関西発・地方創生とマーケティング #20
「マネジメント層に大事なのは、どれだけ優秀な人材を知っているか」ダイキン工業 片山義丈氏
2020/06/15
マーケティング歴33年 「ぴちょんくん」の仕掛け人
今回はダイキン工業の総務部 広告宣伝グループ長 部長をしている、片山義丈さんに話を聞きました。片山さんのことは、関西エリアに限らずマーケティングに関わる人であれば、知らない人はいないのではないか、というぐらいに有名ですよね。私にとって片山さんは同じ大阪に本社を持つ企業に勤め、大学の先輩でもあり、普段から可愛がってもらっている(と思っている)こともあって、いつかこの連載でお話を伺いたいと考えていました。
そんなこともあり、片山さんの動向をチェックしていたのですが、そのなかで前回登場いただいたシャープさんが、首都圏に大雪が降った日に、ダイキンさんがつくった「エアコンの大雪対策」コンテンツを、ダイキンさんに先駆けてツイートで紹介していたということをネタにしている記事がありました。そのときの片山さんのコメントが面白かったことを思い出して、取材をお願いしました。
参考記事:第1部「デジタルマーケティングって本当のところ、どうですか?」ダイキン工業 広告宣伝グループ長 片山義丈氏
ちなみに、いつもの取材は事前にお聞きしたい内容を先方に伝えておくのですが、片山さんの場合、アドリブが効く方なので、今回はあえて事前にお伝えすることなく、オンライン飲みのようにごく自然体で進めてみました。
まず改めて片山さんについて紹介しておくと、片山さんはダイキン工業で広報宣伝を統括されていますが、具体的にはテレビCMなどの広告宣伝とWebサイト、そして広報におけるデジタルを所管されています。
本人いわく、記者クラブへ出入りするような真面目な広報は難しすぎるので担当外(笑)。自分の仕事は、現状は広報部があまり力を入れていないデジタル領域を中心とする不真面目な広報なんだと。ちなみにSNSも自部門でやりたい考えもあるそうですが、人手が足りなくて、現状は別組織の営業部が担当しているそうです。
片山さんは学生時代にアルバイトで三菱電機のエアコンの販売員をしていたこともあり、ダイキン工業に営業志望で入社したものの、最初は総務部宣伝課に配属され、その後は広報部そしてまた宣伝部門へと30年以上マーケティングに携わっているという、日本企業では珍しいキャリアの持ち主です。
宣伝課に配属された当時、上司からは「腐るなよ」と言われたそうで、「え!ここは腐るような部署なのか」と思ったそう。そのときの宣伝課の主な仕事は、カレンダーと会社案内の制作くらいで、テレビCMは営業部隊の販促チームが担当していたそうです。
そして宣伝課時代のインターネット黎明期にデジタルメディアの可能性に気づき、広報部門でPRの価値を知ることで、マス広告などのペイドメディアに加えて、Webサイトなどのオウンドメディア、SNSなどのアーンドメディアという、トリプルメディアをコントロールした統合型のマーケティングコミュニケーションを試行し、今やこれらがダイキンのマーケティングの強みになっていると言います。
そうやって工夫していく中で、ある時、マーケティング部門に転機が訪れたと。それまで業務用、家庭用製品のトータルの売上で見ていた事業収支を、それぞれの事業ごとに見ることになり、特に家庭用エアコンについては消費者への訴求が重視され、テレビCMなどの展開を営業部門からマーケティング部門に意見が求められるようになったそうです。
そして、営業会議に出席して意見を伝えると、それが採用されるようになりました。その理由について、「そのときの営業部門は、マーケティング部門の考えが決して良いとは思わないけれど、自分たちが良いと思うものが、ことごとく効果がなかったから」だそうで、ある意味で賢明な判断ですよね。
その流れを受けて、誕生したのが家庭用ルームエアコンブランド「うるるとさらら」と、ブランドマスコットの「ぴちょんくん」です。
実は取材に先立って、20代女子3人に「ダイキンと聞いて浮かぶのは?」と聞いたところ、口を揃えて「ぴちょんくん」と言っていました。「その認知は、どこから来たのか」と聞くと、テレビCMと大阪・梅田に設置されている「ぴちょんくん」の大型看板だと言うわけです。
そこで、さらにダイキンは何の会社か聞くと、「うーん、空気?」「エアコン?」と自信なげな返事。その話を片山さんにすると、「2/3がぴちょんくんと言ってくれるならデータ通りだけど、3人ともとなるとうれしいですね。ただ、ぴちょんくんも老舗キャラクターに入って、少しパワーが落ちてきたので悩ましいです」と話していました。
次からは、片山さんがなぜ成果を出せてこられたのか、その背景にある考え方をいくつか紹介していきたいと思います。