2069年のクォンタムスピン #02
「変わるチームワークとアイデア創出」SF小説で未来のマーケティングを描く②
2020/02/06
突然のブラックアウト
それは前触れもなく、突然起こった。最初は地震のような衝撃を感じたが、地面は揺れていなかった。部屋の中は真っ暗になった。オートコントロールされているカズアキのマンションは数分で非常電源に切り替わるはずだが、いまだに部屋は暗いのままだった。
夜中であることはたしかだが、いま何時かを調べようにもすべての機器がロスしている。あのメモは、やはりこのことを示していたのか。サブブレインの非常警報アラートは作動していない。むしろすべてのネットワーキングが切れた状態で、プロタゴラスにもコネクトされていないようだ。
窓際に歩いて行くと、あたり一面は真っ暗だ。情報がないまま外に出るのは危険かもしれない。そう思ううちにカズアキの意識はサブブレインから逆ハックされて、強制シャットダウンされた。
衛星軌道上の研究施設「ウラヌス」
インド洋上の赤道付近にある軌道エレベーターの終点となっている、衛星軌道上の宇宙ステーション研究施設「ウラヌス」は、太陽系の宇宙開発を目的にグローバルガバメントが設置した最新設備である。ウラヌスのひとつの目的は、衛星軌道上に移住可能なコロニーとして新しいスマートシティを2100年までに建設することだ。
ウラヌスのコントロールセンターから地球を見下ろすひとりの男がいた。ドクター・ハンス・イドリュム。彼はグローバルガバメントのなかでも特にクラスの高い上級グローバルホッパーでウラヌスの所長だ。彼は、プロタゴラスに関わるマスタービルダーと呼ばれる主任エンジニアのひとりでもある。
ドクター・イドリュムはウラヌスのコントロールセンターから外を眺めると、太陽の陰になった夜の美しい地球の姿が見えた。ドクターは早速グローバルガバメント専用のレーザー通信で地上へ連絡を取った。
「大佐、予定通り、パシフィックエリアのノーストーキョータイムゾーン22でピンポイントEMPをアクティブにしてくれ」
「ドクター、パシフィックエリアをカバーするブルーフォースはEMPのアウトレンジに退避させてあるが、オーソリティーズにはもちろん勧告はしてない。トーキョーのオーソリティーズたちから激しいクレームが来るぞ」
リヒター・ダグラス大佐は、グローバルガバメント直下の軍隊 ブルーフォースの軍人で、担当はパシフィックエリアである。
「承知の上だ」
ドクター・イドリュムは冷たく言い放った。
「それよりEMPがアクティブの間に、ターゲットの資源を確保するミッションを頼む」
「もちろん、そのためのプログラムだ」
衛星軌道上の軍事衛星であるマーキュリーから、カプセル形状の小型ニュークリアミサイルがローンチされ、大気圏外の所定エリアで爆発した。核爆発は強力な電磁パルスを発生させて、地上の電子機器に障害を引き起こした。ウラヌスから美しく光って見えていたトーキョーのスマートシティを中心に一帯が一気に真っ暗になった。コントロールセンターのパネルにはデジタル表示でパシフィックタイムゾーンの時間が22:00を指していた。
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