CES 2026 現地レポート #02

SamsungとLGが提唱する「暮らしに溶け込む」次世代AI体験とは? 「CES 2026」現地から詳細レポート【電通 森直樹】

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世界最大級のテクノロジー見本市「CES 2026」の注目トピックは? 現地ラスベガスから最速詳細レポート【電通 森直樹】

AIは「機能」から「暮らしの相棒」に。SamsungとLGが示す最新AIライフスタイル


 「CES 2026」現地レポート第2弾は、米国家電市場をリードするSamsungとLGのMedia Dayプレスカンファレンスからお届けする。両社は毎年、CESにおいて新しい価値を提示しており、スマートフォン、スマートホーム、IoT家電、自動車、あらゆる産業と接続する、もはや「家電」とは呼べないテクノロジーによる「新しい生活者の体験」を発信し続けてきた。2026年はAIのエコシステムを取り込み、さらにヒューマンロボットの可能性を示唆。SamsungとLGが現時点における最大限のAI活用を取り込んだ、新たなライフスタイルをレポートする。
 

Samsungは「AI Living」を支えるマルチデバイス・プラットフォームを展開


 Samsungは自社のAI戦略を「AI Living」と定義し、AIを「Companion(相棒)」として位置づけた。スマートフォン、テレビ、家電、ウェアラブル、ディスプレイなど、年間約5億台を出荷するデバイスポートフォリオを前提に、AIをすべての製品とサービスに横断的に組み込む「One Samsung」戦略を強調した。

 核となるのは、Samsungのスマートホームプラットフォーム基盤であるSmart Thingsを軸としたマルチデバイス連携と、on-device AI(端末内AI)とcloud AI(クラウドAI)の併用による分散型の知能設計であるという。テレビでは「Vision AI Companion」を通じて、AIドリブンな視聴体験を実現。テレビで見た料理のレシピを生成AIが提案して冷蔵庫へ送信できるほか、料理動画がレシピの手順書に変換(生成)される様子が紹介された。

 冷蔵庫内の食材から献立を提案する機能も備え、日々の料理をスマートに支援する。冷蔵庫や洗濯機を単体で完結する存在ではなく、家庭内データを蓄積・活用する「Home Companion」として再定義した。この他、Samsungは自社のセキュリティ基盤であるKnoxおよびKnox Matrixによるセキュリティとプライバシー保護を繰り返し強調。AI体験の拡張と同時に、信頼性とガバナンスをブランド価値の中核に据える姿勢が明確だった。

  
Samsungのデバイスエクスペリエンス部門責任者兼CEOであるTM Roh氏。冒頭、同社のAI分野におけるリーダーシップについて説明し、AI対応の広大なコネクテッドエコシステムにより、Samsungが日常生活における真の「AI Companion」と、それによる新しい体験をユーザーに提供できる可能性を語った。
 
  
Samsungが掲げたCES 2026における中核メッセージは「AIはどこでも、誰にでも」。AIを特定の製品や機能に閉じず、生活のあらゆる瞬間に行き渡らせるという「AI Living」構想を発表した。
 
  
テレビを起点とした「Vision AI Companion」は、映像体験のパーソナライゼーション。視聴を個人文脈で理解し、日常行動と連動する「エンターテインメントの相棒」として再定義した。
 
  
「Vision AI Companion」が視聴中の文脈やユーザーのライフスタイルを理解し、食・健康と連動したレシピを提案。さらにテレビが冷蔵庫など他のデバイスと連携する体験のデモを行った。
 
  
冷蔵庫の「AI Vision」にGoogle Geminiを組み込み、食材認識・在庫管理・レシピ連携を高度化。家電を「考える存在」へと進化させる技術基盤を示した。
 
  
冷蔵庫内の食材を自動認識・管理する「Intelligent stock management」。家庭内データを活用し、買い物や食事計画を支援する「Home Companion」の具体例を示した。
 

LGは家事負担ゼロの「Zero Labor Home」を提唱。家事支援ロボットと連携する未来も


 LGは「Affectionate Intelligence(人に寄り添う知能)」と「Zero Labor Home」を提唱した。AIを「理解し、気遣う存在」として定義し、家事の身体的・精神的負荷を軽減することを明確なゴールとして示した。

 LGの「AI Home」構想では、家電、テレビ、ロボットが単体で高度化するのではなく、LGのコネクテッド基盤であるThinQ On/ThinQ Up/ThinQ Careといったプラットフォームを通じて連携する。AIテレビではWebOSを基盤にGoogle GeminiやMicrosoft Copilotと連携し、視聴体験がよりパーソナライズされる。キッチンでは、LG Signature シリーズがLLM(大規模言語モデル)を活用し、食材の保存・調理・レシピ提案までを一貫して支援することができるという。

 さらにLGは、人々の生活を理解しケアする「共感型インテリジェンス」を体現する家庭用ロボット「Cloyd(クロイド)」を発表した。家事負担を解消する「家事ゼロの家(Zero Labor Home)」を目指す自律型エージェントだといい、濡れたタオルを受け取って洗濯を行う、食後の食器の片付け、トーストの調理といった物理的な家事を代行する様子が紹介された。AIとロボットは前面に出る存在ではなく、生活の流れを止めない「ambient care(環境的ケア)」を実現する存在となるという。
LG ThinQを中心に、家電・テレビ・サービスを横断するHome Ecosystemの全体像を提示。webOSを含むプラットフォーム連携が「AI Home」の基盤であることを明示した。
 
家庭向けロボットを「Home Specialized Agent」と定義。汎用ロボットではなく、生活空間に特化して学習・行動する存在だという。
 
LGのロボティクス事業の軌跡を紹介。住宅用家電ロボットから、産業・サービス・空間駆動型ロボットまでを段階的に示した。LGがロボティクス事業を長期事業として捉えていることを示す。
 
Google Geminiを活用した生成AI体験を、テレビ上で展開すると発表。検索や操作ではなく「想像・創作」を起点としたAI体験を生活空間に持ち込むという。
 
Secure Data Storage、User Authenticationなど、AI体験を支えるセキュリティ構成を紹介。Samsungと同様に、家電がエッジAI化してパーソナライズされることで、安全性と両立するセキュリティが重要テーマであることを強調した。
 
 
オーブンに搭載されたGourmet AIのデモ。カメラとAIによって料理を認識し、最適な加熱・調理モードを自動提案している。
 
LGが示した「AI Home」は家電とロボットが連携し、家庭内での作業や意思決定を支援する存在としてAIを位置づけた。AIは操作対象ではなく、生活を理解するエージェントになる。
 
洗濯機や収納、ロボットを一体化した住空間の提示。LGは家電単体ではなく、空間全体をAIで設計する思想を明確にし、「Zero Labor Home」というビジョンを掲げた。
 
 
LGは業務・産業用ロボットにおいて7年以上の実績を持ち、家庭向けロボット構想は既存の商業・産業分野の知見に基づいている。ロボットや自動化機器の中核部品である「LG Actuators」を紹介し、長年にわたるロボティクスへの取り組みの成果を垣間見せた。LGが家電メーカーにとどまらず、ロボティクスの基盤技術を自社で保有・展開する姿勢を強調した。
 
LGのロボットは「Preparing Food」「Washing Dishes」「Doing Laundry」など、生活行動に特化した実用的エージェントなることを目指すという。
 
レストラン、オフィス、物流倉庫などでの活用事例。LGはロボットが単一用途ではなく、複数産業への横断展開が可能な「プラットフォーム」になることを強調した。
 
ThinQ UPによるソフトウェア更新モデル。購入後も機能が進化する家電として、ハードウェア売切り型モデルから、継続的価値提供モデルへの転換を示している。
 
AIを「Experience Architect(体験設計者)」と定義。判断や操作を代替する存在ではなく、ユーザー体験全体を設計・最適化する役割を担う。
 
モビリティ事業についてもプレゼンテーション。モビリティ空間でのパーソナライズ体験を紹介した。ディスプレイや音声、コンテンツが連動し、移動時間そのものを体験価値として再構築する構想が示された。
 
モビリティにおいて家庭内(AI Home)で蓄積された体験データやパーソナライズ機能が、モビリティ空間へと連続的に引き継がれる世界観を構想。家・移動・都市を分断せず、webOSとAIを基盤に、体験を横断的につなぐという。
 

両社が築いてきたプラットフォームとエコシステムの構想が、生成AIの進展によって現実の商品に昇華


 SamsungとLGに共通するのは、AIを単なる差別化機能ではなく、エコシステムとプラットフォームを前提とした「体験設計の基盤」として扱っている点である。プロダクト訴求ではなく「どう使われ続けるか」「どう生活に組み込まれるか」を価値の中心に置いている。「CES 2026」は、AI時代の競争優位が「機能の優劣」から「体験の設計力」と、そのための基盤としての「プラットフォーム」にあることを示したと、筆者は考える。

   
森 直樹 氏
株式会社電通
ビジネストランスフォーメーション・クリエイティブセンター
エクスペリエンス・デザイン部長/クリエイティブディレクター

光学機器のマーケティング、市場調査会社、ネット系ベンチャーなど経て2009年電通入社。米デザインコンサルティングファームであるfrog社との協業及び国内企業への事業展開、デジタル&テクノロジーによる事業およびイノベーション支援を手がける。2023年まで公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構の幹事(モバイル委員長)を務める。著書に「モバイルシフト」(アスキー・メディアワークス、共著)など。ADFEST(INTERACTIVE Silver他)、Spikes Asia(PR グランプリ)、グッドデザイン賞など受賞。ad:tech Tokyo公式スピーカー他、講演多数。CESでは、ライフワークとして各種メディアに10年以上の寄稿経験がある。

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