最初から全社を巻き込む体制のフジトラ
石戸 FujiTubeは、社内広報のための活動ですよね。こうした取り組みは広報部が行うことが多いのではないかと思います。広報部とも、連携しているのですか。
福田 はい、広報とも連携しています。
石戸 組織間でどのように協業しているのでしょうか。
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福田 フジトラのステアリングコミッティ(運営委員会)には、経営会議メンバーの大半が加わっており、その推進部門であるCEO室に変革マネジメントオフィスを設けているのですが、社内の主要な部門や主要なグループ会社、海外法人ごとに「DX Officer」という役割の人を合計60人ほど置いています。あらゆる部門を巻き込む体制をつくっており、広報も含まれるので、関係する案件は広報部門のDX Officerと連携しています。
また、各部門でフジトラを推進するために、各部門の役員や部門長とDX Officer、そして私の三者で面談する時間を四半期に1回設けています。社内のあらゆるデータをもとに様々なことを話し合い、各部門での変革を推進・サポートしています。
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石戸 社内のデータは、どのように取得しているのでしょうか。
福田 たとえば、社員の声を調査するためにSaaSソリューションのサーベイプラットフォーム「クアルトリクス」を導入しており、年間1,000回以上の大小様々なサーベイを実施しています。積極的に社員の声を収集し分析することで、具体的な意見や課題を把握できます。
例えば、「トップダウンの施策だけでなく、ボトムアップの施策も含めてバランスをとったほうがいい」、「富士通の考える方針がグループ会社に展開される中で曲解されている」などです。このように社員の声を拾ったり、数値化して、様々なアクションに結びつけています。
社内のデータは、ほかにも業務プロセスを可視化するプロセスマイニングやBI(ビジネスインテリジェンス)ツール、様々な業務システムや社内SNSなどからも収集しています。
石戸 なるほど、そうしたデータをもとにDXを推進しているのですね。このような体制は、フジトラを発足した当初からあったのでしょうか。
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福田 はい、当初からこの体制で取り組んでいます。日本企業で変革がうまくいかない理由の1つとして「経路依存性」に注目しています。これは入山章栄さん(早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール教授)が提唱しており、制度や仕組みが過去の経緯や歴史に縛られる現象のことを指します。
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日本企業には、高度経済成長期である戦後約20年間の勝利の方程式が根強く残っています。当時は、年功序列の人事制度や、上司が言ったことを絶対とする社内カルチャーが、うまく機能したわけですが、時代が変わったにもかかわらず、自分たち自身が作り上げた古い制度やルール・カルチャー・組織構造を壊せていないのは、大きな課題です。
これを解決するためには、一部ではなく、全体の仕組みを一気に変えることが近道です。そこで、役割を横断した多くの役員にもDXに関わってもらいつつ、トップダウンだけでなく現場の社員を巻き込むために、社内SNSを活性化させ、そこに変革コミュニティをつくりました。「フジトラパーク」という変革コミュニティには現在約9000人の社員が参加しており、とてもアクティブに動いています。
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石戸 それはすごいですね。先ほど「経路依存性」という話がありましたが、老舗企業では、社長が変革したいと思っていても長く勤めている中間管理職にその気がなく、結局は現場が動かない、あるいは現場や中間管理職が無意識にこれまで通りの判断基準や仕事を続けて変革が進みづらいというケースが多く見られます。福田さんは、そういった組織をどのようにほぐしていったのですか。
福田 最初に手掛けたのは、「Purpose Carving(パーパス・カービング)」です。Purpose Carvingとは、社員一人ひとりのパーパスを彫りだし、言葉にする対話プログラムです。これを全社活動として行い、自分が富士通で何を成し遂げたいかを約12万4000人いる社員全員に言語化してもらいました。この取り組みは外部でも評価され、2022年の日本の人事部「HRアワード2022」にて企業人事部門の優秀賞にも選ばれました。
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石戸 本当に素晴らしい取り組みですね。
福田 Purpose Carvingの一番手として時田隆仁(代表取締役社長 CEO)に取り組んでもらい、その様子も公開しました。ちなみに、私のパーパスは「日本を、世界を、もっと元気に!」です。私は、このパーパスのために仕事をしているし、富士通のように日本の大きな老舗企業が変わったり、元気になることで、他の日本企業にも参考にしていただき、日本全体をもっと元気にすることに少しでも貢献したいと考えています。
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私が管掌しているIT部門では、チームのみんなでパーパスを社内SNSで共有してコメントし合っています。私も時間があるときにそれらを読んで、いいねを付けたり、コメントしたりしています。社員は「役員が本当に見てくれているんだな」と思ってくれるでしょうし、私もカルチャーや価値観に関するメッセージ発信の場として活用できます。
※後編「富士通の全社DXプロジェクト「フジトラ」、実現した先に見据える未来【執行役員 EVP・CDXO・CIO福田譲】」に続く