小売の未来は「ニューリテール」にある #03
新たに提示された「ニューリテール」の課題、日本の小売業はどのような世界を描くのか
「ニューリテール」の革新性はどこにある?
2018年に出版された小島健輔氏の書籍『店は生き残れるか』は、ポストECを迎えたニューリテールは、次の「リアル店舗」と「EC」それぞれの本質的背景から構築されるべきだと説いている。 店舗販売にとっては
EC にとっては
- EC に比べての初期投資や運営コストの高さ
- 品揃えの物理的制約と品揃えにスライドする不動産コスト
- 在庫の多店舗分散と偏在がもたらす機会ロスと値引きロス
- マテハン作業の負担と接客販売のしわ寄せ
EC にとっては
- 手に取って確かめられない 試せないというリアリティの壁
- 在庫にスライドする倉庫コスト
- 売上にスライドする出荷・配送コストやモール手数料
小島氏によれば、これらの課題は、現在のリアル店舗のチェーンストアの限界が「小売店舗は商品を積み上げて、顧客は欲しいものをピッキングして自ら持ち帰る=販物一体」という購買形態からきており、いまの消費者のライフスタイルの変化に即したECの「販物分離」行動と合わせた利便性の追求が必要だと説く。
この記事でたびたび紹介している劉潤の書籍『新小売革命』の図式で考えると、小島氏のリアル店舗の視点は、特に「物流」に集中していることがわかる(販物一体という語がその理念を示している)。
その点で言えば、前回説明したニューリテールが持つオンラインデータのエンパワーメントによってリアル店舗「物流」における品揃えが最適化されれば、上記の店舗販売の「2」物理的制約、「3」機会ロスは最小限に抑えられるだろう。
逆に、ECの課題は「販物分離」のために、「1」リアリティの壁として語られている。ただし、それは正確に言えばECの物流の「即時性」による、情報流の「体験性」の欠如である。
小島氏の論点は、店舗とECで別々に語られているが、これらが相互補完するようにデザインすることが「ニューリテール」の革新性なのだ。
つまり、上記の7つの課題を正確にペアリングすると、3つの課題解決に要約できるだろう。
1. 「物流」の課題を「情報流」で解決:
2. 「情報流」の課題を「情報流」で解決:
3.「情報流」の課題を「情報流」で解決:
- 店舗の「物流」品揃え制約、店舗&ECの「物流」在庫問題、EC「物流」の出荷配送コスト
- ECの「情報流」による高効率性、ECのリアリティの欠如を店舗が「情報流」の体験性と「物流」即時性で 補完
2. 「情報流」の課題を「情報流」で解決:
- 店舗「情報流」「物流」機会ロス値引きロス
- ECの「情報流」による高効率性、ECの「物流」の広範性
3.「情報流」の課題を「情報流」で解決:
- 店舗「情報流」の運営負担、マテハン作業・接客のしわ寄せ、ECモール出展料
- 「情報流」による高効率性
この要約でもわかる通り、文字通り「物流」の物理的制約を効率化することを店舗側のオペレーションで解決するわけではない。
ECの「物販分離」、つまり販売にともなう「情報」データをどれだけ店舗やECから「人」へ届けるために活用できるか、そしてその「分離」を店舗といっしょにカバーすることが重要なのである。