昔に比べて短くなった感があるが、だからこそ貴重に思える「秋」。AGENDA Note.では恒例の読書企画として、ビジネスパーソンにトップマーケターが勧めたい本をご紹介する。今年のテーマは「視野が広がった、視座が上がった、視点が増えた1冊」。過ごしやすい季節を最大限活用して、自らの成長につながるお気に入りの本を見つけてみてほしい。
 

キンドリルジャパン Vice President, CMO 加藤希尊氏


世界のトップマーケターだけが知っている「12の成功法則」
トーマス・バルタ (著)パトリック・バーワイズ (著)田中恵理香 (翻訳)、日経BP
 

 マーケターとして日々施策を遂行する私たちは、企業の事業成長にとって欠かせない存在になれているでしょうか?

 キャンペーンを展開し、ブランドを育て、デジタルで顧客体験を進化させるーーそれは確かに重要ですが、経営層が本当に求めているのは「事業を動かすマーケター」、つまりリーダーとしての力です。

 本書は、マーケターの成長を導くリーダーシップ書であり、同時に「マーケターのためのコーチング書」とも言えるでしょう。著者のトーマス・バルタ氏は、日用品大手キンバリー・クラークでマーケティングディレクターを務めた後、マッキンゼーの欧州パートナーとして企業変革をリードしてきました。現在はマーケティングアカデミーUSでCMOフェローシップを統括し、世界6万8000人以上のマーケターを分析。その調査から、成功するマーケティングリーダーには3つの真実があることを明らかにしています。
 
  • 1つ目は、顧客と自社のニーズが交わる「Value Creation Zone(Vゾーン)」で価値を生み出すこと。
  • 2つ目は、成果を導く「12の行動様式(12 Powers)」を実践すること。これは経営層・同僚・チーム・そして自分自身を動かす力を体系化した、リーダーシップの実践モデルです。
  • 3つ目は、リーダーは「生まれる」のではなく「育てられる」存在であるということ。これは膨大なデータが裏付ける事実です。

 さらに本書では、米国や日本企業の豊富な事例が紹介されており、理論だけでなく現場の実践にもつながる構成になっています。マーケターとして成長を望む方、またチームを導く立場にある方にとって、リーダーシップを再定義するきっかけとなる1冊です。

 皆さんは、マーケターとして成長するためにコーチングを受けたことがありますか?
 私自身、バルタ氏と直接お会いし、その知見の深さと温かさに触れ、マーケティング施策を超えて「経営を動かす力」としての自分の在り方を見つめ直す時間となりました。

 日々の施策の実行を超えて、経営に価値を届けるマーケターへ。
 マーケティングを「経営を変える力」へ進化させたいすべての人に、ぜひ読んでいただきたい1冊です。
 

グラニフ 代表取締役社長 CEO 村田昭彦氏


良い戦略、悪い戦略
リチャード・P・ルメルト(著)村井章子(翻訳)、日本経済新聞出版
 

 20代の頃、自社に「戦略がない」という感覚を強く抱いたことをきっかけに、数多くの戦略書を読み漁りました。その中で最も本質的だと感じたのが、本書『良い戦略、悪い戦略』です。

 ルメルトは戦略を「重大な課題を見抜き、それを突破するために資源を集中させる一連の行動」と定義し、ミッションやパーパスといったスローガン的なステートメントづくりに時間を費やすことを「無駄」と切り捨てます。

 彼が提示する戦略の構造はシンプルで、① 診断(何が本当の課題かを見抜く)、② 指針(課題をどう解くかの基本方針を定める)、③ 一貫した行動(方針を実現するための具体的行動を取る)の三段階から成り立ちます。

 あわせて読むべき1冊として、A.G.ラフリーとロジャー・L・マーティンによる『Playing to Win: How Strategy Really Works』(邦訳は『P&G式 「勝つために戦う」戦略』、パンローリング)を挙げたいと思います。こちらでは戦略を「どこで戦い、どう勝つかという一連の選択」と定義しており、戦略を「設計」するための実践的な視点が得られます。

 著者も出自も異なる2冊ですが、戦略の本質において驚くほど共通しています。共通するキーワードは「選択」「焦点」「一貫性」、すなわち意思決定の重要性です。経営に携わる者にとって、「何を選び、何を捨てるのか」という本質的な問いを突きつけてくれる、極めて示唆に富んだ良書だと思います。

※編集部注:記事内で紹介した書籍をリンク先で購入すると、売上の一部がアジェンダノートに還元されることがあります。