ニュースと体験から読み解くリテール未来像 #05
Googleも出品。知る人ぞ知る、店頭の商品が売れなくても利益が出る米国の注目店舗「b8ta」
無人店舗、AI(人工知能)、モバイル決済、新たなテクノロジーが次々とリテール領域に導入されています。また、大手リテール企業の倒産や、ネット企業による店舗チェーン買収も注目を集めています。本コラムでは、そうした国内外のニュースから可能なものは自ら体験しつつ、今後のリテールのあるべき姿と未来像を紹介していきます。今回は、商品が売れなくても利益が出る店舗について、国内外での自身の体験も含めて記載します。
ガジェット好きなユーザーが新テクノロジーを体験
知る人ぞ知る「b8ta」は、米国で直営店を16店舗(3月20日現在)、米国大手ホームセンターのLowe’s店内に約70店舗を展開する企業です。店内には主にスタートアップ企業がつくったハードウェア商品が並んでいます。例えば、Wifiと接続できるフォトフレームや時速40km近くでるスケボー(UBERのキックスケーターや電動自動車のように、都市部に設置されているもの)などが展示されていました。ガジェット好きのアーリーアダプターが試しに来店するという印象です。実店舗で服を試着して、その場では購入できずにネットから購入するショールーミング型店舗については、連載第1回「商品が並んでいるのに、買って帰れない『GU』の新業態を体験してみた」で紹介しました。この「GU」と「b8ta」の違いは、収益構造にあります。
GUの新業態や米bonobosは実店舗で実際に触って、試着して最終的にはECで購入してもらうことで収益を上げるビジネスモデル。したがって、D2C(Direct to Consumer)企業自らが顧客接点の一つとして展開しているということです。
一方で「b8ta」は、陳列している商品をECで購入することもできますし、店舗に在庫のある商品は、その場で購入することもできます。しかし、b8ta自身の売上に店舗での実売は、あまり関係ありません。商品が売れなくてもマネタイズできる新しい業態の店舗なのです。
b8taのミッションは、商品を売ることではなく、「理想的な形で商品を顧客に体験してもらうこと」。実は、店内での顧客体験データを売ることで収益を上げているのです。
b8taのビジネスモデルを解明、仕組みと効果とは
b8taの店には、平台に商品とタブレットが並んでいます。そして、店舗天井に取り付けられたカメラによって、各商品における顧客の滞在時間や属性データを取得しています。取得したデータは、メーカーが専用のダッシュボードで確認できる仕組みになっています。b8taの創設者兼CEOであるVibhu Norby氏がHardwired NYCで講演(2016年9月)した内容によると、出品しているスタートアップ企業はb8taに月1200~2000$を払って、このデータを取得しています。
b8taのダッシュボードに入っているかは不明ですが、当然のことながらタブレットの操作状況(どのページを見た、紹介動画をどこまで見た…)も取得可能です。
例えば、「Wifi搭載フォトフレーム」は、ハードウェアを開発したスタートアップ企業が月額1200ドルで出品しました。この商品における出品中の顧客の総滞在時間は約208分で、一人平均で24.4秒滞在していました。
スライドによると「CPE(Cost Per Engagement)」は、約$0.10ということになります。これはネット広告と比較しての1秒辺りなので、平均滞在時間の24.4秒から月512人が滞在したと仮定すると、一顧客あたりの獲得単価は$2.34ということになります。
これはネット広告と比較して、かなり効果的と考えられます。単にタブレットで商品情報を見るだけでなく、自らの目や手で体験してくれる顧客が250円で獲得できるのです。
マス広告を仕掛ける予算がない、または、テレビやネットでは実現できない体験をこのコストで提供できるのは非常に魅力的です。気軽に買って試せる低単価商品と異なり、数万~数十万円の商品の露出機会として有効と考えます。
さらに、他の商品と比べて店舗での滞在が少なくても、商品が顧客に受け入れられなかったという貴重なデータになり、製品開発フィードバックの場として機能するわけです。例えば、商品の横に設置されているタブレット内のコンテンツや売価のコントロールはネット経由で簡単にできますし、商品のデザインを2パターンつくり週単位で入れ替えて、A/Bテストする使い方も考えられます。
b8taは商品を販売して利益を上げるのではなく、テストマーケティングの「場」としての価値とリアル接点での顧客行動データを販売しているわけです。したがって、普通のショールームや不動産業とも異なるわけです。