トップマーケターたちに聞く価値共創時代のマーケティング #22

「人間にしか表現できない“泥臭さ”がAIに勝つ」鹿毛康司氏が語る価値共創時代のマーケティング

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「人間にしか表現できない“泥臭さ”がAIに勝つ」鹿毛康司氏が語る価値共創時代のマーケティング
  ソーシャルメディアの普及や発達により、企業からの情報発信だけでなく、顧客による情報発信や評判形成、企業と顧客の双方向的なコミュニケーションを踏まえたマーケティング活動が重要だと言われる時代。そんな「価値共創」の時代に、マーケターはどう価値を定義し、マーケティングの実務に落とし込んでいくのか。この連載では、Facebook Japan マーケティングサイエンス統括 執行役員の中村淳一氏がトップマーケターにインタビューし、そのヒントや考え方を解き明かしていく。

 第11回は、日本を代表するマーケターであり、クリエイティブディレクターとしても活躍する、かげこうじ事務所 代表 マーケター クリエイティブディレクターの鹿毛康司氏が登場。現在は森永乳業、ほけんの窓口、バーガーキングなどさまざまな企業のマーケティングとクリエイティブの支援を行っている。 Agenda noteでは「鹿毛康司、モダンエルダーを目指す」連載も担当している。前編では、同氏が考えるAI時代にマーケターが求められる能力や価値共創で重要な「共鳴」と「共振」について、ファンマーケティングの事例を詳しく聞いた。後編ではファンを巻き込んだエステーの事例やAIではなく人間にしか表現できないことの重要性などについて詳しく聞いた。
 

「対話」を目的とした価値共創


鹿毛 「価値共創」の事例についてもうひとつ話すと、特命宣伝部というものを立ち上げました。一般のお客様数千人が会員です。エステーのコマーシャルや「空気を変えよう」の活動に関心を持っていただいている方にSNSでお声かけしながらやってきました。オンラインだけでなく例えば西川貴教さんが主宰する「イナズマロックフェス」でテントを張ってみなさんと出会う活動もしてきました。いわゆるオフライン会です。フェスに来た人たち数千人と写真を一緒に撮ったり、お話したりと普通に仲間としてお会いするんです。みなさん、私たちにお土産をもってきてくれます。この写真は1日でもらったお土産です。
  
西川貴教さんが主宰する「イナズマロックフェス」で行なったエステーのブースに届いたお土産
 
かげこうじ事務所 代表 マーケター クリエイティブディレクター
鹿毛 康司 氏

 2020年、エステー クリエイティブディレクター(役員)を退任して現在にいたる。 早稲田大学商学部卒、ドレクセル大学MBA。現在は森永乳業、ほけんの窓口、バーガーキング、ベストコ(塾)会社など様々な企業のマーケティングとクリエイティブの支援をおこなっている。同時にグロービス経営大学院(MBA)教授として社会人学生にマーケティングを指導。2021年には著書「心がわかるとモノが売れる」で、マーケティングに必要なインサイトと人間理解論を実務家の視点で発表した。マーケティング立案、特に時代に新しいコンテンツマーケティングやファンマーケティングも得意とする。クリエイターとしてもCMプランナー/監督/コピーライター/作詞作曲などもこなす。2011年の東日本大震災直後に手がけた「消臭力CM」は好感度日本1位を獲得)。ACC Gold、マーケターオブザイヤー(MCEI)、WEB人貢献賞など受賞。

中村 すごい数のお土産ですね。イナズマの現地では具体的にはどんな活動をされたのでしょうか。

鹿毛
 皆さんに『あなたの空気を変えた瞬間を教えてください』と投げかけて投票箱にいれていただきました。同時にフェスに来られない人もいるので、お留守番組の人のために特別サイトを作ってTwitter(現X)をからめて投票してもらいました。合わせて3300件ほどの投票が集まりましたね。

中村 投票の数も多いですよね。何か参加賞なんかも用意されたりしていたのですか。

鹿毛 「空気を変えた大賞」と大袈裟なタイトルつけましたが、投票証明書なるカード一枚を皆さんにお渡しただけです。参加した人に景品を渡すということはしないようにしてきました。エンゲージメントの薄い活動になるのを避けたかったからです。それからTwitter公開会議とよんでいますが、勝手に10くらいの人に私のニックネームのトリバ賞なんてものをライブ配信で発表したりしました。その方には倉庫にあるポスターだとかを見繕っておおくりしました。ただ、皆さん、景品欲しさで参加してはいなんですよね。

中村 (投稿を見て)この「明日も今日と同じとき」なんて投稿、これはインサイトフルですね。

鹿毛 おもしろいでしょ?本当に熱量高く面白い投稿してくれるんですよね。リアルのフェス、Twitter、ライブ配信、そしてコマーシャルがあり。タッチポイントはいろいろですが、私にとってオフラインとかオンラインとかの境界はないんですよね。

中村 こういう活動を長年やってきて別の動きにもつながるでしょうか。

鹿毛 「これをやったらこうなる」というハッキリしたことは言えないのですが、確実にやるべきです。数千人の人はインフルエンサーというよりも仲間ですよ。だから新しく何かをしようというときにも、特命宣伝部の人たちが仲間として応援してくれるんです。数千人の応援者が生まれるんですが、それはリーチで考える数千人ではないんです。

たとえば、新CMの時にTwitterのインプレッションが、彼に仲間を起点にして、ときにはポンと1000万、2000万になるということが起きるんですよ。有料広告はいっさいやらずにです。

中村 これまでの取り組みは拡散というより、どちらかというと「対話」を目的にされていますよね。それが新たな動きをつくっているわけですよね。
 
Facebook Japan マーケティングサイエンス統括 執行役員
中村 淳一 氏

  慶応義塾大学経済学部卒。現在京都芸術大学大学院芸術修士(MFA)在籍中。2002年に消費財メーカー、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)入社、消費者市場戦略本部に所属。柔軟剤ブランド「レノア」の日本立ち上げのコアメンバーや、かみそりブランド「ジレット」、店舗営業チャネルシニアマネージャーを経たのち、13年からシンガポールにてグローバルメディア、アジア地域ビッグデータ担当のアソシエイトディレクターに着任。17年6月にフェイスブック ジャパン(Meta)入社。マーケティングサイエンスノースイーストアジア統括。他JMAインサイトハブコアメンバー等。

鹿毛 お客様の生活の中に私たち企業をいれていただく。そうしたら、いろいろなアメーバの動きが起きていくという感じでしょうか。2004年にこんなカタチになったら良いなと思うものが、現実に起きてくるようになりました。

中村 そういうことですね。前編の話に戻りますが、AIができないのは鹿毛さんの活動そのものじゃないですか。

鹿毛 確かにこんな活動は今のところAIにはできないですね。人間にしかできないことですね。

中村 AIは、先ほどのお客様の投稿「明日も今日と同じとき」という文章を読んでも、おそらく評価できないのではないかと思います。そのニュアンスやコンテキストも含めて、共感して共鳴できるのは、やはり人間なのではないかなと思いますね。

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