ニュースと体験から読み解くリテール未来像 #18

中川政七商店の旗艦店が、渋谷スクランブルスクエア11階にある理由を分析する

前回の記事:
リニューアルした渋谷PARCOが、最も価値の高い1階に「商品を売らないお店」を出店した理由

旗艦店は「日本の工芸の入口」を目指している


 前回の渋谷PARCO に続き、再開発が活発な渋谷において、オリジナリティあふれる店舗がなぜ、その階にあるのかについて考察します。

 「日本の工芸を元気にする!」というビジョンのもと、現代の暮らしに寄り添うものづくりを続けている中川政七商店。日本最大旗艦店となる中川政七商店 渋谷店は「日本の工芸の入り口」をコンセプトに、過去最大となる約130坪のスペースに全国800を超えるメーカーとともにつくり上げた約4000点の商品を並べています。

 私は、こちらの店舗にオープン初日の11月1日から12月中旬までに4回訪問しました。スクランブルスクエアの開店初日は、入場制限がかかる大混雑でしたが、12月に入ってからは渋谷PARCO、渋谷フクラスと立て続けに話題の商業施設が開業したこともあり、スクランブルスクエア全体の客足は、少し落ち着いてきました。

 その中で中川政七商店 旗艦店である渋谷店に行って、お客さんの行動を見ていると1品1品じっくりと商品を眺めている姿が目に付きます。滞在時間が他の店舗よりも長いのです。

 スクランブルスクエアはエレベーターの台数が抑えられており、主動線から外れた場所にあるため、ほとんどの来店客はエスカレーターを使います。そのエスカレーターを上がって11階にたどり着くと…
 
筆者撮影

 まさに「日本の工芸の入口」にたどり着きます。

 その季節に紹介するべき商品が並んでいるのは、普通の光景です。しかし、入口の奥にある平台では、そこに並ぶ商品の成り立ちから製法までを解説しています。同社 取締役の緒方恵氏によると、これは「商品をきっかけに工芸のルーツを知ってもらい、商品そのものに加えて、生産者にも興味を持ってもらいたい」という狙いがあるそうです。



 さらに店内の奥に入ると、中心部には「仝(おどう)」と名付けられたコーナーがあります。全国47都道府県の商品がひとつずつ揃い、自身と所縁のある地域に想いを馳せることができますし、店員が接客するきっかけにもなる空間です。

 おどう、レジが店舗の中心にあり、入口から見て左側には高単価・高利益率のアパレル商材と渋谷店限定グッズを集め、右側に食品、生活雑貨とベストセラー商品である花ふきんが並んでいるという構成です。

 開店時点では、中央売場の左右に暖簾(のれん)が掛かっています。



 この暖簾によって、ブランドを感じつつ中央の「日本の工芸の入口」に視線が集まるわけです。しかしながら、この暖簾によって、左側の渋谷限定商品や右側の花ふきんが目立たなくなっているのも事実。この暖簾は取り外しができるということで、いずれ外す日が来るかもしれません。

 レイアウトは、他にも様々な工夫がなされています。興味のある方は、ぜひ訪店してみてください。百聞は一見にしかずです。一例として、店舗右奥にある水回りの生活雑貨コーナーの床は、タイルでできています。つまり、簡単にレイアウト変更できないわけです。



 それほどに覚悟を決めて本気で考え抜かれた店舗です。

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