2069年のクォンタムスピン #01
SF小説で、未来のマーケティングを描く 「2069年のクォンタムスピン」
2020/01/14
「2069年のクォンタムスピン」の背景となる社会:シンギュラリティを迎えた未来人類社会
西暦2050年、シンギュラリティを迎えた人類社会は、グローバリズムの究極の形としてふたつの人類に分けられた。
国や地域で住み一切の移動が禁じられた「レジデンツ(Residents)」と、居住可能な都市であれば自由に行き来でき、観光資源が豊かなエリアには制限付きで移動可能なアドレスホッピングが許された「グローバルホッパー(Global Hopper)」だ。
レジデンツは、居住エリアの管理政府「旧国家(Authoritiesオーソリティーズ)」によって条件は異なるものの、グローバルガバメント憲法に定められた生存の権利によって、生活水準はベーシックインカムなどの提供により保証されており、個人認証にも財布にもなる埋め込まれた生体チップによって、移動可能な範囲であれば自由に仕事を得て生活することができる。
レジデンツは所属するコミュニティによって扱う貨幣が異なり、その貨幣価値によってベーシックインカムが配分されているので、基本的に自分たちが住むオーソリティ以外の外貨を取得することは禁じられている。
グローバルホッパーの居住エリアは第一級スマートシティ経済特区(1st Class Smart City Economic Districts通称スマートシティ)であるトロント、サンフランシスコ、上海、ニューヨーク、東京、シンガポール、シドニー、バンガロール、ロンドン、パリ、ベルリン、ドバイ、アレキサンドリア、モスクワ、ヨハネスブルグ、サンパウロ、メキシコシティの17都市で、基本的にどのエリアもパスポートやビザなしで居住可能である。その他の地域は、レジデンツが属する「オーソリティーズ」が定めるエリアのため、そのコミュニティの規則に従わなければならず、昔のようなパスポートやビザの形での滞在の許可が必要である。
グローバルガバメントが定める憲法によって、グローバルホッパーは、高度な研究開発や産業発展に寄与することで高い付加価値を生み出す役割を担い、その生産性からレジデンツのベーシックインカムを負担する税制度がとられている。
グローバルホッパーにも生体チップが埋め込まれているが、レジデンツより収入水準の高さがあり、何より移動と財産の自由度が高い。決済はスマートシティ共通のブロックチェーン技術によるグローバルクリプトカレンシーが使える。それは生体チップ経由なのでセンサーがあるところなら、どこでも利用可能であるが、レジデンツの発展エリアでは旧貨幣を使用することもある。
生体チップにはレジデンツと共有のグローバルガバメントが設定した社会的情報や財産管理の情報のための手のひらに埋め込まれたソーシャルチップ(social tip)以外に、頭につけられたサブブレイン(sub-brain)と呼ばれるプライベート知能チップ(private intelligence tip)がある。これはスマートシティに住むグローバルホッパーならば欠かせないもので、簡単な調べものだけでなく、高度な計算をする際にも脳の活動の補助し、また記憶を助けてくれる。サブブレインは脳活動に過度に負荷がかからないように監視する役割もあり、また企業が過度にメッセージを送ることも禁じている。
プライベート知能チップ「サブブレイン」はGoogleやFacebook、マイクロソフト、アリババ、タタなどのIT企業がそれぞれ開発し、スマートシティではグローバルホッパーのシチズンスコア(citizen score)によってアクセスできる情報が変わる。最近、そのスコアによってターゲティングされた人が寝ている間にインセプションされたことでグローバルガバメントのカウンシルメンバーの選挙行為が不正に行われた疑惑が巻き起こり、カウンシルのサンフランシスコシティ代表が辞任することになった。
そのため現在はサブブレインには、脳に不自然なフィードバックを与えているかどうかをチェックするグローバルサブブレインアンチインセプションポリシー(Global Sub-brain Anti-inception Policy 通称GSAP)を制定する運動がロンドンやベルリン、モスクワを中心に起きている。
とりわけビジネス業界では、サブブレインに悪影響を与える企業からのメッセージ規制が始まり、スマートアシスタントを搭載したスマートシティ内のアンビエントデジタルサイネージやスピーカーディスプレイに、サブブレイン分類のルールを強化する方針となるなど、デジタルコネクトのテクノロジー規制が益々厳しくなることが予想されている。
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