最新ニュースから読み解く、物流とマーケティング #10

コロナ禍で注文が殺到、オムニチャネル実現の重要キーワード「在庫引当」とは

前回の記事:
コロナ禍で激変した物流現場。感染防止対策の実情と、EC出荷量の変化を追う
 新型コロナウイルスの感染拡大による「巣ごもり消費」特需で活況を呈しているEC事業者がいる反面、注文が殺到したことで出荷困難な状況に陥ったり、トラブル多発で困っていたりする事業者も多く存在する。

 特にリアル店舗で事業を拡大し、その後に後付けのようにEC事業を始めてオムニチャネルに取り組む事業者が重大局面にあると感じる。今回はオムニチャネル物流の重要キーワードである「在庫引当」を解説しよう。
 
 

「実在庫」「引当済在庫」「引当可能在庫」とは?


 ひと言で「在庫」と言っても、そのステイタスによって扱い方が変わる。まずは「在庫引当」という概念を、パンとジャムのECサイトを例に説明しよう。



 左①の状態は実在庫として、ジャムが10点ある状態だ。そこに中央②のジャム2点とパン2点の注文データが入ってきた。実在庫に対して注文データで在庫引当を行うと、10点のジャムのうち、2点が引き当てられることになる。

 ところが、これはパンとジャムのセット注文のため、パンの在庫が足りず、パンが入荷されるまで出荷できない状態③となる。ここで在庫引当をしないまま、翌日に新たに別のジャム10点の注文データを取りこむと、ジャムの実在庫はゼロとなり、パンが入荷されても最初の注文分を出荷できなくなってしまう。

 そのため④では、在庫区分を実在庫10点、引当済在庫2点、引当可能在庫8点と区分して在庫管理するのである。

 この概念を持ってないシステムで、膨大な注文が来た場合に悲劇が起こる。

 在庫引当せずに伝票を発行し、ピッキングに行くと商品(パン)がなく、ジャム1点を箱に入れて現物で在庫引当するケース。みるみる入荷待ちのふた空け状態のダンボールが積み上がり、顧客からの出荷問い合わせでクレームの嵐となる。

 伝票は出さずに注文データで保持した場合も、引当可能在庫の概念がシステムにないと、後から来たジャムの注文データに、パンの入荷待ちのジャムが取られてしまい、いつまでたっても「パンとジャムのセットを注文した顧客」に商品が出荷されない状態が続いてしまう。
 

鹿児島県から欠品クレームが続出した理由


 当社の通販事業の歴史において、“鹿児島 欠品続出事件”として語り継がれている事例がある。

 当時、スクロール(旧社名:ムトウ)は北海道から鹿児島県まで営業所を配置し、全国の婦人会から日々注文をいただいていた。ところがなぜか、鹿児島県の顧客から品切れが多いというクレームが続出し、システムを確認することになった。

 そこで明らかになったのは、受注データの在庫引当順が顧客コードの昇順で行われ、北海道の顧客コードの上2ケタが01で鹿児島が46となっていたことだった。北海道から順調に在庫を当てていく中で、鹿児島県の受注データが在庫引当にいくときに欠品が生じやすくなっていたわけだ。

 この事態が判明した後は日々、引当順を替えることで、クレームが発生しないようにした。

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