【速報】ブランドマーケターからみたカンヌライオンズ2024 #02
ブランドマーケターがカンヌライオンズを目指す意義とは?ヤマハ「だれでも第九」のエントリーで感じた学びと本音
2024年6月17日から21日まで世界最大のクリエイティビティの祭典であるカンヌライオンズが開催されました。今年も97を超える国と地域から約1万2000人が参加し、閉幕したばかりの映画祭と肩を並べる盛況ぶりです。今回は、ヤマハ ブランド戦略本部コーポレート・マーケティング部 リーダーの加藤剛士氏が、現地で参加した学びや気づきをブランドマーケター目線で語ります。前編では、ブランドマーケターがカンヌライオンズに参加する意義やブランド企業に求められるエージェンシーとの向き合い方について紹介しました。後編では、ブランドマーケターがカンヌライオンズを目指す意義と、ヤマハとしてエントリーした「だれでも第九(The Joyful Piano)」の結果について詳しく語ります。
アワード作品から見えてきた潮流は「ユーモア」
開催期間中、毎日19時から 満員のアワード会場にあふれる笑い。昨年は「振り返ればAI」と言ってもいいぐらいに、生成系AIにどう向き合い、活用していくかが話題の中心でした。時折、平和を願うシリアスな作品が目につきましたが、今年はその流れが「ユーモア」に置き換わった印象です。
P&GのCBO(Chief Brand Officer)であるMark Pritchard氏が紹介した最新キャンペーン「Everyday Champions」は、アスリートを支える周囲をユーモアたっぷりに表現しています。クリエイティブのお手本として使われる過去のキャンペーン「Thank you, Mum.」の心揺さぶられる感動軸とは大きく異なるアプローチです。このあたりのクリエイティブ・ジャンプは世相を反映しているなと強く感じます。
※P&Gの「Everyday Champions」は会場では動画が上映されましたが、現在動画は公開されていません。間もなくの公開を待ちましょう。
ヤマハ「だれでも第九」の結果やいかに!?
さて、少しヤマハの話をさせてください。今年は当社も5部門にエントリーしました。障がいのある3人がAIピアノのアシストで、プロのオーケストラや合唱団と共演し、ベートーヴェンの交響曲第9番(第九)を奏でるというかつてないコンサートを開催し、誰ひとり取り残されることの無い世の中を目指した取り組みです。題して、「だれでも第九(The Joyful Piano)」です。
ピアニストの挑戦と当日のパフォーマンスにフォーカスした「Entertainment Lions for Music」を軸にしたもの、製造業としてAI技術とその実装にフォーカスした「Creative Data」を軸としたものと、エントリー素材の最適化やカテゴリに特化した記載をプロジェクトメンバーでまとめていきました。
その結果は、CREATIVE DATA部門とLUXURY & LIFESTYLE部門でショートリスト入りでした。感想は後述します。
広告主としてカンヌライオンズ受賞を目指す意義
ブランドマーケターからみたカンヌライオンズは大きく3つの機会を提供してくれます。
ひとつ目は、組織の力を高めていく「学びの機会」です。日々の競合を意識した仕事とは異なり、現地では社会や潮流、意義など視座を少し高めた会話が繰り広げられます。
2つ目は、社内では気づけていない価値を見つける「棚卸の機会」になることです。カンヌライオンズにエントリーするために何か特別なことをするのではなく、自社に存在するものの世の中に伝わっていない価値を掘り下げ、再定義を含めて世の中に問うことで、受賞結果を超えた実りが組織にもたらされます。
3つ目が最も大切かもしれません。社内連携が強化される「組織力アップの機会」になることです。多くの事業会社の皆さまは、予算実行計画書の中で「関係部門との連携強化」と書いていないでしょうか(笑)。今回の「だれでも第九」企画ではマーケティング、広報、研究開発、商品事業部、現地法人、そして東京藝術大学などの外部組織とのスクラムが不可欠な取り組みでした。広告会社も忘れてはいけません。本当に感謝しています。
「だれでも第九」という可視化され共有されたコンセプトのもと、コンサート当日まで走り続けたわけですが、「連携しましょう」という最初の段階を強制的に終わらせてくれましたね。いまでは、別件であっても他部門とのやりとりが円滑になってきました。
これら3つは最初から目指したものではなく、カンヌライオンズにエントリーした活動を通じて得られたものを若干きれいな言葉にして表現したものです。