最先端のマーケティング手法を探る~「VTuber」という新たなマーケティングの可能性~ #05

東京ドームシティを舞台に仕掛けたコラボ企画「hololive CITY」、期待を超えた驚きの集客力

前回の記事:
バーチャルタレントだからこそ超えられる壁、VTuberの活用方法とリスクとは
 現在、VTuber市場は急速に拡大しており、2022年には520億円だった市場規模が、2023年に800億円に達すると見込まれている(※矢野経済研究所調べ)。これは日本国内市場のみの推計に過ぎず、海外市場を含めると、2030年までには約1兆円規模に成長するという予測もある(※グローバルインフォメーション調べ)。新しい領域である「VTuber」というビジネスチャンスを、現代のマーケターは見過ごすわけにはいけない。

 本連載の第1~4回では、国内外で人気を集めるVTuber事務所「ホロライブプロダクション」の創立者であり、自らもYAGOO(ヤゴー)の愛称でVTuberファンから知られるカバー代表取締役の谷郷元昭氏がマーケティングにおけるVTuberの価値を伝えてきた。

 第5回では、2023年と2024年にホロライブと読売新聞東京本社が協働し「東京ドームシティ」で実施したVTuberイベント「hololive CITY」について、よみうりランド ボールパーク事業部 運営課 兼 経営企画室 経営企画課 課長補佐の奥谷祐氏と、カバー 営業企画本部営業部 セールスグロースチーム チーフプランニングディレクターの中野晃平氏が対談を実施。東京ドームシティを中心に、読売ジャイアンツや読売旅行も巻き込んで開催した企画の背景と成果について詳しく語った。
 

IPでもありタレントでもあるVTuberの強み


―― 2023年に実施した「hololive CITY」はどのようなイベントだったのか、VTuberを活用した狙いや企画の背景について教えてください。

奥谷 2023年夏に開催した読売新聞主催の「hololive CITY」は、「ホロライブプロダクション」が東京ドームシティをジャックした大型イベントです。具体的には、東京ドームシティ アトラクションズのアトラクションや施設、読売旅行のツアー、プロ野球チーム「読売ジャイアンツ」とのコラボレーション企画など、幅広いエンターテインメントを提供しました。さらに、ホロライブ5期生の単独ライブも開催し、ファンが多面的に楽しめるイベントになったと思います。
   2023年の夏に「ホロライブプロダクション」が東京ドームシティをジャックした「hololive CITY」のキャンペーンは、第3回の「『VTuber』とのコラボキャンペーンの成功法則、キーワードは『二面性』と『親和性』」で詳しく紹介している
 
よみうりランド
ボールパーク事業部 運営課 兼 経営企画室 経営企画課 課長補佐
奥谷 祐 氏

 2008年よみうりランド入社。約10年間、よみうりランド遊園地のイベント企画、広報、宣伝などを担当。その後、広報部に異動後、読売新聞へ出向。現在はよみうりランドのボールパーク事業部 運営課 兼 経営企画室にて、TOKYO GIANTS TOWNのプロジェクトに携わる。

カバーさんとは最初の取り組みは、2019年によみうりランドで開催したイベント「Vtuberland2019」です。当時、私はよみうりランド遊園地でイベント企画の担当をしており、イベントの成功を目の当たりにしました。

その後、読売新聞に出向することになりましたが、同社も新たな事業や企画に積極的にチャレンジしたいという意向を持っていました。ちょうどその頃、VTuberの人気がさらに高まっていたため、何か一緒にできることがあるのではと考えて、カバーさんに連絡を取り、2023年に「hololive CITY」が実現したのです。その後、私は再びよみうりランドに戻りました。

「hololive CITY」の東京ドームシティ一帯をホロライブ色に染めるというアイデアは、中野さんも含めたプロジェクトメンバーでブレインストーミングする中で生まれました。「Vtuberland2019」での成功体験もあったので、自分の中では、遊園地で展開していくイメージはできていました。また、「読売ジャイアンツ」もこれまでさまざまなIP(知的財産権)とコラボしていたため、おもしろい取り組みになるなと。そこにライブやグッズの販売を組み込む形で決まっていきました。

読売新聞としても、読売ジャイアンツや読売旅行、そして東京ドームとグループ間の連携の機会を得られたことで、それぞれの強みからシナジーを生みだすことができ、非常によかったと思っています。

―― VTuberはイラストや動画だけではなく、ライブなどのいろいろな企画が展開できるというのも、大きなポイントなのでしょうか。

奥谷 そうですね。遊園地でラッピングやフォトスポットの設置、読売ジャイアンツとのコラボグッズの制作は、他のIPでもできます。ただ、実際にVTuberがリアルのライブを行ったり、野球の試合のアナウンスを担当したりする取り組みは、VTuberならではだと感じています。コラボできる領域は2019年よりも格段に広がっており、お客さまの熱量も高いため、リアルイベントとの親和性はとても高いと感じます。

中野 VTuberの強みは、IPでありながら、タレントでもある点にあります。「hololive CITY」のスキームを、たとえばアイドル系のゲームで実施するとしたら、ライブやボイスコンテンツは声優が行い、パネルなどのビジュアルはアニメルックなアイドルの「キャラクター」が露出するといった形で、同一ブランド内でもリアルとIPの役割をある程度、切り分ける必要があります。

その点、VTuberはIPとしてもタレントとしても「本人」という一貫性があり、かつイベントは普段配信やSNSなど画面の向こう側で活動している中で、私たちの住む「こちら側」に寄ってくる実在性を感じることのできる機会なため、それ自体がコアなファンにとってもライトなファンにとっても特別感のある体験となります。

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