江端浩人のAdvertising Week New York 2018レポート #02
ウォルマートは、なぜAmazonに唯一対抗できている米国・小売業になれたのか
R/GAが語る3つの「Transformation(変革)」
前回に続き、「Advertising Week New York 2018(アドバタイジングウィークニューヨーク)」における重要なキーワードを紹介する。それは、「Transformation at Speed:Disrupt or be Disrupted(スピーディーな変革:破壊するか、されるか)」である。
多くの変化が速いスピードで起きているため、全ての企業が自分の領域が「Disrupt(主にビジネスモデルの崩壊)」される前に、自らが「Disruptor(破壊者)」として創造的な変革を実践しないと、ビジネスそのものがなくなることもあり得る。
これはR/GA社の「Advertising Week」でのセッションと、企業訪問時でのウォルマートについてのレクチャーを通じて、ハイライトしたい(講演「Transformation At Speed: Bob Greenberg Founder, Chairman and CEO, Saneel Radia SVP, Jess Greenwood SVP, Barry Wacksman EVP, Ben Williams VP」)。
世の中の全てが、「Disrupt(破壊)」されている。それは、R/GAも例外ではなく、これまで5回ほど事業を再構築している。「Transformation(変革)」が重要なのである。
「Transformation」には、「BT=Business Transformation(ビジネスの変革)」「ET=Experience Transformation(体験の変革)」「MT:Marketing Transformation(マーケティングの変革)」の3種類がある。それは、ビジネスのライフサイクルにより何を変革する必要があるかは変わってくる。
例えば、ベンチャーはETが重要、早く成長している企業はMTが重要、成熟した企業はBTが重要など、企業の状況によっても違ってくる。
R/GAの企業訪問では、創設者のボブ・グリーンバーグ氏とグローバルチーフストラテジーオフィサーのバリー・ワックスマン氏が時間をとって、考え方や事例をさらに深く話してくれた。
もはや伝説の人物であるR/GAの創設者ボブ・グリーンバーグ氏は、自らの体験を通じて、とにかく早く変革を起こすことの重要性を語ってくれた。R/GAは元々、映画やテレビCMの制作会社だったが、CGのシリコングラフィック社に参画し、さらにインターネットが立ち上がる時期に、ネットスケープを立ち上げたジム・クラーク氏の影響もあって、デジタルマーケティングに25年以上前から取り組んできた。
そして、現在は大手コンサルティング会社が苦手なデジタルを通じた、ビジネストランスフォーメーションに踏み込んでいると語ってくれた。常に自らのビジネスモデルを破壊して、新しい方向に舵を切っているのである。
さらに、バリー・ワックスマン氏は、Walmart(ウォルマート)への戦略コンサルティングの話をしてくれた。米国ではAmazonを脅かしているのは、なんとウォルマートであり、その戦略をR/GAがつくったというのである。そして現在は、ウォルマートの逆襲に対して、AmazonがリテールのWholeFoodsを買収で対抗しているということである。
参考:http://fortune.com/2018/05/22/amazon-whole-foods-walmart-grocery/
ワックスマン氏によると、元々ウォルマートの価値であった「to save people money so they can live better(金銭的な負担を減らし、人々の生活を向上する)」の中でも「save money(金銭的負担減)」の部分にフォーカスしすぎて、「live better(生活の向上)」に取り組めていなかったことに気が付いたという。
ウォルマートが創業した1962年、インターネット以前の生活では物が豊かでなかったので、より多くのものを手にするためには”お金“が”生活の向上“に必要であったが、それがインターネットを含むICT技術が向上し、情報が溢れる現在では「時間や手間の短縮」が「生活の向上」のために必要になっており、この部分に着目していなかった。
そのため、「live better」を再定義して、「We help Walmart fit in your busy life, not let your life revolve around Walmart.(ウォルマートのために生活してもらうのではなくあなたの忙しい生活の中にウォルマートが自然に存在できるようにする)」というコンセプトを作成。そして、それを図るための「Speed(速さ)」や「Simplicity(シンプルさ)」といった定量的な指標、「Visibility(可視性)」や「Felxibility(柔軟性)」といった定性的な指標を定義して、それらに当てはまらない施策はことごとくカットした。
逆に、それらにフィットする施策を次から次へ取り入れ、写真にあるような、オンライン注文を受け取るだけの「Curbside Pickup(オンライン注文で決済が済んでおりピックアップするだけのドライブスルー)」「Scan and Go(欲しいものをアプリでスキャンするだけで決済が完了する仕組み)」「Endless Aisle (お店に在庫がないものも店内でオンライン注文し届けてもらえる施策)」などを導入して、大きな成果を出しているのである。
Amazonの脅威にさらされた小売業の株価推移を次に比較しているが、2016年以降手を打ってきているウォルマートに対して、変革が遅れた米国・シアーズは徐々に業績を下げ続け破産法の申請を余儀なくされているのである。
参考:米シアーズ、破産法の適用申請-オンライン販売に顧客奪われ
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-10-15/PGMJME6JTSED01