AI時代に求められるマーケターとは?
―― 冒頭で、欧米のB2Bマーケターが不景気とAIに押されて職を失っていると仰いました。AIによる代替はB2C、B2Bを問わず避けられない流れなのでしょうか。その場合、人間のマーケターに求められる役割は何でしょうか。
欧米企業を中心に、メールもランディングページも今やAIが書いているので、マーケターはそんなに必要ないという企業が増えています。この変化は加速していると思います。
3~4年前、よく米国のマーケターと「What kind of marketer can survive in AI era?」とブラックジョークを言っていました。「Nobody.」がお決まりのオチだったんですが、実際、今の米国では少し別の現象が起こっています。オペレーションは人件費の安い外注か、やはりAIに任せて、企業のマーケターは「ちゃんと戦略を語れるようになろう」という動きが出ています。
これまではカンファレンスに出席すると、テクノロジーの話題だらけでしたが、今、ドラッカーやコトラー、レジス・マッケンナといった、いわゆる古典的なマーケティングの理論へと原点回帰が起こっています。マーケターが生き残る道。それはもはや作業ではなく、戦略しかないということです。AIでプロンプトを書くのもそうですが、プロンプトよりも上流の「何がしたいか?」という原点的な問いは、人間にしか生み出せません。
―― 生成AIやテクノロジーが事業の中枢に置き換えられつつある一方で、マーケターが理論に回帰しているというのは興味深いですね。
この傾向は私にとって喜ばしいことです。たとえばSEOマーケティングで言うSEOはサーチエンジンオプティマイゼーション。サーチエンジンとはつまりGoogleですね。その影響力を考えれば全否定することはできませんが、Googleのアルゴリズムをウォッチすること、それはマーケティングでしょうか。マーケティングはもっと大きな可能性を持っているはずではないか。その意味でも、原点的な問いを生み出せる力を磨こうという動きには共感しています。
―― 著書『儲けの科学』(日経BP)では「自由度を認めてはいけないものが戦略、自由度を認めなくてはいけないものが戦術」と書いておられました。多くの実務家マーケターは「戦術」に向き合う必要が迫っていると思いますが、どう対処したらいいでしょうか。
外資系企業のマーケターがよく失敗するのは、グローバルの戦略をそのまま日本に持ってくることです。これは米国本社は喜びますが、マーケットが違う日本では成功しません。市場に合わせたカスタマイズが必要で、重要なのは「戦術」に与えられた自由度をきちんと行使することです。
そのためには、可能であれば日本の文化を理解した日本人マーケターがCMOに就くことが望ましいですが、日本市場独自の戦術についてグローバルに説明する際、つまずきがちです。英語力の問題だけでなく、日本の市場と意思決定プロセスの現状、グローバルの戦略も踏まえてロジカルに説明しなければなりません。それには理論的な基盤が必要です。
今は外資系企業について話しましたが、これからの日本企業に求められることも基本的に同じです。戦略と戦術の違いを理解し、マーケットを見て戦術に落とし込み、それをロジカルに説明する。そのために今、マーケターにはものすごく勉強が必要なのです。フレームワーク、ナレッジ、ツール、データ、クリエイティブ。勉強しなければいけないことは山ほどあるのですが、日本人のマーケターは勉強が足りません。
―― 実務に追われて手が回らない、という人は多そうですね…。
B2B企業のマーケターで多いのは、展示会に追われて多忙という状況です。しかし、展示会に由来して売上に繋がった案件は何件あるでしょう? ROMI(マーケティングの投資利益率)をレポートで報告できますか。展示会でリードを集め、そこから何件のMQL、SQLが生み出せたか。たとえば「昨年の売上の7.8%はマーケティング由来で、予算3億円で78億円を稼ぎました」と報告できれば、翌年は5億円の予算を要求できるかもしれません。しかし、売上貢献していないなら予算は2億円でいい、となるでしょう。
B2Bマーケティングは売上をつくることばかり重視するのが良くない、という意見がありますが、私は逆だと考えています。日本のB2Bマーケターは売上を意識しなさ過ぎるんです。B2Cと違って、投資効果がきちんと可視化できるはずで、だからこそ売上貢献を意識しないと「金を使っているだけ」と判断されてしまいます。
効果を可視化しようとすると、営業や販売代理店とのやり取りも増えますから、正直、面倒です。でも、そこから逃げてはダメです。海外や日本に来る外資系のマーケターはそんな厳しい世界で日々クビになったり、出世したりして戦っています。彼らと戦うなら、楽しくお金を使うだけでサバイブできるわけはないのです。
―― AIに代替されない人材になるために、市場で勝つために何が必要か。B2Bマーケティングに限らず、身の引き締まるお話をいただきました。本日はありがとうございました。
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