、頑張ります!
 

広がる原野。いかにも、北海道らしい景観。

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