ニュースと体験から読み解くリテール未来像 #17

リニューアルした渋谷PARCOが、最も価値の高い1階に「商品を売らないお店」を出店した理由

渋谷PARCO1階 BOOSTER STUDIOとは


 渋谷PARCOの1階には、物が並んでいるのに販売をしない「BOOSTER STUDIO」という店舗があります。



 パルコとCAMPFIREが共同運営するクラウドファンディング「BOOSTER」と連動し、出品者に小売向け店舗解析サービス「ABEJA Insight for Retail」を利用した店舗内回遊データをフィードバックする仕組みです。以前、こちらの連載で紹介したb8ta(ベータ)と似た仕組みの店舗です。

参考:Googleも出品。知る人ぞ知る、店頭の商品が売れなくても利益が出る米国の注目店舗「b8ta」

 b8taとの違いを挙げると、b8taは一部商品をその場で購入できたり、店内のタブレット端末からEC購入できたりが可能であるのに対し、BOOSTER STUDIOはその場で買うことができません。

 今月上旬に開催されたリテール領域のマーケティングカンファレンス「リテールアジェンダ」でパルコ ソーシャルイノベーション事業部 部長の佐藤貞行さんと登壇する機会があり、その場で「なぜ買うことが完全にできない店舗を1階に置いたのか」と質問しました。
 
「リテールアジェンダ」分科会セッション 買えないお店が急増中! OMO時代の店舗の在り方

 佐藤さん曰く、売る・売らないに関しては、プロジェクトメンバー内での論議がかなりあったそうです。そして協議の結果、売れる状態にすると、どうしても売ることが目的の接客になってしまうので、まずは「あえて売らない」という決断をしたそうです。

 実際に店に行くと、スタッフの接客が「売らんかな」ではないため、高額な超高性能イヤフォンの試聴などを自然に勧めていましたし、来店客も「買えと言われないかな…」というプレッシャーがなく、接客を自然に受け止めていました。

 また、b8taと比べて、完成前の製品展示も多いです。反応を見ながら、製品開発していくこともできるわけです。
 
開発段階の商品

 注目すべきは、クリップで物を挟むと、その物の色を音声で伝えてくれることで、目が見えない方でも物の色や水分の量がわかる「みずいろクリップ」といった商品も展示されていたことです。
 
みずいろクリップ

 テナントに貸せば、最も高い家賃が取れる1階で、パルコが自らソーシャルグッドな商品の啓蒙を行う。ここに、パルコの「リニューアル店舗は、渋谷という場所からメディアとして情報発信する『場』である」というこだわりを強く感じます。

 次回は、中川政七商店旗艦店が渋谷スクランブルスクエアの11階にある理由について書いてみます。
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