「ADFEST」萩原幸也氏レポート #05

「ADFEST 2025」受賞11作品をリクルート萩原幸也氏が解説、衝突の先にある新しい可能性が見えてくる

前回の記事:
世界が注目のエージェンシーGUTが語る「勇敢さの6つの指標」【ADFEST 2025レポート:リクルート萩原幸也氏】
 アジアを代表する広告クリエイティブの祭典「ADFEST 2025(アドフェスト2025)」。今年は3月20日から22日に、タイのパタヤで開催されました。会場には55都市から783人の参加者が集まり、55のスピーカー・セッション、アワード、ネットワーキングパーティーなど盛り上がりを見せました。今回は、現地に足を運んだリクルート マーケティング室 クリエイティブディレクター/部長の萩原幸也氏が、前編では会場の様子や、今年のテーマである「COLLiDE(衝突)」を捉えた注目のセッションについて解説しました。後編では、「ADFEST 2025」の中でも特に印象的だった海外の受賞作品を解説します。
 

海外の受賞作品の5つの傾向と事例


 後編では、「ADFEST 2025」で受賞した海外の作品を紹介します。今年は合計1641作品のエントリーがあり、19都市から集まった63人の審査員がグループに分かれ、受賞作品を決定しました。アワードは合計で22のカテゴリーから構成されていますが、ひとつの作品が複数のカテゴリーで受賞するというケースもあります。ここで紹介するのは、多くのカテゴリーで受賞し、今年のADFEST(以下:アドフェスト)を象徴するような作品です。

 受賞作品はカテゴリーごとの影響を受けて選ばれるため、そこから全体の潮流を語ることはあまり意味がないと思っていますが、今回はあくまで個人的な観点から以下の5つのテーマに分けて分析しました。今年の代表作品と言えるいくつかの事例を紹介していきます。

 1. ブランド資産の発見
 2. アクセシビリティへの挑戦
 3. 予防のクリエイティビティ
 4. インフルエンサーとのコラボレーション
 5. 課題と仕組みのクリエイティビティ

 

1. ブランド資産の発見


 まず「ブランド資産」と聞いて思い浮かべるのは、ロゴやキャラクター、ブランドカラーといった視覚的、記号的な要素かもしれません。しかし、ブランドが人々に長く親しまれ、愛される背景には「イメージ」「感情」「意味」といった、より抽象的な価値が蓄積されています。

 たとえば、「信頼」「笑顔」「休憩」など、無形だけれど確かに存在するイメージも、立派なブランド資産です。しかし、それらが抽象的なままだと戦略的に活用しにくいのも事実です。

 そこで重要になるのが、それらの資産が表れている「モチーフ」を発見し、課題に応じて再解釈や再活用していくというクリエイティビティです。ここで紹介する3つの事例は、そうした「見えにくいブランド資産」を丁寧に掘り起こし、時代や文化の中で再び意味づけを行うことで、新たな価値創造へとつなげた好例です。
 
  •  作品タイトル:「THE MEANING OF BENZ」MERCEDES-BENZ
  LOTUS ROOTS:GRANDEなどを受賞

 タイ国内において、メルセデス・ベンツは単なる高級車ブランドではなく信頼やステータス、成功といった意味が長年にわたり人々の中に浸透しています。「ベンツ」という名前を子どもに付ける親がいるほど、そのブランドが文化に根ざしています。

 この映像では、車そのものは一切登場せずに「ベンツ」という名前を持つ人々へのインタビューで構成されています。彼らにとって「ベンツ」という名前がどんな意味を持ち、どのように人生に影響を与えているかを語ってもらうことで、ブランドが単なるモノではなく「個人の願望や誇りに寄り添う存在」であることを描き出しました。
 
引用:ADFEST 2025
 
  •  作品タイトル:「Sad Kama-Chan」Bar B Q Plaza
  DIRECT LOTUS AWARD:GRANDEなどを受賞

 タイで37年以上にわたり親しまれてきたバーベキューレストラン「バーベキュー・プラザ」は、多くの競合の登場とともに売上が低迷する中、メニューの中に必ず入っている笑顔のかまぼこ「かまちゃん」を悲しんでいる表情に変えるという大胆な施策に打って出ました。この変更は来店客に大きな反響を呼び「なぜかまちゃんが悲しんでいるの?」とSNSで話題になり、そこから自然と店への注目が集まり、再来店を促進しました。やがて「目標達成で元の笑顔に戻る」というキャンペーンを展開し、顧客参加型のストーリーへと拡張したのです。
  引用:ADFEST 2025
 
引用:ADFEST 2025
 
  •  作品タイトル:「KITKAT BREAK BAR」KITKAT
  OUTDOOR LOTUS:SILVERなどを受賞

 ネスレのKITKATの世界的スローガン「Have a Break, Have a KitKat(休憩しよう)」は、単なるキャッチコピーを超えて、ブランドそのものの資産になっています。 フィリピンでは、ローカル文化として店舗の従業員が休憩を取るときに傘や棒をドアのかんぬき代わりに使うことで「今は休憩中ですよ」というサインにする習慣があります。これを活かしてKITKATは、「オリジナルの休憩用バー(BREAK BAR)」を制作し店舗に配布。ローカルの文化とブランドメッセージが直感的につながるこの仕掛けは、「休憩=KITKAT」という認知をより日常的で物理的な形に落とし込んでいます。


引用:ADFEST 2025
 
引用:ADFEST 2025
 

2. アクセシビリティへの挑戦


 日本でも改正障害者差別解消法の施行(2024年4月)を背景に、アクセシビリティが注目されています。さまざまな事情を抱える人にサービスを平等に提供するためには、技術だけでなくクリエイティビティが必要になります。

 たとえば、視聴覚に障がいのある人に、どうすればオンラインゲームを楽しんでいただけるか?という問いに向き合っています。また、こうした試みは、ライターがそもそも片腕の人でも火を起こせるように発明されたものだったように、イノベーションを起こすきっかけになり得ます。

 アクセシビリティの取り組みは、単に「誰かのため」だけではなく、結果的にすべての人にとって使いやすく、快適な体験を生み出す力を持っているという視点です。対応すべき問題ではなく、可能性を広げる視点として捉える重要性を教えてくれます。
 
  •  作品タイトル:「JBL QUANTUM GUIDE PLAY」JBL QUANTUM
  BRAND EXPERIENCE LOTUS:BRONZEなどを受賞

 世界に5000万人以上の視覚障がいを持つゲーマーがいる中で、視覚障がい者向けへアクセスしやすいFPSゲームはありませんでした。視覚障害者協会と2年にわたる研究を基にAIと機械学習を活用しゲーム環境内のオブジェクトや構造を音に変換するシステムを開発しました。
  
引用:ADFEST 2025
 
引用:ADFEST 2025
 
  •  作品タイトル:「JFIT MY FEET」BUCKAROO FOOTWEAR
  INNOVA LOTUS:GRANDEなどを受賞

 インドでは130万人もの人が先天性内反足(生まれつき足全体が内向きで、足くびが硬く、正常な形にもどせない病気)に苦しんでおり、靴を履くことができないという問題があります。しかし、多くの人は高額な外科手術や靴を購入する余裕がありません。そこで2.4ドルのカスタマイズ可能なビーチサンダルキット販売し、十分なサービスを受けられない人々を支援すると同時に、インドの靴職人たちに新たな自立型の収益モデルを生み出しました。その結果、整形外科の知見と分散型流通モデルにより移動の自由、経済的公平性を促進。22万8000足以上が販売され、インド全土で生活と生計が改善されました。
  
引用:ADFEST 2025
 
引用:ADFEST 2025

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