関西発・地方創生とマーケティング #15
靴下専門店「タビオ」越智社長が語る、メンズにこだわる理由
2019/11/14
マーケティングの仕組みは誰がつくったのか
「おしゃれは足元から」
これって靴のことだと思っていたのですが、実は靴下のことかもしれません。皆さんは、どこで靴下を買っていますか。特に男性の皆さんは、自分で買っていますか。
靴下専門店と言えば、女性用をよく目にしますが、男性用の店はなかなかありません。私が初めて靴下専門店を意識したのは、大阪梅田「Tabio MEN 阪急三番街店」です。「えらくおしゃれな靴下屋さんだなあ」と。
そしてインターネットで検索すると、Webサイトも良い感じで、しかも大阪に本社があるではないですか。ということで、靴下専門店 タビオの越智勝寛社長にマーケティングと経営について、インタビューに伺いました。
越智勝寛社長は、「靴下の神様」と言われる現会長のお父さまの後を受けて、2008年に社長に就任されました。
越智社長は、芸大出身で、後に経営学も学ばれたというご経歴ですから、現在のマーケティングの仕組みは、全て越智社長が構築されたと推測していたのですが、そうではなく会長によるそうです。
1968年の創業当時、タビオは服飾店への卸で商売をしていましたが、80年代にもなると、タビオに店舗の運営が任されるようになりました。そこで、初めて気付いたことがあったそうです。
それは「売れ筋」の色が先に無くなり、「見せ色」の商品が残ってしまうということ。見せ色というのは、売れ筋の商品と一緒に並べて置くことで棚全体を魅力的に見せられる必要不可欠な商品です。当時、商品は「売れ筋カラー」と「見せ色」を組み合わせた10足単位で卸していましたが、「売れ筋カラー」だけが売れていくと、残った商品が売り物になりません。
困り果てた挙句、試行錯誤を繰り返して、生産をお願いしている工場に全データ・情報を渡して、商品を臨機応変に生産してもらう仕組みにしたそうです。そのことで、売れ筋カラーのフォローができるようになり、魅力的な売り場と売上の両立を実現できました。
これは一般的な量販店の販売計画に基づいて生産計画があるのとは真逆で、リアルな売上に対応して、工場自らが糸など素材を仕入れて生産する流れです。言わば、工場の判断に任せる方法です。
ただ、単に「任せる」と言っても、情報を提供するそうです。例えば、ある商品が数日間で大量に売れた場合、その理由は「近くの学校で学芸会があったから」で、流行の兆しではありませんでした。こうした情報を店舗がきちんと把握して工場に伝えます。この仕組み・環境を整えることがタビオの仕事なのです。つまり、工場を持たずに、企画と生産の需給調整をする会社なのです。
タビオでは、SKU(在庫管理のための最小識別単位)管理を完璧にして、ほぼリアルタイムで売上を可視化しています。今でこそシステムを使えば簡単にできますが、80年代には、書店で本の間に挟まっている紙(スリップ)と同じように、靴下から紙を引き抜いて、その数を電話で伝えていたそうです。昔から生産と販売を近づける努力をしてきたのですね。
ここで重要なのは生産を海外に頼るのではなく、すべて国内工場に限定したということ。越智社長曰く、「(モノと情報の物流にどうしても時間が掛かってしまう)海外生産は、クイックレスポンスでもSPA(製造小売業)でもない」と言い切ります。
この仕組みは、会長が創業時から様々な苦労を経て、その都度、解決策を積み重ねて完成したもの。そして、その仕組みをそのまま運用しているのではなく、今でも営業会議などで情報を共有し合い、常に改善を重ねているそうです。