Web Summit 2025 現地レポート #3
Microsoft、Uberなど先進企業によって現実化する「AI前提の社会・産業」:欧州最大規模のテックカンファレンス「Web Summit 2025」レポート【電通 森直樹】
AIは社会基盤・産業基盤へ:Qualcomm、Microsoft、UberそしてBoston Dynamicsが語る未来
Web Summit 2025現地レポート最終回は、AIとテクノロジーに焦点を当てる。
モバイル通信技術関連企業のQualcommはAIを「新たなUI」と位置づけ、Microsoftは「AI格差」について触れた。さらに、Uberはロボタクシーの商用化に挑み、ロボットの研究開発を手がけるBoston Dynamicsは多様なタスクを学ぶ次世代ロボットの現在地を提示した。
AIがUX(ユーザー体験)を再構築し、都市交通や産業を変革しつつある。AIからロボティクスまで、テクノロジーの進展と産業や社会への影響についてビックテックによるプレゼンテーションを中心にレポートする。
Qualcommが宣言、「AIは新しいUIである」
モバイル通信技術関連企業 QualcommのCEOである、Cristiano Amon氏が基調講演「Human-centered design in the age of AI(AI時代の人間中心設計)」に登壇した。
Amon氏は、「AIは新しいUI(ユーザーインターフェース)である」と宣言した。講演では、人とコンピュータとのインタラクションがキーボード、マウス、タッチ操作を経てきた歴史を踏まえ、AIによって「ユーザー側が学習しなくても、機械が人間を理解する」時代へ移行していると強調した。それは、AIが人の言語・視覚・音声を理解することで、OSやアプリケーションの構造そのものが再設計されることにつながるという。
このトレンドは、現在のアプリ中心の世界から「AIエージェント中心の世界」へと移行することを示しているという。つまり、ユーザー自身がアプリ(サービス)を選択するのではなく、意図をAIエージェントに伝えれば、エージェントが必要なサービスと連携し、必要な処理や手続きを完結させる世界が訪れるという。それは、スマートフォンの役割の変化にも影響を与え、スマートメガネ・スマートイヤホン・スマートウォッチなどのウェアラブル機器が「パーソナルAIデバイス」へと進化し、AIエージェントに接続されることで新しいモバイル体験が生まれるという。
また同氏は、AI処理がクラウドからエッジへと分散処理されることで、エッジデバイス側の重要性が飛躍的に高まる(※注1)点を強調した。次世代通信 6Gの設計思想もAIを前提とし、センサーによる様々な環境センシングなどを通じてAIエージェントの文脈理解を高めるという。
※注1
これまではAIの重い計算はクラウド(データセンター)で行うのが主流だったが、今後はスマートフォンなどの機器(エッジデバイス)側でもAI処理を行うようになっていく。AI処理をエッジ側で行うと、反応が速くなる、プライバシー保護に強くなるなどの効果が期待でき、端末自体の役割や価値が大きくなると言える。
Qualcommは講演を通して、AIが人間中心デザインを根底から書き換え、デバイス・OS・アプリの概念を再定義する可能性を示した。AI半導体市場を牽引するNVIDIAも言っているが、これからは「エッジAI」(スマートフォンやカメラなどの端末に直接AIを搭載し、クラウドを経由せずに端末側でデータ処理を行う技術)の時代が訪れることは間違いないと筆者は考える。
Microsoftが提言、AI拡大の「責任ある加速」
Microsoftからは、Vice Chair and PresidentのBrad Smith氏が登壇した。Smith氏は、AI時代を「特別ではないが極めて重要な転換点」と位置付け、人類が直面する課題と向き合いながらAIを普及させる必要性を説いた。
Microsoftは、世界ではAI利用が国や地域間で大きくバラついており、AIの恩恵を受ける地域と受けられない地域の間に「AI divide(AI格差)」がすでに顕在化していると指摘した。電力、インターネット、デジタルスキルの不足によって、39億人がAI活用の入り口にも立てていない現状であるという。さらに、都市と地方でもAI活用の格差が確認され、ほぼすべての国のAI利用において、都市部が地方を大きく上回っているという。この格差を是正するためには、「技術」「人材育成」「信頼」の三要素を結合させる必要があると述べ、とりわけAI利用を広げる「需要の創出」が重要であると語った。
さらに、AIの「信頼」に触れ、各国・各地域の価値観や法を尊重し、AIが各地域の文化・言語を理解する必要性に言及した。例えば、AIモデルの学習データが英語に偏る問題を例に挙げ、AIは多言語と各国の文化に根ざしたコンテンツ・コンテキストを理解できるよう取り組む姿勢を示した。
最後に、「AIを倫理的に構築することは法律以前の問題であり、企業が自ら進めるべき責務である」と語り、技術の進展より先に社会が「問い」を立てる重要性を強調して締めくくった。




メルマガ登録















