アセアンのリアルな生活者の姿を追う #03

アセアンの生活者にとって、消費は将来の収入のための投資行動?【博報堂生活総研アセアン 帆刈吾郎】

アセアンは“総中流意識社会”へ?

 近年、アセアンでは「中間層が台頭している」といわれています。

 日本の経済産業省が平成24年7月に発行した「新中間層獲得戦略~アジアを中心とした新興国と ともに成長する日本~」というレポートには、次のように書かれています。

 「新中間層を所得により2つに分けて捉えることが市場戦略の構築に当たり有用となる。下位中間層(家計所得5000ドル~15000ドル)と上位中間層(家計所得15000ドル~35000ドル)である。下位中間層は、貧困から脱し、まさに市場経済に参入し始めた人々から構成される。まず新しい衣服を購入し、必要な家電製品を買い求めていく。テレビ、 洗濯機、冷蔵庫などを競って購入していくのがこの階層である。最近では、下位中間層まで携帯電話が普及をしている。(中略)上位中間層は、市場経済を楽しみ、様々な家電製品を購入し、医療、教育などのサービス支出を増加させ、週末や夏期・冬期の長期休暇にレジャーを楽しむ余裕のある人々である。乗用車を購入することも上位中間層入りの一つの目 安となっている」

 ここでは基本的に中間層を家計所得(世帯年収)で規定しているのですが、今回のケースでみたように、ごく普通の人が本業で必ずしも十分な収入を得られているわけではないため、副業を通して消費を含めた希望の生活を実現していることが多いようです。

 ですので、こうした収入統計が副業まで含んだものなのか注意して見る必要があります。

 副業については、収入が月によって一定でないなどの理由をつけて、多くの対象者が余り積極的に他人に教えたがらない傾向にあるため、もし申告された収入が本業の収入だけだった場合は、他に副業収入はないか、本業と副業合わせた本当の可処分所得はいくらなのか理解する必要があります。
 

各国SECによる中間層と中間層意識を比較



 こちらは、博報堂生活総研アセアンがまとめた、収入で規定した中間層の比率と、自己意識(アンケート)で規定した中間層の比率を比較したものです。各国ごとの棒グラフで左側が収入で規定した中間層の比率です。

 先述したSECの規定をもとに、BクラスとCクラスを中間層とした場合、どの程度の比率を占めているかを表しています。例えばインドネシアでは56%が中間層にあたります。

 それに対して右側が自己規定の中間層になります。各国生活者にアンケートを取り、自分 をアッパークラス、ミドルクラス、ローワ―クラスのうちどこに属すると思うか?という質問に対しミドルクラスと回答した人の比率です。例えばインドネシアでは85%が自分は中間層と回答しています。

 こうして収入規定の中間層比率と自己意識規定の中間層比率を比較してみると、アセアン各国で収入規定の中間層よりも、自己規定の中間層のほうが広く分布しています。ベトナムに至っては96%の人の意識が中間層でした。

 これは、まるで日本がかつて一億総中流という意識をもった時代のように、アセアンにおいて「総中間層意識社会」が形成されているように見えます。

 実際には、アセアン各国は依然厳然たる階級社会の部分が強いと考えられますが、こと自己意識に限って言えばかなり多くの人が中間層意識を持てている社会だととらえることができそうです。

 そして、この中間層意識社会の形成にあたっては、モバイルやSNSの普及による、副業収入の拡大が貢献している部分も大きいのではないでしょうか。
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