中国の「リアルな生活者」の姿を追う #04

アリババとJDで8割を占める中国EC事情、ニューリテールの実力と変革

前回の記事:
不安視される経済も、依然高い中国の消費意欲。購買の決め手は「質問行動(Ask)」

アリババに負けたAmazon、中国から撤退


 先月下旬、米国Amazon社が2019年7月以降、中国向けのネット通販事業から撤退するという報道が流れ、世界中に衝撃が走りました。

 ネット通販事業における先駆者的な存在であるAmazonは、2004年より中国市場に参入し、2008年に最高15%までシェアを伸ばしましたが、近年はアリババ(阿里巴巴)やJD(京東)をはじめ数多くの中国ネット販売業者とのし烈なシェア争いの結果、撤退することになりました。

◆中国EC市場規模及び増加率の推移(2013~2020)
出所:iResearch
 一方で、小売業界の市場競争は、決してオンラインだけに留まっているわけではありません。確かに、中国ではアリババやJDのような巨大な資金力を持つITプラットフォーマーたちが展開しているオンライン販売店が、商品アイテム数やディスカウント率といった優位性を用いて市場全体の拡大を牽引してきました。

 現在、アリババとJDの2社だけでオンライン市場の約8割のシェアを占め、ほぼ独占という状況が続いています。しかし、この1~2年の間の新たな動きとして、「新零售」(日本語訳:ニューリテール)と言われているような、オンラインサービスの利便性とオフライン実店舗のリアル体験を統合させた新しいリテール事業にも積極的に動き出し、ネットワーク拡大に取り組んでいることが業界では話題となっています。

 先日、家族と一緒に週末の買い物に出かけた際に、アリババが展開している「盒馬鮮生」というスーパーマーケットへ行きました。店に入ると、明るい店内には商品の品揃えが豊富で、商品棚も綺麗に並べられており、今までのスーパーマーケットよりずっと清潔感があって、しかも高級感も感じられることが印象深かったです。買い物に来ている客層は、若者カップルや子ども連れの家族がいれば、年配の老夫婦もいます。また、値札を見る限り、普通のスーパーとあまり変わらない価格設定となっているため、必ずしも富裕層向けの高級スーパーというわけでもない印象です。
 
「盒馬鮮生」の店内画像
 もちろん、明るい店内と整えられたディスプレイの綺麗さだけではなく、オンラインとオフラインの融合による新しい小売サービスの発想が実践されていることにも新鮮味を感じました。店内ではデジタルテクノロジー技術を駆使した新たな買い物体験があふれています。例えば、店内での商品会計はすべてスマホアプリ「盒馬」によるキャッシュレス決済で行われます。セルフレジの前でお客さま自身が各商品のバーコードをかざしながら会計しており、子どもや年配のお客さまでも一人で操作できる比較的に簡単な操作性です。お客さまにとっても、実用性だけではなくちょっとしたハイテク感も得られるため、今までにない新しい買い物体験となっているともいえます。
 
「盒馬鮮生」のセルフレジ
 また、店舗に来なくても、「盒馬鮮生」が提供しているデリバリーサービスは、配達エリア内であれば注文してから最短30分以内、もしくは指定した時間帯に自宅まで商品が届くサービスも簡単に利用できます。

 例えば、仕事を終えてオフィスを出る直前にスマホで晩御飯の素材を注文すれば、自宅に到着すると同じタイミングに商品も届く、という感じです。中国では、ほとんどの世帯で夫婦共働きが普通となっているため、今、中国都市部に住む20~40代の共働き世帯にとって、「盒馬鮮生」は生活用品の新しい購買チャネルとして定着しつつあり、多くの生活者にとっては生活インフラとして欠かせない存在と言っても過言ではありません。
 

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