自分たちがおもしろければいい


萩原 最近、弊社では米山さんがおっしゃっている右脳と左脳の考え方を「螺旋」と言っています。それも両軸を行き来してぐるぐる回りながら上っていくというイメージなのですが、それもスイッチと同じことですよね。

米山 そうですね。私が言っているのも、本当に伝えたいメッセージが伝わっているのかということと、人の興味を引くかということを行ったり来たりしなさいということです。萩原さんの言う、螺旋と同じ意味合いですね。

「おもしろくする」と逆に「言いたかったこと」があまり伝わらなかったり、だからと言って伝えたいことに特化すると、説明臭くておもしろさがなくなったりしてしまいます。その両方を行ったり来たりすることがすごく大事だと思っています。
  

萩原 そうですよね。みんなそこを切り分けて、今回はおもしろさね、今回は説明ね、とやってしまいがちだと思いますが、そこを妥協せずにひとつにしようと取り組まれているんですね。

米山 もう口癖ですよね。すべてやりなさいと(笑)。

萩原 それがおもしろいCMの所以ですね。米山さんにとって「おもしろさ」とは、何だと思われますか。

米山 最近、それがすごく整理できてきた気がしています。単に、開き直っているだけなのかもしれませんが、「自分たちがおもしろければいい」と思っています(笑)。日清食品のテレビCMには、世に知られていないおもしろいことがたくさんあり、ちょこちょこと遊びを加えているんですが、案外気づかれなかったりしています。でも、根底では自分たちがおもしろければ、まあいいかと思っています。

萩原 なるほど。自分たちの感覚を信じていらっしゃる。

米山 もちろん消費者のインサイトやターゲットの嗜好といったことも考えますし、盛り込もうとしますが、最終的には「やっぱり、これがいい」と思う、野生の勘みたいなものもあります。さまざまな調査もしますが、「調査の結果は一旦置いといて、こっちのおもしろいほうでいこう」と平気で言う会社なんです(笑)。

萩原 そうですね(笑)。でも一貫して自分たちがおもしろいと感じることに取り組んでいるんですね。最近、とある企業の経営者から、新商品に関して市場調査をしてみるが、あえて一番は選ばないという話を聞きました。

米山 それと似た考え方で、自分たちの中の一番を選べばいいと思っています。

たとえば、当社のある商品に対して3つの広告があったとして、私たちが選ぶ「これが一番いい」と思うものを、他社の宣伝部の方はきっと選ばれないと思います。ただ、私たちが選ばなかった別の広告も「おもしろい」と言ってくれる。その感覚は、大事にしたいと感じています。

結局、商品も広告もプロダクトアウト的な部分がどこかにはあるので、当然マーケティング的なアプローチにはきちんと取り組んでいます。でも、最後の最後、ギリギリのところで「自分たちの中の一番を選ぶ」という感覚を大切にしたいという気持ちがあります。
  

※後編 「オール良し」は受け入れられない。日清食品のカオスなテレビCMに隠された論理とおもしろさ【日清食品ホールディングス 宣伝部長 米山慎一郎氏】 へ続く