市場創造に挑む~リテール×メーカーによる限界突破~ #02

小売の「価値」を取り戻すために。イオン九州 川村泰平・サントリー 中村直人・グランドデザイン 村尾大介

前回の記事:
実店舗に宿る「市場創造力」とは? イオン九州 川村泰平・サントリー 中村直人・グランドデザイン 村尾大介
リテールとメーカーの連携を促進し、消費者までの一気通貫のマーケティングを目指すカンファレンス「リテールアジェンダ2019」が12月3日、4日に大磯プリンスホテルで開催される。そのカウンシルメンバーの3人が、人口が減少する日本でどうすれば市場創造ができるのか議論した座談会の後編をお届けする。
 

非計画購買“仮説の源泉”

村尾   川村さんのお話を伺っていると、店舗で生まれる仮説と、本部でデータだけを見て立てる仮説に距離を感じます。この距離は何から来ていていると思いますか。それが分かれば、リテールとメーカーが市場創造への距離を縮めるヒントになると思うのですが、いかがでしょうか。

川村  おっしゃる通りで、そこが遠いんですよね。やはり原点は、お客さまだと思っています。目指しているのは、お客さまが「いい情報だね」「気の利いた情報だね」「私っぽいね」と思えることです。それを小売・メーカー・テクノロジーを持つパートナーそれぞれが別々に取り組むのではなく、ワンチームで議論して仮説をつくることが大事だと思います。
川村 泰平
イオン九州 執行役員 営業企画・デジタル本部 本部長
1990年、ダイエー入社。西八王子店長、伊勢原店長、上飯田店長、新浦安店長、東戸塚店長を経て、2013年ダイエー中近畿事業部長、2014年ダイエー西九州事業部長。2015年イオン九州株式会社入社。西福岡事業部長、執行役員西福岡事業部長などを経て、2018年に現職。

村尾  店長がテクノロジーを操り、仮説を組み立てるのはいかがですか?

川村  私たちも店長に求める業務を変えてきていますが、今はそのレベルまでは求めていません。もっと言えば、誰でも店長をできないといけない時代なんです。できれば地域のコミュニティさん(パートタイムの従業員)を店長に抜擢するくらいのことを実現したいんです。

村尾  なるほど、それはおっしゃる通りです。しかし、小売業はデータをお持ちなわけで、これを市場創造および非計画購買につなげる技術として成熟させる必要があると思っています。その源泉が店頭にある一方で、誰でも店長ができなければいけないという、相反する課題に直面します。

中村  私は2面性が必要だと思います。店長にしろ、営業にしろ、会社としての顔を持たなければいけないし、生活者としての顔を持たなければいけません。

でも、どうしても業務に入ると、売り手発想、つまり会社発想になってしまいます。自分が休日に生活者としてスーパーに行った時、どういう買い方をしているか、売り場に対してどういう感想を持っているかという発想がなかなか出てきません。
中村 直人
サントリー酒類 営業推進本部 部長 兼 リテールAI推進チーム シニアリーダー
全国の営業戦略立案及び流通企業とのプラットフォーム構築とデジタル(AI)を活用しての流通革新を統括・推進。これからの国内での流通企業との商売形態を「取引」から「取組」に変えていくためには、両社の共通KPIを「お客さま」とし、 お客さまを理解するためには、ショッパーマーケティングが必須。お客さまがメディアであり、流通がメディアになる時代。新しいサプライチェーンの型(酒プラットフォーム)を構築することを目指している。

川村
  私も同じですね。当社のスタッフも趣味趣向を持って毎日食べているし、飲んでいるし、移動しています。ところが仕事になると、生活者目線で何を求めていて、何が足りなくて、どんな時に少しハッピーになるかが途端に出てこないんですよ。それがずっと悩みのタネです。

それが実現できるとすれば、ある程度、業務の自由度の高い人をつくり、その気付きを教えてもらう場面をつくることでしょうか。感度の高いファッションアクセサリーショップのバイヤーが何をしているかと言うと、渋谷の街で一日座っているんです。それで「こんな帽子かな」「うーん、ショルダーじゃないな、トートだな」と考えています。多分、何々担当や部長という役割や肩書きが関係ない次元で、そういう人が必要だと思っています。

村尾 私たちは一般ユーザーが生活者目線で、店長が担ってきた仮説づくりを引き受けることがひとつの突破口になると考えています。まさに川村さんが実行されてきたお客さまとの対話のデジタルトランフスフォーメーションです。
村尾大介
グランドデザイン 執行役員
Gotcha!mall JAPAN事業 大手印刷会社にて、電子チラシサービスのメディア化戦略の立案・実行を担い、国内最大級の実店舗送客メディアに育成。2014年グランドデザイン株式会社に参画後、買物体験をより楽しく豊かなものにすべく、製造・小売業の取引のデジタルトランスフォーメーションを支えるプラットフォーム“Gotcha!mall”事業をリード。リテール×メーカーの市場創造パートナーとして、嵩上げ売上/利益・非計画購買を実現する独自アルゴリズムの開発、および十分な顧客接点を創出するためのデジタルサービス運営技術を提供している。

川村
  それはいいですね。さらに、私が経験してきたGMS店舗の「現場主任あるある」で言うと、例えば、自分は年に一度の「年越し蕎麦」は信州のこだわりのお蕎麦を食べているとしましょうか。でもね、現場主任は何を頑張るかというと「98円で売れる茹でそばを6千個調達できていない!バイヤーさん、メーカーさん助けて」と奔走しているんですよ。

彼にとっては去年6千個売った商品がとても重要なわけです。わからなくないですよね。でも、自分は信州の銘店のお蕎麦を「ちょっと固め?」とか言いながら家族で食べているんですよ。自分がそうなのにも関わらず、98円の茹でそばを6千個という情熱で仕事をしているわけですね。お客さまに、「年に一度の『年越しそば』を豊かに楽しんでもらいたい。なので少し高いけれど、びっくりするくらい美味しいお蕎麦を品揃えするのだ!」という情熱には、なかなかならない。

「年越しそば」にぴったりの「天ぷら」で言えば、「話題の何とかかき揚げを提供したらどうか!」とはならないんですよね。定番のエビ天なんですよ。しまいには、「ちょっとエビ小さくなりますけど198円(イチキュッパ)でいけますから、今年は!」となりがちなんです。「どこよりもでかいエビ天にしました!だからどこより高いですけれど、お客さまの満足度では負けません!」だと良いのですが。そう提案した上で、198円も用意していますよと小さい声で言えばいいんです。

中村  普段の生活者としての自分に強制的に立ち戻らせる仕組みが、非計画購買仮説の源泉となることは間違いなさそうですね。
 

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